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新型コロナ軽症でも後遺症に苦しむ人たち アメリカで7万8千件を調べて見えた実態

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FIOLE ム A long COVID patient in Burr Ridge, Ill., receives physical therapy for some of her symptoms on Oct. 6, 2021. A large new study has analyzed data from private insurance claims in the United States, and the results paint a sobering picture of long COVIDユs serious and ongoing impact on peopleユs health and the American health care system. (Alex Wroblewski/The New York Times)
新型コロナの後遺症で、理学療法の治療を受ける女性患者=2021年10月6日、米イリノイ州バーリッジ、Alex Wroblewski/©2022 The New York Times

「U09.9」。これは新型コロナウイルス感染の後遺症(long COVID=ロング・コビッド)を指す最も簡潔で公平な医療診断コードだ。昨年、感染後の状態を医師たちが記録文書化できるようつくられた。

現在、このコードができてから最初の数カ月分のデータが最新の大規模研究で分析されており、その結果は人びとの健康と米国の医療システムに深刻かつ継続的な影響を及ぼすことを示している。

新型コロナ後遺症は初期感染後、数カ月ないしそれ以上続く可能性があり、長期化、あるいは新たに現れる症状の複雑な集合体である。パンデミック(感染症の大流行)の最も厄介なレガシーの一つになっている。最終的に影響を被る可能性がある人の推定数は感染した成人の10%から30%だが、有病率、原因、治療、症状がもたらす結果については不明な点が多い。

今回の新しい研究によれば、新型コロナの感染初期で症状が軽度か中等度の人や基礎疾患のない人でも、呼吸障害から極度の倦怠(けんたい)感、認知や記憶の問題に至るまで衰弱性の症状をきたす可能性があるというエビデンスが増えてきている。

米国の民間健康保険請求で最大のデータベースと呼ぶものを基に行われた分析では、2021年10月1日から22年1月31日の間に国際疾病分類でコードU09.9と診断されたのは7万8252人で、その大多数が感染初期には入院していなかったことが判明した。

「これが、入院はしなかったが、結果としてこのような障害を発症する人の大きな増加を招いた」とパディ・セントンゴ博士は言っている。米ペンシルベニア州立大学の感染症疫学の助教で、今回の新研究には関与していない。

英ロンドン大学キングスカレッジの臨床学者で医師でもあるクレア・スティーブズ博士は、新研究にかかわっていないが、この研究が特に診断コードの導入から最初の4カ月だけを対象にしたことを考えると、診断を受けた人の総数は「膨大」だと指摘する。これには、Medicaid(メディケイド)ないしMedicare(メディケア)といった政府の医療プログラムの対象者は含まれていない(ただし、民間の健康保険Medicare Advantage=メディケア・アドバンテージ=の対象者は含む)。スティーブズは「それは、実際の数からすれば、大海の一滴でしかない」と言っている。

今回の研究は、医療費と保険の問題に焦点を置く非営利団体「FAIR Health」が行ったもので、患者の76%は、感染初期には入院するほどの病状ではなかったことが判明した。それでも数カ月後、そうした患者たちは新型コロナ後遺症と診断される症状を経験していた。

もう一つの注目すべき結果は、患者の3分の2がそれぞれの医療記録に基礎疾患があったが、3分の1近くはそうではなかったこと。セントンゴは、その比率はもっとずっと多いと考えていたと言う。「こうした人たちは健康だった人たちで、『ねぇ、みんな、何か変なんだ』といった感じ」とセントンゴは言うのだ。

研究者たちは、患者を追跡し症状がどのくらい長く続くかを調べる予定だが、FAIR Healthの会長ロビン・ゲルバードによると、同団体は問題の「緊急性を考慮」して、最初の4カ月分のデータを公開することにしたという。

彼女の話だと、研究者たちはリポートで扱われていない、いくつかの疑問に答えようと取り組んでいる。特定の医学的問題が新型コロナ後遺症のリスクを高めるかどうかを見定めるために、一部の患者の基礎疾患の詳細を提供することなどである。

ゲルバードによると、FAIR Healthはまた、この研究の対象になった患者のうち何人がいつワクチン接種を受けたかを分析する計画だという。患者の4分の3以上が21年に感染しており、その大半は同年後半の感染だった。平均すると、患者は感染から4カ月半後の診断でもまだ後遺症の症状を経験していた。

研究結果は、新型コロナ後遺症が壮年期の人びとや社会全般に驚異的な影響を与える可能性があることを示唆している。患者の約35%は36歳から50歳で、ほぼ3分の1は51歳から64歳、17%が23歳から35歳。子どもたちも後遺症の診断がなされている。患者の約4%が12歳以下、約7%が13歳から22歳だった。

患者の6%は65歳以上だが、この比率は通常の健康保険のMedicareプログラムの対象となる患者が研究に含まれていないことを反映している可能性が高い。その年齢層の人たちは、若いグループより慢性的な基礎疾患を抱えている可能性がずっと高くなるはずだからだ。研究者によると、分析された保険データには患者の人種や民族に関する情報はない。

ゲルバードによると、この分析は独立した学術レビュアー(査読者)が審査したものではあるが、研究仲間や同分野の専門家による正式な査読は受けていない。患者のリスクスコアも計算されていた。それは、人が医療リソースを利用する可能性がどれくらいかを推定する方法だ。新型コロナに感染する90日前までと感染後30日以上のすべての保険金請求を比べると、患者の平均リスクスコアはすべての年齢層で上昇したことがわかった。

ゲルバードら専門家は、このスコアは新型コロナ後遺症の影響が単に医療費の増加にとどまらないことを示唆していると指摘する。「いかに多くの人が仕事を辞めたり、障がいを抱えたり、学校を長期欠席したりしているか」を示してもいるとゲルバードは言う。「湖に投げ込まれた小石のように、小石がつくる波紋は同心の衝撃の輪である」

今回の研究は民間保険がカバーする人だけが対象だから、後遺症の範囲と負担が過小に評価されているのはほぼ間違いないとセントンゴはみている。とりわけ低所得のコミュニティーは、ウイルス感染の影響をより多く受けており、しばしば医療へのアクセスが悪い。研究データに「Medicaidの対象者とその他の見逃していたかもしれない人びとを加えれば、(結果は)もっと悪くなる可能性があると思う」とセントンゴは言っている。

新型コロナ感染後の診断を受けた患者の60%は女性で、今回の研究によると、FAIR Healthのデータベースでは女性は新型コロナ患者全体の54%だった。しかしながら、最高齢と最若年の母集団をみると、男女はほぼ同数だった。

「この後遺症という点では女性の方が数の上で勝っていると思う」とスティーブズは語り、その理由として、女性が自己免疫疾患にかかりやすい生物学的な要因の違いがある可能性を付け加えた。

保険請求によると、新型コロナ後遺症患者の約4分の1に呼吸器症状がみられた。5分の1には咳(せき)があり、全体の17%は不快や倦怠を感じていると診断された。そのカテゴリーは、身体ないし精神的な活動後に悪化する「brain fog=ブレーン・フォグ」(頭にモヤがかかったようにボンヤリする症状)や倦怠感のような問題を含む可能性もあり非常に幅広い。その他に、心拍異常や睡眠障害なども多く見られた。

今回の研究は、全般性不安障害は23歳から35歳で他の年齢層より多く見られ、高血圧は最年長層に多かったとしている。

FAIR Healthは昨年、新型コロナに感染した約200万人の保険記録を追跡した研究を発表した。この追跡研究によると、感染後1カ月、そのほぼ4分の1に相当する23%の人が新たな症状に対する治療を求めていた。

今回の新しい研究では、ある人が感染する前と、感染が診断された後の一定期間について、特定の症状がどのくらい多く現れたかを見極めようとした。その結果、珍しいとされるいくつかの健康問題が、新型コロナ後遺症を患っている間に出現する可能性がとても高くなることが判明した。たとえば、筋肉障害は後遺症の患者に11倍多く起きた。この研究によると、肺塞栓(そくせん)症は2.6倍多く発症し、またある種の脳関連障害は2倍の頻度で発症した。

先行研究と同様、今回の研究でも、感染初期に入院する必要があった患者は、入院しなかった患者よりも後遺症のリスクが高いことがわかった。この結論に達したのは、後遺症と診断された患者の約24%――その多くが男性――が入院していたのに対し、入院を必要とした新型コロナの全患者はわずか8%ほどだったからだ。

それでも大多数は、感染で入院する必要がないため、医療の専門家たちによると、今回の研究やその他の研究は、感染初期の症状が軽度か中等度の患者の多くは症状が長びいたり、新型コロナ後の新たな健康問題を抱えたりすることを示唆している。(抄訳)

(Pam Belluck)©2022 The New York Times

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