バルタン星人に攻撃され、ウルトラマンメビウスは倒れた。なかなか起きあがれない。絶体絶命のピンチだ。
見守る子どもたちが息をのむ。
進行役の若い女性が、子どもたちに向かって声を張り上げた。「みんなー、力を合わせよう! ヌン(いち)、ソーン(にい)、サーム(さん)」
「メビュームシュート!」。子どもたちが腕をクロスすると、バルタン星人はドーンと舞台に倒れた。
タイ・バンコク郊外のチョンブリ市。ショッピングセンターの真ん中にもうけられたステージの周りは、ウルトラマンショーが始まる1時間前から3千人の親子で埋めつくされていた。
3歳の息子を連れた母親のスパッ・チューチット(35)は言う。
「この子は2歳半から毎日、ケーブルテレビでウルトラマンを見ている。善と悪を教えてくれるからいい」
日本で2006、2007年に放送された「ウルトラマンメビウス」はテレビシリーズ16作目。タイでは、円谷プロダクションの現地代理店ドリームエクスプレス(DEX)社が今夏まで放送し、携帯電話のCMにも起用されるほどの人気だ。来月には「ウルトラマンガイア」が始まる。
人気の理由について、DEX代表取締役クリット・サクルパニ(43)は「学校で『ラーマーヤナ』を教えるからだろうか」と話す。英雄ラーマが、自在に変身する白猿とともに魔王とたたかうインド古代叙事詩ラーマーヤナは、ヒーローが怪獣に立ち向かうウルトラマンに通じるものがあるという。かつて、白猿がタイのウルトラマン映画に登場したこともある。
ウルトラマンは1970年代から世界の100を超える国・地域で放映されてきた。タイに渡ったのも、このころだ。
当時、国産アニメをつくる国はあっても、質のいい特撮番組を週替わりで放映していたのは日本ぐらい。特撮番組をつくる技術や余裕のある国は少なかった。
仮面ライダーも1980年代からアジアなどで放映された。タイではいま、テレビシリーズ19作目「仮面ライダーキバ」が放映されている。
タイのウルトラマンと仮面ライダーのヒーローショーは、それぞれ2カ月に1回ほど。10月のウルトラマン公演は計1万3200人の来場を見込む。会場では、関連の子ども服や玩具を99~999バーツ(約300~3千円)で販売している。
特撮人気はタイだけではない。
外国のドラマや映画を規制する中国では今年、例年2、3作に限られている日本映画の一つとして「大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説THE MOVIE」が1千館以上で上映された。ジェトロ(日本貿易振興機構)によると、興行収入は約3千万元(約3億6千万円)。邦画では歴代トップだ。
アメリカでも、「秘密戦隊ゴレンジャー」から続くスーパー戦隊シリーズの海外版「パワーレンジャー」が20年ほど前から人気で、関連グッズが入手困難になったこともある。また、韓国におけるスーパー戦隊人気は、「本国」の日本にひけをとらない。
日本の特撮には、ハリウッド大作映画のような巨額の製作費はかけられておらず、着ぐるみやミニチュアセットには独特の手づくり感が漂う。それでも特撮ヒーローは、世界のあちこちで子どもたちとともに「悪」とたたかっている。