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プーチン氏の「隠し資産」追跡がなぜ難しいのか ある裁判資料にヒントが見えた

ニューヨークタイムズ 世界の話題
Russian President Vladimir Putin gestures during a joint news conference with German Chancellor Olaf Scholz in Moscow, Russia February 15, 2022. Sputnik/Sergey Guneev/Kremlin via REUTERS ATTENTION EDITORS - THIS IMAGE WAS PROVIDED BY A THIRD PARTY.
ロシアのプーチン大統領(提供写真)=2022年2月15日、モスクワ、ロイター

世間から注目されなかった裁判で提出された421ページにわたる訴訟文書に、埋もれていた一文がある。これは、ジュネーブのレストランで2人のビジネスマンが「プーチン氏に贈呈されたヨット」についておしゃべりした一文で、余談であるかのように提出されたものだ。

ある船会社が絡んだ金融争議に関するロンドンの裁判所での判決文に引用されたちょっとした言及だが、ロシア大統領のウラジーミル・プーチンと豪華な船舶や航空機、あるいは別荘のいずれかを直接結び付ける希有な公的証拠である。ロシアのウクライナ侵攻に対し、米欧当局がプーチンと彼の側近の隠し資産を追跡するうえで、この一文には新たな重要性が浮かび上がっている。

だが、英国のこの裁判資料は、プーチン本人と彼のモノとされている資産とを明確に関連づけることが難しい理由も示唆している。「オリンピア」と呼ばれるヨットはキプロスにある会社が管理しており、同社の書類では本当の所有者はプーチンではなく、ロシア政府になっていた。

確かに、豪華ヨットは長い間、プーチンの所有とみられてきた多くのぜいたくな資産の一つだ。しかし、それらは実のところ、国家の所有、または管理下にあるのだ。このことは、プーチンと彼のインナーサークル(権力中枢の側近)の私的な権益が、20年間にわたってプーチンが支配してきた政府の権益とどれほど融合しているかを示している。広大なリゾートや高価な自動車の数々、豪華な航空機、さらに多くのヨットなどもそうだ。

米国とその同盟諸国は、プーチンら少なくとも50人のロシア人富裕層の資産を追跡し押収するため、多国籍タスクフォースを組織し、この目的にかなう情報には報酬を出すと発表した。しかしながら、それがプーチンに大きな影響を及ぼすかについては疑問視するアナリストもいる。押収する価値がある彼の私的な所有物は、これまでのところ見つかっていないのだ。

オリガルヒ(新興財閥)やプーチンの古くからの友人たちが、高価な資産をプーチンに代わって内々に保有しているとか、彼の現金を外国の複数の企業やスイスの銀行で保管しているといった話が多くのメディアなどで語られてきたが、プーチンの明らかな豪華資産の多くは国営企業に埋め込まれており、西側諸国による制裁範囲を大きく超えている。

欧州政策分析センター(CEPA)を率いるロシア外交問題の専門家アリナ・ポリャコワは、プーチン資産とされる少なくとも一部については、ロシア政府の諸機関がその(解明を防ぐ)盾として使われている可能性があるため、プーチンを個人的な制裁の対象にするのは主として象徴的な意味しかないと指摘する。

「彼にたどり着くには、ロシア政府全体を制裁対象にする必要がある」と彼女は言うのだ。「だけど、もちろん、欧州諸国にも米国にもその準備ができていないことには理由があるのだ」

たとえば、ロシア国家全体を経済的に封鎖するということは、世界最大のエネルギー企業の一つで、欧州への天然ガスの主要供給源でもあるガスプロムをそっくり制裁対象にすることを意味する。ロシアによるウクライナでの明らかな残虐行為に対する世界的な憤激が高まっているにもかかわらず、ガスプロムの場合、一定の資本調達に制限を加えるのを主な目的とした限定的な制裁しか受けていない。

それでも、ガスプロムから、プーチンが使える資産を算出するための輪郭は描ける。高級不動産はここではさして重要ではないようにみえるのだが、この国営ガス会社はロシア大統領がシベリアの山岳地帯で楽しむための豪勢な隠れ家を建設した。このプロジェクトはクレムリン(ロシア大統領府)とは関係ないとの主張に対して、元副首相でプーチン批判派のボリス・ネムツォフが共同執筆した報告書は、その場所は「FSO(ロシア連邦警護庁)が警備している」と書き留めている。FSOは、ロシアの大統領ら高官の警備を担当する連邦政府の機関だ。

この山岳リゾートは、ネムツォフの2012年報告書に、プーチンが使えるとして記述されていた20件の資産の一つだ。他には、数十機の豪華な航空機や4隻のヨット、小売価格で70万ドル近い11個の腕時計などがあり、いずれも公的資金が投入されたといわれている。

ネムツォフは15年に暗殺された。クレムリンが見える橋を渡っていたとき、背後から銃で撃たれたのだ。

自由な言論活動に対する最近の締め付け以前に、ロシアにあった少数の独立系報道機関による活動と、ネムツォフやアレクセイ・ナワリヌイといった反対勢力によって、プーチンがタックスペイヤー(納税者)の汗の結晶をむさぼって生きているとする見解はほとんど隠しようがなかった。

クレムリンは長く、プーチンが収入以上の暮らしをしているとの見方を否定してきた。公式にはプーチンの給与は約14万ドルで、モスクワに小さなアパートをもっている。ただし、彼の広報担当官はネムツォフの申し立てに対し、ロシアの大統領も「法律に即して」、国有の住居と車両を使っていると述べていた。

プーチンの警護に当たる特務部隊の存在は、さまざまなぜいたく資産と彼との結びつきを示す明確な兆候とみられている。プーチン一派のビジネスパートナーだったセルゲイ・コレスニコフは10年に公開書簡を書き、黒海での10億ドルの不動産開発を援助するために政府資金が転用され、そこは「プーチン宮殿」として知られるようになっていると指摘した。

投獄された野党指導者のナワリヌイが昨年発表した調査によると、この宮殿は連邦警護庁のメンバーに守られ、国内治安機関のFSB(ロシア連邦保安局)が一時期その上空を飛行禁止区域に指定していた。

The superyacht 'Scheherazade', which has been linked to Russian President Vladimir Putin, is moored in the port at Marina di Carrara on March 25, 2022 in Carrara, Italy. The yacht 'Scheherazade', which is about 140 meters long and worth over 700 million dollars, is moored at the 'The Italian Sea Group' shipyard. Those onboard deny it is Putin's and claim it is owned by a non-oligarch Russian owner. Yesterday, the President of Ukraine, Volodymyr Zelensky, during his speech to the Italian Parliament requested the seizure of the yacht. Photo by Nick Zonna/IPA/ABACAPRESS.COMNo Use Italy.
プーチン大統領とのつながりが取りざたされるスーパーヨット「シェヘラザード」=2022年3月25日、イタリア・カラーラの港、IPA/ABACA via Reuters Connect

つい最近、ナワリヌイの調査チームは、7億ドルのスーパーヨットの乗組員とクレムリンの警護特務部隊につながりがあると指摘した。そのヨットは外国のペーパーカンパニーの名が使われ所有者は不透明だが、プーチンが内密に使っているとの臆測が飛び交っている。「Scheherazade(シェヘラザード)」と名付けられた459フィート(約140メートル)のヨットで、ヘリパッド(ヘリコプターの簡易発着場)が二つあり、船上には衛星通信のアンテナが設置されている。ヨットは現在、イタリアで乾ドックにあがっている。

「ヨットの所有者を特定できなければ、つまりマーシャル諸島のオフショア会社の場合なら、誰が乗っていて、誰がサラリーを支払っているかをはっきりさせるつもりだ」とマリア・ペブチクは言っている。ナワリヌイのチームのメンバーで、調査について説明している動画での発言だ。

米当局がこのヨットをプーチンと結びつけられる兆候をつかんだと最初に報じたのはニューヨーク・タイムズだが、乗組員のロシア保安機関とのつながりについては、ナワリヌイ・チームの調査結果を独自に確認できていない。米当局は、ヨットのオフショア所有者に関する秘密をあばけるどんな情報をもっているかについては明確にしなかった。

実際のところ、多くの司法管轄権は以前から、オフショアのペーパーカンパニーを介した資産管理に対する税制上の優遇措置だけでなく、最終所有者の公的な特定を不可能ではないまでも困難にする、企業登録の様態も提供している。裕福なロシア人が常連客だったことが発覚したのは、主にこうしたサービスを提供する法律事務所からのリーク(情報漏洩)によるものだ。(抄訳)

(Mike McIntire)©2022 The New York Times

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