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オリガルヒはプーチンに矛先を向けられない 真の脅威になりうるのは「シロヴィキ」だ

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ウクライナのリビウで3月15日、ロシアの侵攻から逃れポーランドへ向かうため駅に集まる人々
ウクライナのリビウで3月15日、ロシアの侵攻から逃れポーランドへ向かうため駅に集まる人々=ロイター

プーチンには良い出口がない。それが本当に怖い
Putin Has No Good Way Out, and That Really Scares Me
2022年3月8日付 ニューヨーク・タイムズ紙

私は、サウスカロライナ州の右派の上院議員であるリンゼー・グラム氏のファンではない。そのため、彼が3月3日、ロシアのウクライナ侵攻について次のようなコメントをしたとき、賛同している自分に心底驚いた。「(ウクライナ侵攻)を解決できるのは、ロシア国民だけだ。言うのは簡単だが、実行するのは難しい。一生、abject(絶望的な)貧困の中で世界から孤立し、暗闇の中で暮らしたくなければ、step up to the plate(進んで物事に取り組む)べきだ」

グラハムはさらに、「この事態を収束させるには、ロシアの誰かがこの男をtake out(殺す)しかない」と言った。これは政治家が声高に言うこととしては行き過ぎだとは感じる(ロシアによるウクライナでの殺戮行為に反感を持っている私たちは、内心そう思っているのかもしれないが)。そのため私は、普段は激しく嫌っているもう一人の政治家、テキサス州のテッド・クルーズ上院議員の「大規模な経済制裁を行い、ロシアの石油やガスを買わず、ウクライナ人が自衛できるように軍事援助を行う。しかし、国家元首の暗殺を呼びかけるべきではない」という言葉に同意した。

米国をはじめとするNATO(北大西洋条約機構)諸国は、武器やその他の軍事物資をウクライナに送り出しているが、第3次世界大戦の勃発を恐れて、この紛争に直接関与しないよう努めている。そのため、ウクライナ人は自力でロシアと戦うしかない。幸いなことにそれが予想以上にうまくいっているので、頼もしい限りである。しかし、兵力や火力ではロシアに分があるため、ロシアを完全に国外に追い出すことは難しい。 プーチン大統領はプライドが高く、決してeat crow(敗北を認め)たくないため、侵略をdoubling down(倍増させ)、民間インフラへの攻撃を強め、毎日女性や子供を含むウクライナ市民の死が報告されるような状況が続いている。

そこで、現状では、西側諸国が制裁措置を講じ、ロシアからの購買を中止し、ロシアでの事業を停止することによって圧力をかけ続けることが、戦争終結への唯一の望みであるように思われる。実際、ロシアを国際金融システムから孤立させる制裁はcrush(重くのしかかり)、ロシアでの事業を停止する企業は増え続けている。世界がロシアの石油・ガス依存を脱却するのはもっと難しいだろうが、すでにアメリカ、イギリス、オーストラリアがそうすることを発表しており、他の国も検討し始めている。ロシア経済への影響は、既にとてつもないものになりつつある。

記事の一つにもあるように、経済的にも外交的にも深い傷を負ったロシアは、creak(きしみ)、crumble(崩れ)始め、やがて国民はプーチンのsclerotic(硬直した)独裁的統治に嫌気がさすようになるであろう。しかし、それで政権交代が実現するのだろうか。CIA(米中央情報局)で30年間ロシアの作戦を担当したスティーブン・ホール氏が語る、さまざまな説のうちいくつかを見てみよう。

多くの人は、ロシアの man on the street(一般の人)がプーチンを倒すために立ち上がることを期待しているが、ホール氏はその可能性は低いと考えている。プーチンの政策を支持するロシア人はたくさんいるし、単に政治にapathetic(無関心)になっている人もいると、彼は指摘する。多くのロシア人が唯一アクセスできるニュースで報道される、国のプロパガンダを信じている。一部のロシア市民はデモを行うが、こうしたデモはいつも警察や治安部隊に強制的に解散させられている上、デモに参加した何千もの人が刑務所に入れられている。

欧米の制裁措置の多くはオリガルヒ(新興財閥)をターゲットにしているが、ホール氏は、彼らがプーチンにturn on(突然矛先を向ける)とは考えていない。プーチンとオリガルヒとの間には権力分担のようなものがあり、そのほとんどは一方的で、経済的なものだ、と彼は指摘する。プーチンは彼らにロシア国内外で大規模な金もうけ組織を運営させ、その見返りとして、プーチンの資金洗浄を手伝ったり、プーチンが有用と考えることは何であろうと援助したりしている。しかし、オリガルヒはロシア国内の警察や武装治安部隊などのハードパワーには直接アクセスできないという。

プーチンの真の脅威は、シロヴィキ(ロシアの治安と軍事のエリートを表すロシア語)にある、とホール氏は考える。野党指導者のアレクセイ・ナワリヌイを毒殺しようとし、また、ロンドンのホテルでロシアの元情報将校、アレクサンドル・リトビネンコの紅茶に放射性物質ポロニウムをlacing(混入させて)暗殺したのは彼らだと言われている。彼らは、過去30年間自分たちの権力を維持してきた独裁政治がスローモーションで崩壊していく様を見ており、プーチンを脅し、彼の政権を終わらせるために必要な武器と人材を持っている、とホール氏は指摘する。「彼らは行動を起こすことを決意するかもしれない」とも述べている。

しかし、プーチンを排除するのは簡単ではない。彼はクーデターや暗殺を恐れて、警備にこだわっていると言われている。防弾ブリーフケースと高性能のピストルを持ったボディーガード、look-alike(そっくりな)代役、試食係などは、彼が自分を守る手段のほんの一部だと言われている。

さらに、ニューヨーク・タイムズのコラムニスト、トム・フリードマンは、ロシアがプーチンを排除したとしても、すべての問題が自動的に解決されるわけではないと警告している。プーチンの下でロシアが強くなっていくことよりも怖いのは、弱く屈辱的で、disorderly(無秩序な)ロシアになることだという。分裂したり、内部の指導者の混乱が長引いたり、異なる派閥が権力争いをしたりして、核弾頭がそこら中に存在している状態になる可能性があると指摘している。

その他に考えられる恐ろしいシナリオは、NATO諸国が偶然か意図的にか、より直接的に紛争にget sucked into(巻き込まれる)ことである。あるいは、ウクライナでの攻撃の行き詰まりに怒ったプーチンが、化学兵器、生物兵器、核兵器、サイバー兵器など、他の兵器に手を伸ばすことも考えられる。制裁の痛みによってロシア人が共通の敵に対して団結し、反対意見の弾圧の中で国家のプロパガンダに突き動かされるということもあり得るだろう。

いずれにせよ、ロシアのウクライナでの失策の行く末を楽観することはできない。


(原文)

どのように終わるのか? ウクライナ戦争から脱出する糸口は見つけにくい
How Does It End? A Way Out of the Ukraine War Proves Elusive.
2022年3月13日付 ニューヨーク・タイムズ紙

プーチンはオリガルヒによるクーデターを恐れていない。だが、彼は仲間のスパイを恐れるべきだ
Putin doesn’t fear a coup by oligarchs. But he should fear his fellow spies.
2022年3月10日付 ワシントン・ポスト紙

プーチンには良い出口がない。それが本当に怖い
Putin Has No Good Way Out, and That Really Scares Me
2022年3月8日付 ニューヨーク・タイムズ紙

リンゼー・グラムがプーチンについて、ロシアの誰かが「暗殺すべき」と発言
Lindsey Graham says of Putin: Someone in Russia should ‘take this guy out.’
2022年3月4日付 ニューヨーク・タイムズ紙

プーチンはどのように暗殺やクーデターから身を守っているのか
Here’s how Putin protects himself from assassins and coup plots
2022年3月4日付 ニューヨーク・ポスト紙

プーチンは自らの没落を確実にした
Putin Has Ensured His Own Downfall
2022年3月2日付 ウォールストリート・ジャーナル紙