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ウクライナ侵攻のロシアをSWIFT排除、欧米が合意 最大級の経済制裁は「諸刃の剣」

World Now 更新日: 公開日:
ロシアのロケット弾による攻撃で破壊されたマンション。住民らが片付けをしている
ロシアのロケット弾による攻撃で破壊されたマンション。住民らが片付けをしている=2月25日、キエフ、ロイター

ロシアの侵攻を受けるウクライナ
ロシアの侵攻を受けるウクライナ=GLOBE+編集部が作成

背景

ロシアのプーチン大統領はかねてより、欧米の軍事同盟「北大西洋条約機構(NATO)」が東欧など、東方に拡大していることに反発。特にロシアに隣接し、かつてともにソ連を構成していたウクライナがNATO加盟を求めるようになると、安全保障上の脅威を強く訴えるようになった。

東方経済フォーラム全体会合で演説するロシアのプーチン大統領=2019年9月、ロシア・ウラジオストク
東方経済フォーラム全体会合で演説するロシアのプーチン大統領=2019年9月、ロシア・ウラジオストク

事態が動いたのは2014年。ウクライナで親ロシア政権が打倒され、親欧米の政権が誕生すると、ロシアは危機感を強めた。3月、自らの黒海艦隊が駐留し、ロシア系住民も多い南部のクリミア半島を一方的に併合した。同じころ、ウクライナ政権に反発して武装蜂起した東部(ドンバス地方)の親ロシア派勢力を軍事的に支援するようになった。

2015年にベラルーシの首都ミンスクでウクライナ、ロシア、フランス、ドイツが停戦などを含む合意「ミンスク2」を結んだが、その後もウクライナ政府軍と親ロシア派勢力との衝突は散発的に続いた。この内戦で双方合わせて1万3千人以上が亡くなったとされる。

2021年春には東部で再びウクライナ軍、親ロシア派の衝突が相次ぎ、ロシア軍がウクライナ国境付近に部隊を集結。このときは撤退したが、10月ごろから再び増強し始め、軍事同盟を結ぶ隣国ベラルーシにも演習名目で軍を派遣した。ウクライナを北のベラルーシと東のロシアから軍が包囲する形となった。その数は十数万人に上っていた。

アメリカのバイデン大統領は「ウクライナを侵攻する可能性がある」と強く非難した。プーチン大統領は当初、軍の集結は「演習」で侵攻の意図は否定していたが、2月21日になって親ロシア派が実効支配するルガンスク、ドネツク両州の一部地域を「国家」として承認し、ウクライナ軍から守るための「平和維持」を名目に軍部隊の派遣を決めた。欧米はロシアに対して経済制裁に踏み切った。

アメリカのバイデン大統領
ホワイトハウスで演説するバイデン米大統領=2021年11月、ワシントン、ランハム裕子撮影

ロシアの軍事作戦始まる

プーチン大統領が2月24日、ウクライナ東部での「特別な軍事作戦」の実施を決めたと発表した。首都キエフで爆発音も確認され、ゼレンスキー大統領は国中に戦時体制を導入する非常事態を宣言した。ロシアのインタファクス通信などは、ウクライナの複数都市の軍事施設がロシア軍のミサイル攻撃を受けたと伝えている。

ウクライナのゼレンスキー大統領=2019年10月、東京・元赤坂の迎賓館
ウクライナのゼレンスキー大統領=2019年10月、東京・元赤坂の迎賓館

欧米各国は一斉にロシアを非難、国連総会でもロシアに対する批判が相次いだ。

ウクライナ情勢をめぐる国連安全保障理事会の会合中、カメラに向かってロシアのプーチン大統領に呼びかけるグテーレス事務総長
ウクライナ情勢をめぐる国連安全保障理事会の会合中、カメラに向かってロシアのプーチン大統領に呼びかけるグテーレス事務総長=2月24日夜、米ニューヨークの国連本部、国連ウェブTVから

しかし、ロシア軍の攻勢は止まらず、1986年に未曽有の大事故を起こしたチェルノブイリ原発もロシア軍に占拠されたことをウクライナ大統領府のミハイロ・ポドリャク顧問が明かした、とロイター通信が伝えた。ゼレンスキー大統領もTwitterに「我が軍が1986年の悲劇を繰り返さぬよう、命がけで守っている。スウェーデンのアンデション首相に報告したが、これは全ヨーロッパに対する宣戦布告だ」と投稿した。

ロイター通信は、ロシア治安関係者の話として、ロシアはチェルノブイリ原発を押さえることで、NATOに軍事介入しないようシグナルを送ったと伝えた。チェルノブイリは首都キエフの北約90キロにある。

Forbesウクライナ版によると、ゼレンスキー大統領は、24日だけで民間人と軍人合わせて計137人の国民が死亡したと発表した。一方、ロシアの経済紙ベドモスチがロシア国防省の発表として伝えたところによると、ロシア軍はこの日、ウクライナの軍事施設83カ所を攻撃したという。

ウクライナ「中立化含め交渉用意」

ウクライナ政府は25日、同国の中立化の立場を取る案を含めてロシアと交渉する用意があると、ロイター通信に語った。

中立化は「フィンランド化」とも呼ばれる。フィンランドが第二次大戦後、隣接するソ連(ロシアの前身)を刺激しないよう採用した政策だ。フィンランドは現在もNATOに加盟していない。

ウクライナがNATOに加盟しないことは、ロシアが強く要求していたことであり、インターファクス通信によると、プーチン大統領のペスコフ報道官も「ウクライナの中立化についてはロシアの安全保障上の国益に資するものであり、ウクライナ政府の声明を受け止めた」と述べた。

ただ、その後になってロシア外務省のザハロワ報道官が「ウクライナは交渉を拒否し、協議(するかのの決定)の問題を26日に持ち越した」と発言。26日にはペスコフ氏が、プーチン大統領は交渉に期待して進軍を一時停止したが、ウクライナ側が会談を拒否したため、部隊の前進を再開させたと述べた

ペスコフ氏は、ウクライナ側が会談場所をミンスクからポーランドのワルシャワに変更したいと提案したことから合意には至らなかったとの見解を示した。これについてウクライナ政府側の発表はなく、真偽は不明だ。

一方、ゼレンスキー大統領は25日夜、政権幹部とともにメッセージアプリ「テレグラム」で動画を配信。その中で国民にこう呼びかけた。

「皆さんこんばんは。政党派閥の幹部も大統領府幹部も首相も大統領顧問も大統領も、みんなここにいます。我々の兵士もここにいます。市民の皆さんもここにいます。我々みんなここにとどまっています。ウクライナの独立と国家を守りましょう。そうして前進しましょう。兵士に栄光あれ、ウクライナに栄光あれ」

26日になると、首都キエフに対するロシア軍の攻撃が激しくなった。早朝には高層マンションにロシア軍と見られるミサイルが着弾した。クリチコ・キエフ市長はテレグラムにミサイルが着弾する瞬間の動画を載せた。

ウクライナのクレバ外相はTwitterに破壊されたマンションの写真を投稿し、次のようにつづった。

「キエフ、私たちの美しく平和なまちはロシア軍の攻撃に耐えながら一夜を終えました。攻撃の一つがキエフの住宅を襲いました。世界がロシアを孤立化させることを求めます。ロシア大使を追放し、石油を禁輸して下さい。ロシア経済を破綻させ、ロシアの戦争犯罪人を止めて下さい!」

ウクライナのリャシュコ保健相は26日、自身のFacebookページで被害状況を説明。それによると、子ども3人を含む198人が死亡し、1115人が負傷したという。

最大級の経済制裁、発動へ

アメリカとイギリス、EUはこの日、ロシアの銀行を国際送金システムを担うSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除する経済制裁に踏み切ることで合意したと発表した。

ホワイトハウス(アメリカ大統領府)が公表した共同声明によると、「ロシアの銀行がグローバルに活動することが損なわれる」などとしている。数日以内に実施するという。

SWIFT排除は「最大級の金融制裁」と言われている一方、ロシアから天然ガスを多く輸入しているドイツやイタリア、ハンガリーなどにとっては「諸刃の剣」とも言える。

天然ガスだけでなく、大きな産油国でもあるロシアとの対立が長引けば、燃料価格の高騰がさらに進むことも予想され、今回の措置がどこまで効果を上げるかは不透明な部分もある。

(アップデート:2月27日午後12時45分)