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ウクライナとロシアにルーツ持つYouTuberダリアさんが涙の訴え「家族同士の戦争に…」

World Now 更新日: 公開日:
ダリアさん
ダリアさん=本人提供

ウクライナとロシアの平和を涙ながらに訴えるダリアさん

ダリアさんは2019年に来日して日本人の男性と結婚し、現在はYouTubeを使って、日本語でロシア語を教えている。

両親や弟が住むザポリージャ州はウクライナ東部にある。国境からは50キロで、ロシア軍の展開場所からは「目と鼻の先」だ。母方の親戚の中にはロシア軍の軍人もおり、両国の緊張が高まっていることを心配する。

ダリアさんとの主なやり取りは次のとおり。

――YouTubeで、「家族同士の戦争」の心配を訴えています。

私のロシア側の家族はよくも悪くも、ロシアという国が大好きで、代々、軍人になる人が多いんです。少将までのぼり詰めた人もいるらしいんです。

今、「家族同士の戦争」になるんじゃないか、と心配ですし、心が痛みます。もし、ロシア軍が実家のあるザポリージャに入ったら、お互い(親類と)知らなくても、殺し合いになる可能性もあるじゃないですか。ロシアの家族がザポリージャに来て、軍の上官に命令されて、人を殺したら、すごく嫌です。

――ザポリージャなどは今、緊張した雰囲気なのでしょうか。

ウクライナに住んでいる家族や知り合いと連絡を取りましたが、「街の中でパニックは起きていない」ということでした。ウクライナでは、戦争が、2014年にクリミア半島と(親ロシア派と政府軍が戦う)東部のドンバスで始まったのをきっかけに、ずっと続いている状態なので、急に今の状況を「すごく心配する」とはならないと思います。

ザポリージャは、ドンバスに近く、何かあったら怖い、と感じます。ただ、普通の人が「戦争に行け」といわれるまでにはまだ全然なっていません。

――2014年当時は、どのように感じていましたか。

「こわい」という言葉におさまりきらない気持ちでした。故郷の町でも「赤紙」(軍の招集令状)が来ていたので、いつ父親が赤紙をもらうのか分からず、心配でした。

故郷の東隣のドンバスのドネツク州が反政府派に陥落する可能性もありました。うちから車で1時間のところで戦闘が起きていました。ドネツクの紛争地から逃げて私の中学校に転校してくる子もいました。

中には、自宅が攻撃を受け壊れたものの、身内に身体障害者がいて数か月間、逃げられず、地下室で暮らし続けたと話す転校生もいました。今、赤紙はなくなりましたが、しばしばドンバスへ向かう戦車などの軍用車が故郷の町を走っています。

――ウクライナでは、銃撃の訓練を軍人から受ける女性も出てきています。

私の身近な人からは個人的な訓練の話は聞きません。ただ、ウクライナでは戦争に貢献できる職種で働く女性の兵役登録が義務づけられました。

対象となる職種の範囲が、二転三転していて、女性たちが戦争になったら行かなければならなのかどうか、まだよくわからない状況です。もしかしたら私自身も軍に呼び出されかねません。

ウクライナの首都キエフで、ライフル銃の木造模型を手に軍事訓練をする美容師タチアナ・ハルミデルさん(中央)。国境周辺にロシア軍が10万人規模で展開し、緊張が高まっている=1月30日、金成隆一撮影
ウクライナの首都キエフで、ライフル銃の木造模型を手に軍事訓練をする美容師タチアナ・ハルミデルさん(中央)。国境周辺にロシア軍が10万人規模で展開し、緊張が高まっている=1月30日、金成隆一撮影

――もし、ロシアが侵攻したら、ウクライナの人は抵抗して戦うのでしょうか。

それは知りません。ロシアとウクライナとで、流れているニュースが全然違うところがあるのです。

ロシアでは、兄弟国家であるウクライナとの関係を欧米が壊そうとしているので、ウクライナとロシア自身を守ろうとしているのだ、という見方が多いのです。私は、ハーフとして、どちらの国の意見が正しいのかは言えません。

――兄弟国家という場合、ロシアとウクライナの共通点として、ロシア語が広く話されていることがよくあげられます。

大きいのは、ソ連があったことだと思います。ウクライナを含む15共和国からなるソ連の中で国境やビザはなく、学校ではロシア語が第一に教えられていました。ウクライナ語はその次でした。

とくに東ウクライナはロシアと地続きで、人の行き来も多く、ロシア語を話す必要性があったんですね。ウクライナが独立した後も、東ウクライナではロシア語をしゃべります。中央ウクライナは今、ウクライナ語が圧倒的に優勢、欧州に近い西ウクライナではロシア語はあまり使われません。

とはいえ、ウクライナ人の多くはロシア語を話しますし、イースターや正月の祝い方など文化や伝統も共通しており、たしかに兄弟国家です。

――ウクライナ政府は、ウクライナ語の使用を広げる政策をとっています。

ウクライナの国語はウクライナ語です。マスメディアやインターネットのコンテンツの75%以上がウクライナ語でなければならないと決まっています。

ウクライナ語はポーランド語などと似ているところがあります。例えば、「はい」「元気です」は、ロシア語がそれぞれ「ダー」「ハラショー」、ウクライナ語が「タク」「ドブレ」です(ポーランド語は「タク」「ドブジェ」)。

私は、母の願いで、ロシア語で授業する中学校で教育を受けました。今、そういう学校はなくなり、すべてウクライナ語で授業しています。職場でも私の住んでいた東部地域は、昔はロシア語がふつうでしたが、最近は、ウクライナ語のみ、というふうになっています。公用語もウクライナ語で、ロシア語は公用語になっていません。あくまで国として自分の言語を守りたいということだと思います。

一般的には、皆、ウクライナ人という自己認識をもっているんですけど、ロシア語のほうが話しやすい、っていう感じです。

――万一、戦争になった時、そういう自己認識はどう影響しますか。

難しいですね。ロシア人となんらかの関係を持っている人はいますし、一方、戦争になったら、敵同士になります。正直、どういう風になるのか、全然予測がつきません。

ウクライナでは二つのタイプに分かれているんですね。ロシアともっと仲良くしたほうがいいという人と、ヨーロッパと一緒になり、自分たちのウクライナ人というアイデンティティを守ったほうが良いという人と、です。

EU(欧州共同体)に入ったほうが良いという人が増えてきていますが、まだ、意見は五分五分です。

――「ロシア人でウクライナとの戦争を望む人は少ない」とお話しされていますね。

私は、2014年、クリミア半島やドンバスで戦争が起きた後、母の仕事の関係で、ロシアのロストフ・ナ・ドヌーの中学校に転校しました。ウクライナとの国境に近いロシア西部の町です。

でも、ウクライナ人だからとヘイトを受けたことは全くなかったです。同級生がウクライナ語を教えてと言ってきたりして、友好的でした。

ウクライナ人の父もロシアに転勤しましたが、職場でのロシア人との関係は良かったようです。私は今も、ロシアの人たちに現地の様子を教えてもらっていますが、「戦争はしたくない」と思っている人が大多数です。

ロシアへの編入を問う住民投票がクリミアで行われた際、ウクライナ軍の施設を取り囲むロシア軍とみられる兵士たち
ロシアへの編入を問う住民投票がクリミアで行われた際、ウクライナ軍の施設を取り囲むロシア軍とみられる兵士たち=2014年3月、ウクライナ・クリミア半島のシンフェロポリ郊外、葛谷晋吾撮影

――戦争を止めるには、どうしたら良いとお考えですか。

私は、二つの母国、ウクライナとロシアがこれ以上傷ついてほしくない、と、ただ願うのみです。

ドンバスでの戦争・紛争は今も続きます。誰もなんの利益もえていません。関係が絶たれたため、両国とも多くの工場、会社、職場がつぶれました。ドンバスでは多くの人が家を失いました。

両国とも、紛争地域に残る人々を十分支えておらず、水道や燃料がなかったりするようです。子供のころ、ウクライナの実家からロシアの母方の親類のところへ行く時、この地域を列車で通り、車窓から、一面のひまわり畑や家々を見ていました。今は、直行はできず、第三国経由の航空便で行くしかありません。心が痛みます。

戦争で戦場に行くのは、ふつうの人々です。国の指導者たちは、世界における国の立場や自国経済のことをまず考えると思いますが、その前に、戦いにかりだされる人々の気持ちをよく考えてほしいです。

ロシアは天然資源の豊かな大国ですが、ウクライナは2014年以降の戦争をひきずっているし、建国30年の若い国なので、今、戦争が起きれば、国としてつぶれてしまうと思います。

戦争は始まったら、後戻りはできません。国のリーダーたちがきちんと話し合いをし、これ以上の戦争をさけられるよう、強く願っています。

ウクライナ人の複雑な思い

ダリアさんをインタビューして感じるのは、ウクライナ人がおかれたあいまいな「生殺し」のような状況だ。それを裏付けるウクライナ国内の世論調査のデータを見てみよう。

「キエフ国際社会学研究所」が2021年2月、ウクライナ国内で行った調査では、回答者の5人に2人が「ロシアに近い親類がいる」と答えた。国境をまたぐ姻戚関係は広がっている。

しかし、ウクライナ人の対ロシア感情は、2014年を境に急激に悪化した。同研究所の世論調査によると、2013年までは、ウクライナ人の回答者の80~90%がロシアに良い感情を持っていたのに対し、2014年に30%まで下がり、2021年11月の調査では、39%が「良い」、47%が「悪い」と答えている。

ロシアがクリミア半島を併合し、ドンバスに介入したのが2014年で、ロシアが自らまいた種でウクライナとの良好な関係を損なった形だ。

また、同研究所は今年1月にもウクライナで調査を実施。その中には、「春までにウクライナ国境に集結するロシア軍がウクライナを侵略する現実的な脅威があると思うか」という質問もあり、回答割合は次のようになった。

ダリアさんはウクライナ人が感じている脅威感について、「情報が少なくて、ウクライナ人もよく分からないところがある」と話す。

さらに昨年12月の調査では、「自分の住むところにロシア軍が介入した場合の抵抗」について質問。これに対し、それぞれの回答割合は次のようになった。

一方、ロシア側の「世論」も見てみることにする。世論調査機関「レバダ・センター」が昨年末、ロシアで行った調査で、「ウクライナ東部の緊張がロシア・ウクライナ間の戦争に発展するかどうか」について質問した。これに対する回答の結果は次のとおりになった。

また、「ウクライナ東部の状況悪化に責任があるのは誰か」との質問に対する回答結果は以下のとおりだ。

この結果からは、ロシア人が、自らに近い親ロシアのウクライナ人が西側から攻撃を受けている、との「被害者意識」を持つことがうかがえる。

ウクライナ国内では今、「ロシアがウクライナ東側を占領し、傀儡政権を樹立」とか「全ウクライナを占領し、傀儡政権樹立」といった、最悪の侵攻シナリオが安全保障関係者の間で語られている。しかし、世論調査を見ると、ウクライナ各地で、国民がロシアの三色旗をふり、ロシア軍を「解放軍」として歓迎する光景は想像しがたい。

ロシアの意図は外からは分からないが、ウクライナ人の抵抗の可能性は考慮しているはずだ。それでもなお、侵攻が起きれば、戦争が泥沼化する可能性は高いのではないか。ダリアさんの祈りが通じるよう、心から願ってやまない。