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軍事ドローンで世界が注目 ロシア・ウクライナ緊張の間で、気になるトルコの立ち位置

トルコから見える世界
トルコ製のドローン「バイラクタルTB2」。アゼルバイジャンのバクーでの軍事パレードで披露された=ロイター

■首脳会談で二つのメッセージ

ロシアとの緊張が高まる中、ウクライナのゼレンスキー大統領が4月10日にトルコを訪問した。

「我々はクリミアの併合は断固として認めない。ウクライナの領土の一体性と主権を支持する」。エルドアン大統領はゼレンスキー大統領との共同記者会見で、こう力を込めた。同時にこう付け加えた。「我々の協力は、第三国を意識したものではない」。この「第三国」は、ロシアを念頭に置いているのは明らかだ。

トルコとウクライナは近年、軍事分野での協力を深めている。昨年10月には軍事協力協定を結び、トルコがシリアやリビア、ナゴルノ・カラバフなど各地で繰り広げてきたロシアとの「代理戦争」でその威力を見せつけてきたドローンの輸出のほか、軍事装備の共同開発も約束。20年にはトルコからの軍艦輸入契約も行い、宇宙分野では衛星開発でも覚書を締結している。

昨秋のナゴルノ・カラバフを巡る紛争では、単独でアゼルバイジャンを全面支援したトルコだが、今回は欧米と足並みを揃え、ウクライナ支持を掲げる。だが、会見でエルドアン氏は「外交的解決」「対話の重要性」を連発。ウクライナを支持しながらも同時にトルコは横目でロシアの動きを注意深く見ている。

ロシアとウクライナ、といえば、2014年の大規模衝突が記憶に新しい。

ウクライナでは2014年、親欧米政権の誕生に乗じてロシアが介入。クリミア半島を併合した後、東部のロシアと国境を接するドンバス地域で、ウクライナからの分離独立を目指す親ロシア派住民の武装蜂起を支援するなどした。その後もウクライナ軍と親ロシア派武装勢力との間で衝突が続き、両国の戦いで1万3000人以上が死亡したとされている。

昨年7月に停戦に入ったものの、停戦違反は繰り返されており、今年3月頃から、ウクライナ東部で同国軍と親ロシア派の衝突が発生。4月には係争地付近に両国が軍を派遣し、再び緊張が高まった。

大国ロシアを相手にウクライナが強気の姿勢を見せる背景には、バイデン米政権の誕生がある。一貫してロシアに厳しい姿勢を示しているバイデン氏は、就任間もない今年2月の声明でも、クリミア併合を「現在も今後も認めることはありえない」と断言。4月に入り緊張が高まると黒海への米軍艦の派遣を発表した。

直前で派遣は中止されたが、まもなく、サイバー攻撃や米大統領選への介入などを理由に、ロシアの外交官追放やロシア国債の取引制限などの制裁措置をとった。ロシアも翌日、米外交官追放などで報復し、さらにロシアに敵対的な「非友好国」としてアメリカを名指しするなど関係は悪化の一途をたどっている。EUやNATOも、アメリカに歩調を合わせている。

■トルコとウクライナを結びつける「タタール人」

トルコにとって、クリミアは歴史的な関係がある地域だ。トルコがウクライナ寄りの姿勢を取る要因の一つがそこにあるが、そのヒントは、トルコ・ウクライナの首脳会談後に発表された共同宣言にある。

共同宣言にはクリミア・タタール人の生活環境改善のために両国が協力することがうたわれ、その後の協議では、クリミアからウクライナに逃れたタタール人を対象に、トルコが500棟の家を建てることも約束された。黒海に突き出たクリミア半島には昔からトルコ系のタタール人が住んでいる。トルコと同じイスラム教スンニ派で、15世紀にはクリム・ハン国として黒海交易で栄えた。

その後オスマン帝国の保護下に入ったが、露土戦争でトルコが破れると、ロシアが1783年に同国を併合。帝政ロシア下で政治的迫害を受け、スターリン政権下の1944年には、ナチス・ドイツに協力したなどの疑いをかけられ、数十万人が中央アジアのウズベキスタンなどに強制移住させられた。ゴルバチョフ政権下の1980年代にクリミアへの帰還を許されたが、それまでにクリミアではロシア人の入植が進んでいた。

ウクライナ南部クリミア半島に住むクリミア・タタール人。自治区設立を求める決議を賛成多数で決めた=2014年3月、バフチサライ、朝日新聞社撮影

91年のソ連崩壊に伴い、クリミア半島はウクライナの一部となったが、2014年にロシアが併合して以降は、タタール人コミュニティの議会や学校が閉鎖されたり、タタール人が不当に逮捕されるなどの事案が頻発。さらに、トルコ系の街の名称変更やタタール文化の否定などもあり、トルコはクリミアで「脱トルコ化政策」が進められていると度々批判してきた。

■ロシアの豊富な対トルコカード

トルコのウクライナとの協力は、ロシアの警戒心を高めている。両国首脳会談後の翌々日、ロシアのラブロフ外相は、トルコのウクライナにおける「軍事的な野心」を声高に批判。トルコに対し、ウクライナへのドローン輸出をやめるよう警告した。

その数時間後、ロシア政府はトルコへの旅客機の運航を6月1日まで制限すると発表。ロシアの国営タス通信によると、6月1日までにトルコへの旅行を計画していたロシア人は50万人以上、この措置で、トルコは約15億ドルの損失を被ることになるという。

ロシアは「トルコのコロナウイルス感染者の多さ」を理由に挙げるが、トルコではウクライナ支援の報復と受け止められている。トルコでは、コロナ禍でも旅行者は制限措置の対象外とし、外貨獲得源として期待されているだけに、フライト停止は大きな痛手だ。コロナ前の2019年には、ロシアからの観光客は年間約700万人と断トツの多さだった。

トルコに対し、ロシアがもつカードは少なくない。ゼレンスキー氏訪問前日、プーチン氏はエルドアン氏に電話をかけ、シリアやコーカサスにおける両国間の合意に言及。トルコの出方次第では、こうした両国が対峙する地域で「報復」がありうることを示唆したとみられている。専門家の中には、トルコがウクライナ支援を強めれば、これまでロシアが中立的立場をとってきた東地中海においても、トルコと敵対するギリシャやキプロス寄りの姿勢を示す可能性があると指摘する人もいる。

また、コロナ感染者が連日数万人台のトルコは、五千万回分のロシア製ワクチンを5月から輸入することで合意した。だが、最初に輸入した中国産ワクチンでは、トルコのウイグル問題への対処を巡り、中国政府がワクチン輸出を使って圧力をかけているとの憶測を呼んだだけに、ロシアとの間でも、こうした政治的な動きが影響するのではと危惧する声もある。

ロシアからの天然ガス輸入も、トルコの脆弱性を高める要因になりうる。黒海を通る海底パイプラインでトルコ国内市場へ運んでいるほか、トルコ経由で南欧市場へも輸送している。エネルギーの一国依存を解消するべく、輸入先の多角化を進めているトルコだが、一方で、ヨーロッパへのエネルギー供給のハブを目指しており、ロシアからの天然ガスは重要性を失っていない。

■トルコのドローン再び「ゲームチェンジャー」に?

モスクワで首脳会談を行ったロシアのプーチン大統領(右)とトルコのエルドアン大統領=2020年3月5日、ロイター

ロシアのラブロフ外相が警告したトルコの軍事ドローンは、シリアやリビア、コーカサスでロシア製対空防御システムを破壊し戦況で優位に立つなど、ここ数年、「ゲームチェンジャー」として世界的に注目されている。特に、バイカル社の「TB2」は、高度2万フィート以上かつ24時間の飛行で、偵察と攻撃の両方に長けている。昨年のナゴルノ・カラバフの軍事衝突でも、トルコからの供給を受けたアゼルバイジャンが実戦使用し、アルメニアに大きな打撃を与えたとされている。

ウクライナもすでにトルコのTB2を導入、年内にさらに約50機を購入する計画だ。また、両国間での共同製造も予定されているほか、ウクライナがTB2の生産を請け負う計画もある。

ナゴルノ・カラバフにおけるアゼルバイジャン支援に比べ、トルコは目下、ウクライナへのドローン輸出を進めつつも、慎重な姿勢を崩していない。「トルコのドローンがウクライナを有利にする」などの報道もあるが、「ナゴルノ・カラバフとは状況が異なる」と指摘するトルコの専門家は少なくない。アゼルバイジャンとアルメニアに囲まれ、ロシアと国境を接していないナゴルノ・カラバフに対し、係争地のウクライナ東部はロシアと国境を接しており、ロシアとウクライナ間の戦闘となれば、「代理戦争」ではなく、直接対決となる。

トルコのドローンは、低~中高度でその威力を発揮するが、戦闘機中心の高高度の戦いとなった場合は撃ち落とされる可能性が高い。兵員や国防予算など55の指標を用いて各国の軍事力を比較している「グローバル・ファイヤーパワー」の2021年ランキングによると、ロシアとウクライナの軍事力はロシアが世界第2位、ウクライナが25位。ロシアの持つ戦闘機は約800機、ウクライナは約40機だ。トルコの軍事アナリストの一人は「両国の軍事衝突となった場合、ドローンの戦いを避けたいロシアは、戦闘機中心の高高度の空中戦に持ち込む可能性がある」と指摘する。

■NATOの中で独自の立場、緊張緩和の役回りも?

ウクライナとの国境に近いロシアの軍事飛行場で輸送機に乗り込むロシア軍空挺部隊=4月22日、ロイター

4月23日、ロシア政府はクリミアからの撤退を発表した。軍事演習が終了したことが理由だが、重火器の多くは、クリミアやウクライナ国境に近い場所に残されており、「形だけの撤退」とみられている。一方、ロシアは、NATOがアメリカ主導で今年3月から行っている大規模軍事演習において、意図的にロシア国境方面に軍備強化がなされているとし、警戒心を高めている。この演習には、NATOのパートナー国であるウクライナも参加している。

バイデン氏はトランプ氏の「アメリカ第一主義」から多国間同盟を重視しNATOの結束強化を図ろうとしている。トルコは、シリアやリビアなどへの関与や、ロシアからの地対空ミサイルシステムS400購入でアメリカを始めNATOとの亀裂を生んだが、見方を変えれば、ロシアの「拡張主義」に真っ向から対峙して来た唯一の加盟国でもある。ウクライナとロシアの緊張緩和には、こうしたトルコの特異な立場が生きる可能性もある。NATO加盟国としてのトルコの役割を印象付けることで、一定の信頼回復を果たしたい狙いもあるようだ。

一方、ロシアのプーチン氏とエルドアン氏は、今年に入ってからも電話で複数回やり取りを行っている。昨年の年末恒例会見でプーチン氏は、エルドアン氏について「考え方の違いはあるが、信頼できる指導者」と述べている。ウクライナとの緊張が高まって以降も、いまだ両首脳の関係に大きな影響は出ていない。

ウクライナの行方を握る二大国の間で、仲介役として存在感を示すことができるか、双方の板挟みにあい、身動き取れない状態に陥るか。東西の間で、大国の間で、歴史的に培ってきたトルコ外交のバランス感覚が、今問われている。