1. HOME
  2. World Now
  3. 働き手も留学生もアフリカから積極受け入れ トルコの狙いはどこにある

働き手も留学生もアフリカから積極受け入れ トルコの狙いはどこにある

トルコから見える世界
ソマリア人が経営するカフェ。ひき肉と野菜を皮で三角形に包んで揚げた伝統食「サンブーサ」なども販売している

■首都のソマリア人コミュニティ

この1年ほど、近所のスーパーや路上で、アフリカ系の人々を目にする機会が増えた。首都アンカラの、歴史的に大使館の多い地域だが、近年はアフリカの大使館が急速に増えている。自宅から坂を下って北に徒歩45分ほどのアンカラ中心部クズライ広場に向かうと、すれ違うアフリカ系の人々の数はさらに増える。特に、広場の十字路から北西に上る通りで往来が多いようだ。

さりげなくその流れに身を任せて歩いてみること約3分。大通りから脇に入ったスメルビル通りには、ソマリア人が経営するレストランやカフェ、理髪店や衣料品店がずらりと並んでいた。コロナ禍のもと、トルコではカフェもレストランも、持ち帰りと配達のみ。「採算が合わない」、「店舗家賃が払えない」などの理由で休業したり撤退したりする店もある中、この通りは、朝から晩まで老若男女を問わずアフリカ系の人々が行き来し、コロナ禍でも賑わいを見せている。

クズライの衣料店。ソマリアなどで着用されている女性の伝統服が並ぶ

「アンカラのど真ん中で、ここだけ不思議な空間だろう」。エルジャン・シェンさん(44)は、この通りで理髪店を営んでいる。隣にはソマリア人のカフェ、向かいにはソマリアレストラン、はす向かいにはトルコ人とソマリア人の共同経営カフェがある。半年ほど前、ソマリア人の友人から紹介を受け、ソマリア人の男性理容師2人を雇った。

8畳ほどの店内は、待合客も含め、アフリカ出身者で埋まっていた。黙々と散髪する二人を横目に、エルジャンさんは「とにかく真面目だし、誰に対しても丁寧に接している」とその働きぶりに感心する。今や8割がアフリカ系の客で、多い日には一日当たり30~40人が訪れるという。

アフリカ諸国との関係を深めてきたトルコのエルドアン政権は、アフリカ各国と二国間の商業協定も数多く締結している。それにより労働者の行き来も容易になっているという。だが「ソマリア」と聞くと、つい内戦やテロ、海賊をイメージしてしまう。

「戦火を逃れて来た人が多いの」と聞くと、エルジャンさんは、「そう思いがちだが、実際には、ソマリアで仕事をしていて、さらによい稼ぎを求めてトルコに来た人が少なくない。昔のトルコにとってのドイツのようなもんだ」と笑った。さらに、移民としてイギリスやフランスでそれなりの生活をしながらも、「トルコのほうがイスラム教やアフリカ出身者に対して寛容だから」とやって来て、ビジネスを始める人たちも少なくないという。

■深化するトルコ・アフリカ関係

ソマリア人が経営するソマリア料理店。コロナ禍で持ち帰りのみの営業だ

トルコは1923年の建国以来、西欧化を掲げ、ヨーロッパに追いつくことを目標にしてきた。だが、エルドアン現政権は2002年に発足して以降、トルコがそれまであまり目を向けてこなかったアフリカに注目。エルドアン首相(当時)による2005年の「アフリカ年」の宣言を皮切りに、アフリカ支援に積極的に乗り出した。

今や、アフリカにおけるトルコ大使館の数は2002年の12か国から42か国に拡大。在トルコのアフリカ大使館も、10から36に増えた。二国間の経済協力団体数は50に迫る。さらに、トルコの航空最大手ターキッシュエアラインズは30か国、50以上の拠点に直行便を飛ばすなど存在感を増している。

2008年にはイスタンブールで「トルコ・アフリカ協力サミット」が開催され、16年からはトルコとアフリカ諸国との投資とビジネス拡大を目指す会合を定期開催するなど、トルコの積極的なイニシアチブが目立つ。アフリカとの貿易額も年々拡大している。大統領府によると、2020年には、政権就任時と比べ4倍近い260億ドルに達した。エルドアン氏は、「近い将来、500億ドルを目指す」と意気込む。

■世界最大のソマリア支援国

ソマリア人が経営するレストランと雑貨屋でそれぞれ働いているムハンメットさん(23)(右)とアブドゥッラーザックさん(20)。2年前に兄弟でトルコにやってきた。働いたお金を実家に送っているという

トルコが最も注力しているのは、ソマリアだ。政府と反政府組織との間での対立が続くソマリアでは、テロも少なくない。トルコと同じくスンニ派が多数を占めるソマリアを、エルドアン氏が初めて訪れたのは、東アフリカで深刻な干ばつが発生した2011年。ソマリアへの世界の関心が薄かった当時、アフリカ以外の首脳としては約20年ぶりの訪問を実現し歓迎を受けた。

トルコの支援は、当初の人道支援からやがて教育、医療、インフラ分野にも拡大。学校や病院が開設され、新たな道路が整備されるなど、支援額はこの10年間で10億ドルを超える。昨年11月には、ソマリアが国際通貨基金(IMF)に負っていた負債の一部、240万ドルをトルコが肩代わりした。

他国のソマリアへの支援は、治安上の理由で隣国から遠隔で行ったり、警備の厳しい首都モガディシオの国際空港内に設置した大使館を通して行われたりするケースが多い中、トルコは2016年にモガディシオ中心部に大規模な大使館を構えた。イスタンブールからの直行便ももつ。17年には、インド洋に面するモガディシオ南部に、400ヘクタールに及ぶ軍事基地を建設。主にソマリア軍への軍事訓練を目的としており、基地内には3つの軍学校も備える。計1万人の兵士養成を目指しており、訓練にはトルコ産の武器が用いられている。

人道支援が発端だが、トルコは当初からその戦略的重要性にも目を向けていた。アフリカ屈指の約3,000㎞の海岸線を持ち、紅海とインド洋をつなぐ。さらに、スエズ運河を経由して、アジアとヨーロッパを結ぶ重要な海上輸送の玄関口となっている。

また、ソマリア沖はマグロをはじめとした豊富な漁場としても知られ、両国で漁業協定も締結している。こうした両国の結びつきの強さから、今年発表が予定されているソマリア沖海底油田・ガスの初めての採掘権は、トルコが獲得する可能性が高いと噂されている。

■リスクと隣り合わせ

オーストラリアに本部をもつ経済平和研究所が、世界163の国を対象に、約25の項目に基づき平和の度合いを数値化した「世界平和度指数」によると、2019年はソマリアが最下位。トルコの施設も過去複数回、反政府組織「アル・シャバブ」の標的になっている。2013年のトルコ大使館を狙った自動車爆弾テロに続き、17年と20年にはトルコ軍の基地がテロ攻撃を受けた。

アフリカとの関係作りには、政変によるリスクもある。たとえば2011年に、南スーダンの分離独立で石油収入を失い、投資呼び込みに舵を切ったスーダンのバシール政権にトルコは急接近して経済協力を深め、17年には安全保障、観光など12の協力協定を締結。さらに、紅海に浮かぶ、オスマン帝国時代の要港をもつ島の99年間の貸与も合意された。

だが、19年にはスーダン軍がクーデターを起こし30年に及ぶバシール政権が崩壊。新たな暫定政権には、スーダンの隣国エジプトや、紅海を挟んで向き合うサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)など、トルコと対立関係にある国々が後ろ盾になっていると言われており、バシール政権下で締結した多数の協定の行方が危ぶまれている。

南スーダン最大の避難民キャンプで警戒をする国連PKO部隊員=2018年5月3日、南スーダン北部ベンティウ近郊、杉本康弘撮影

■ハードパワーとソフトパワー

2017年にソマリアの軍事基地を開設して以降、アフリカにおけるトルコの軍事的存在感が増している。東西に分裂し内戦の続く北アフリカのリビアでは、トルコは国連が認める暫定政府側を支援し、反政府側を支援するUAE、エジプト、フランスなどと対立関係にある。19年11月に暫定政府と軍事協定を結ぶと、トルコの関与で一気に攻勢をかけ、政府軍の優位をもたらした。

こうした背景には、近年その性能が注目されている、ドローンをはじめとしたトルコの国産武器の投入がある。「リビアはアフリカ諸国への軍事産品輸出のショーケースと化している」(アフリカ専門家)との指摘もあるほどだ。大統領のアフリカ外遊時には、トルコからの武器購入契約に加え、軍事協力協定が結ばれることも少なくない。昨年は、複数の国と数億ドル規模の装甲戦闘車やドローンの輸出協定を結ぶなどしている。

昨年7月には、フランスの影響力が強く、リビアと国境を接するニジェールとも軍事協力協定を締結。アフリカにおいてソマリア、リビアに続く軍事基地設置の準備ではとの憶測を呼んだ。「フランス勢力圏」である西アフリカのセネガルやマリとも粛々と協力関係を構築している。

トルコは、アフリカからの留学生を積極的に受け入れている。政府や民間の充実した奨学金制度が学生を引きつける。授業料のほか、滞在費、医療保険、往復航空券などを含む太っ腹の全額給付型奨学金は、「トルコシンパ」を作るための将来への投資という考えが基礎にある。卒業生の進路も様々だ。医学部や工学部を卒業し、祖国で医者やエンジニアになる人もいれば、現地のトルコ企業で働いたり、政府機関に勤めたりする人もいる。ソマリアでは昨年、トルコの大学卒業者が閣僚に起用された。

一方、アフリカでは、トルコ政府系の基金を通じて150近い学校を運営、約2,000人の児童・生徒を受け入れている。トルコ国内でも徐々にアフリカへの関心が高まっており、大学を主として、今や全国に約20のアフリカ研究所が設置されている。

イスラムを前面に出すエルドアン政権の外交は、「モスク外交」とも呼ばれている。アフリカでもモスクを次々と建設し、イスラム関連の文化遺産の修復を手掛け、人々にイスラムの名の下に連帯を訴える。トルコの宗教庁が出す奨学金を利用した留学生も多い。

また、日本の「漫画」がソフトパワーとして外交に使われてきたように、トルコの連続テレビドラマの影響力がここ数年、世界中に拡大している。報道によると、トルコのテレビドラマ輸出はアメリカに次ぐ世界第二位、世界150か国で放映され、年間5億ドルを超える売り上げがある。アフリカでも大ヒットしており、ロケ地巡りでトルコを訪れる観光客や、ドラマを見て憧れ、トルコを留学先に選ぶ学生も増えているという。

■なぜトルコが受け入れられるのか

トルコのエルドアン大統領=2017年、トルコ・イスタンブール、杉本康弘撮影

トルコのアフリカ外交は、エルドアン氏自らがけん引する。訪問時には主要閣僚を携え、数百人規模のビジネス団を引き連れることも珍しくない。首脳会談後の会見でエルドアン氏は、両国間の貿易額の目標数値を大々的に発表し、数々の二国間協定に署名する。さらにヨーロッパの国々を意識し、トルコが植民地支配に加担していなかった歴史を強調。西欧が展開してきた「上から目線」の支援ではなく、また、中国による「中国のため」の天然資源開発目的の支援とも一線を画し、「Win-Winの関係づくりを目指す」と訴え、いわば「第三の選択肢」を提示している。

政府機関や企業、民間NGOなど官民が協力しながら人道支援からインフラ整備を手がける。病院や学校など、日常生活に直結する施設が、目に見えてわかりやすい形で作られるため、人々の目にトルコの成果がはっきり映りやすい。さらに、テロなど不測の事態が起きても企業の撤退や投資の中止に至らないことが、「信頼できるパートナー」という印象を強める。

一方で、こうしたトルコ独自のやり方に、援助関係者からは懸念の声も上がっている。援助機関や他の支援国との間で、支援の重複を避け、優先順位や役割分担などを話し合う協調がなされないまま、トルコが独自のやり方で突き進んでいる、という指摘だ。また、「受益国のニーズに応じて、長期的計画に基づく支援が大切だが、トルコの支援はトルコにとってやりやすい、場当たり的なものが多い」と指摘する人もいる。さらに、支援の透明性への疑問や、政権側に寄り過ぎているとの声もある。

■「グローバル・パワー」になりたい

今年1月には、アフリカ大陸自由貿易圏が始動した。アフリカの54ヵ国が署名し、5年以内に9割の関税を撤廃し、単一市場創設を目指す。将来的には域内移動の自由と域内統一通貨の実現も視野に入れており、世界最大規模の自由貿易協定となる。こうした中、アフリカの未来への各国の関心が高まっている。

かねてからエルドアン氏は「世界は5か国よりも大きい」と公言し、常任理事国が拒否権をもつ国連安全保障理事会の改革の必要性を訴えてきた。そこには、トルコが「ミドル・パワー」から脱却し、「グローバル・パワー」として、イスラム世界と非西欧世界を代表する国として認知されることへの期待がある。アフリカにおける影響力の拡大も、それを実現する布石の一つと言えるだろう。

一方で、トルコのアフリカでの動きが、同じイスラム世界からの警戒を呼んでいるのも事実だ。スーダンの例にみられるように、軍事クーデターで形勢が一気に逆転する場合もある。「親トルコ」を増やすとともに「反トルコ」をいかに減らしていくか、「グローバル・パワー」を目指すトルコの知恵が問われる。