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ロシアとウクライナは穀物輸出の好敵手同士

迷宮ロシアをさまよう
ロシアの農業見本市におけるクラスノダル地方の展示。クラスノダル地方は同国最大の穀倉地帯(撮影:服部倫卓)

穀物輸出国として躍進する両国

世界の主な穀物輸出国による輸出動向をまとめた図1をご覧いただくと、アメリカの存在が頭一つ抜けてはいますが、近年になって旧ソ連のロシアおよびウクライナが世界の穀物市場におけるプレゼンスを急激に高めていることがお分かりいただけると思います(2019年のロシアこそやや不振でしたが)。穀物生産および輸出は、ロシアとウクライナにとって、最重要な成長産業となっています。翻って、両国による供給は、世界の需給にも大きな影響を及ぼします。

そこで今回のコラムでは、ロシア・ウクライナの穀物輸出動向につき図解を試みるとともに、現在両国がこの分野で直面している問題を取り上げてみたいと思います。

小麦も飼料用に

ロシアがどんな種類の穀物を輸出しているかを整理したのが図2、同じくウクライナについて見たのが図3となります。なお、一般的に穀物輸出を論じる際には7月始まり・6月終わりの年度が用いられることが多いのですが、詳しい内訳が得られるなど使い勝手が良いのは1月始まり・12月終わりのカレンダーイヤーのデータですので、本稿では基本的にカレンダーイヤーで統一することにします。

ロシアでは、気候および収益性などの条件から、小麦の生産と輸出が最も盛んです。それに次ぐのが大麦ですが、近年は国際市場での需要が高いとうもろこしへのシフトも見られます。なお、かつてロシアはライ麦の生産も盛んでしたが、その作付は急激に縮小しています。ライ麦はロシア名物の黒パンの原料ですので、その生産が急減しているというのは、ちょっと意外な気もします。

一方、小麦、大麦にも増して、とうもろこしの輸出に強みがあるのが、ウクライナです。なお、今回は穀物がテーマですので詳しくは取り上げませんが、ウクライナはひまわり油の輸出国としては圧倒的な世界一となっています。

このように、輸出量という観点では、もはやロシアもウクライナも世界に冠たる穀物輸出大国です。ただし、両国産の穀物に共通する課題は、品質が安定せず、ゆえに輸出量ほどには稼げていないという点です。穀物のうち、大麦はもともと、家畜用の飼料や、加工食品の原料としての用途がメインです。ところが、直接食用に使われることが多いはずの小麦についても、ロシア・ウクライナ産は、低品質ゆえに輸出先で飼料用として使われるケースが少なくありません。

世界の10大小麦輸出国が、小麦を1トン輸出して何ドル稼いでいるのかを比較したのが、図4です。やはり、旧ソ連のウクライナ、カザフスタン、ロシアが低くなっています。生産面での改善はもちろん、輸送・保管の体制を整備して品質を安定させることが求められます。

アフリカ・中近東でしのぎを削る

次に、ロシアとウクライナがどんな市場に穀物を輸出しているのかを比較したのが、図5、図6です。両国に共通しているのは、アフリカ(主に北アフリカ)および中近東への輸出比率が非常に高く、また南アジアも無視できない重要性を帯びていること。具体的な国で言えば、両国ともエジプトが最大の穀物輸出相手国であり(図ではエジプトは中近東ではなくアフリカに分類してあります)、トルコ、イラン、サウジアラビア、バングラデシュ、イスラエル、リビアなども共通の大口輸出先です。

そう言えば、かつて「アラブの春」が発生した際に、「ロシアで起きた干ばつによって穀物の国際価格が高騰し、それがアラブ諸国における国民の不満増大に繋がって、政変の遠因となった」という言説が語られたこともありました。

なぜ、ロシア・ウクライナから、アフリカ・中近東・南アジアへの穀物輸出が盛んなのでしょうか? 一つには、上述の品質の要因があります。こうした地域では、品質要求が先進国ほど厳しくはなく、割安なロシア・ウクライナ産の穀物が現地の市場にフィットするという点があります。

もう一つ、アフリカ・中近東・南アジアには、ロシアやウクライナから輸送しやすいという要因もあります。ロシアでは、南部のクラスノダル地方、スタブロポリ地方、ロストフ州などが代表的な穀倉地帯であり、穀物輸出の大部分が黒海に面したノボロシースク港等で積み出されます。他方、ウクライナも黒海に面した国であり、ミコラーイフ、チョルノモルスク、ピウデンヌィ、オデッサといった港で穀物が積み出されています。黒海の港からは、ボスポラス~ダーダネルス海峡を通って地中海、紅海、インド洋の沿岸諸国に運びやすく、それゆえにアフリカ・中近東・南アジアが主要な販路となるわけです。

5からは、ロシアから旧ソ連諸国(ここではバルト三国は除く)にも一定量の穀物が輸出されていることが分かります。この取引は、ロシアにとっては必ずしも主力というわけではありませんが、旧ソ連の中小国は穀物自給率が低いので、むしろロシアの周辺国にとってメリットがあると言えそうです。ロシアが、2020年のコロナ禍で一時期穀物の輸出を制限した際に、「ユーラシア経済連合」(ロシアが主導する5ヵ国の経済同盟)の域内は制限の対象外とする措置をとったのは、象徴的な動きでした。

それに対し、図6に見るウクライナの輸出では、旧ソ連域内の輸出がほとんど行われていない一方、以前から欧州連合(EU)向けの輸出が柱の一つとなっており、しかもそれがここ数年で拡大を続けています。2014年にウクライナがEUと連合協定を締結したとはいえ、実は農業分野ではかなり関税障壁が残っているのですが、ウクライナ産穀物にはそれを補って余りある低価格という武器があり、EUでの販路拡大に成功しています。

もう一つ、図6のウクライナの輸出で顕著なのは、アジア太平洋経済協力(APEC)市場への輸出増です。ウクライナからアメリカ大陸への穀物輸出はごくわずかなので、これはほぼ全面的に東アジアおよび東南アジアへの輸出と理解して差し支えありません。特に、中国への輸出増が目覚ましく、中国は2019年の時点でウクライナの穀物輸出先として第4位にまで浮上しています。それに比べると、ロシアはアジアに面した国の東部にも穀物産地と港を抱えているのに、それほどAPEC市場に食い込めていません。なお、20122019年の平均で、日本は、ロシアの穀物輸出相手国としては第45位、ウクライナの穀物輸出相手国としては第21位でした。

それぞれに抱える問題

このように、穀物の輸出量という観点から見れば、ロシアもウクライナもすでに世界から一目を置かれる重要プレーヤーです。しかし、問題も少なくありません。品質向上・安定化の課題については上で述べましたが、それ以外に最近両国が直面した問題を一つずつ挙げたいと思います。

まず、ロシアは輸出制限措置を安易にとりすぎる傾向があります。というのも、歴史上、何度も食料不足を経験してきたロシアではその恐怖感が強く、「まずは国内供給を優先し、輸出は余力に応じて行う」という発想が染み付いているのです。現に、2000年代以降、凶作や内外価格差の拡大で国内の穀物供給に不安が生じた際に、ロシア政府は穀物の輸出制限措置を発動してきました。具体的には、数次にわたって輸出関税を導入し、また20108月から数ヵ月間は穀物輸出を禁止したこともありました。

ここ何年かは、豊作が続いたため、穀物の輸出制限措置は影を潜めていました。しかし、2020年暮れになって、問題が持ち上がります。穀物収穫は良好であるにもかかわらず、ロシア国内でパスタ・マカロニ類をはじめとする基礎食品の価格が高騰しているとして、プーチン大統領がミシュスチン首相を叱責したのです。これを受けロシア政府は、本年215日から6月末まで、穀物輸出に輸出関税を上乗せする方針を固めました。

プーチン政権は輸出拡大を国家的な戦略目標の一つとして掲げており、穀物輸出はそれを達成するための切り札のはずです。今回浮上した輸出関税は、それとは矛盾するものと評価せざるをえません。ロシアが国内事情から、たびたびこうした輸出制限措置を講じていると、「ロシアは信頼できない穀物供給国だ」という悪いイメージを、国際的に植え付けてしまうわけで、こうした人為的な輸出制限は最小限であるべきです。

一方、ウクライナに関し気がかりなのは、気候面の問題です。同国では、上掲の一連の図に見るとおり、2019年までは輸出が絶好調でした。しかし、2020年には凶作に見舞われ、 その影響で、2020/21年度の穀物輸出は前年度比16%ほど落ち込むと予測されています。背景には、2020年の夏にウクライナ南部を中心に干ばつと猛暑に見舞われ、主にとうもろこしの収穫に打撃が生じたことがありました。

これが2020年だけの一時的なものならいいのですが、グローバルな気候変動によって、ウクライナの気候は今後も趨勢的に厳しくなっていくという見方があります。ある専門家は、2020年の異常気象は決して偶然ではなく、ウクライナの気候は今後10年で150200km北に移動する可能性があると指摘しています。世界有数の穀倉地帯であるウクライナに異変が生じることがあれば、その影響は一国には留まらないでしょう。