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高まる「ウクライナ侵攻」の危機 アメリカメディアはどう伝えているか

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ウクライナの首都キエフで、ライフル銃の木造模型を手に軍事訓練をする一般市民
ウクライナの首都キエフで、ライフル銃の木造模型を手に軍事訓練をする一般市民=2022年1月30日、金成隆一撮影

ロシアが数日でキエフを占領し、ウクライナ市民5万人の犠牲を出す可能性 米国が試算
Russia could seize Kyiv in days and cause 50,000 civilian casualties in Ukraine, U.S. assessments find
2022年2月5日付 ワシントン・ポスト紙

最近、日本市場への参入を目指す海外のベンチャー企業のメンターを務めている。先日、その中の1社の創立者で、ウクライナの首都キエフ在住の30代の温厚な青年とZoom会議をしていた。しかし、私は話に集中できなかった。Zoomの画像に使われている、幼い娘を肩車しているチャーミングな写真が何度も頭をよぎったのだ。いつ、その家族が危険にさらされてもおかしくない状況で、普通にビジネスに関する話をしていることが非現実的な気がした。

というのも、ニュースを見ている人なら誰でも知っているように、ロシアがウクライナ国境付近に約13万人の軍隊をmassed(集結させ)、ウクライナに大規模な侵攻をするためと思われる準備を完了しようとしているからである。この侵攻によって、最大5万人の市民が死傷し、キエフの政府は2日以内にdecapitate(首都を制圧)され、その結果生じる混乱から逃れるために500万人ほどの難民が発生する可能性がある。

実はウクライナとロシアはすでに戦争状態にある。2014年、ロシアによるクリミア併合とウクライナ東部のドンバス地方への侵攻で始まったuneasy stalemate(不安な膠着状態)が何年も続いてきた。現在、ドンバスではウクライナ兵とロシア兵が毎日trading fire(砲火を交え)、これまでにこの紛争で約1万4000人が死亡している。

この限られた塹壕(ざんごう)戦が、はるかに大きく致命的な惨禍へとエスカレートする可能性は常にあった。今、われわれはその悪夢のシナリオをon the verge of(目前にして)おり、危機を外交的に解決するチャンスは、もうすぐなくなるかのように見える。

クレムリンが侵攻計画を繰り返し否定しているにもかかわらず、移動する部隊は増えている。ウクライナの国境沿いでは、軍隊が戦争に向けた最終準備を進めているかのような、ほぼ教科書通りの光景が見られると分析されている。プーチン大統領の命令があれば、このsubstantial(かなりの数の)ロシア軍はウクライナを攻撃するpoised to(態勢を整えている)ようだ。軍備増強の規模を見れば、それが単なるbluff(はったり)でないことは明らかである。

これはおそらく、ヨーロッパにとってここ数十年で最も危険な瞬間である。キエフでは再び防空壕(ごう)の看板が立っている。ウクライナの家族は、dead of winter(真冬)に家を出るか、じっと我慢してロシアの包囲網を乗り切るか、といった厳しい選択を間もなく迫られるかもしれない。

米国は、プーチンの外交的要求に応えようとし、交渉に失敗すれば厳しい制裁を科すと脅しつつ、ロシアのウクライナ攻撃を回避するように努力している。一方、バイデン大統領は東欧へ米軍約3,000人を追加派遣することを承認し、米国・欧州の両方がウクライナに軍備を供給している。

ウクライナのゼレンスキー大統領は、もし外交努力が失敗したら、「これはウクライナとロシアの戦争にはならないだろう。これはヨーロッパの戦争、full-fledged(本格的な)戦争になるだろう 」と警告した。

■なぜこのようなことが起きているのか?

この危機は、過去8年間のプーチンへの対応を誤ったことに起因している、と記事の一つは指摘する。彼は西側諸国に対して政治的戦争を仕掛け、at every turn(ことあるごとに)米国とその同盟国にダメージを与えようとしてきた。欧米諸国は、プーチンが変わることを期待して、「リセット」や「融和」を提案し、効果的に反撃することができなかった。そしてプーチンは依然として、米国の利益に対して世界中で攻撃を続けている。

プーチンは長い間、ウクライナのような旧ソ連諸国に対するsphere of influence(勢力圏)の再構築を望んできた。しかし、ウクライナの有権者は近年、親欧米の政府や政策を繰り返し選択しており、ウクライナは北大西洋条約機構(NATO)に加盟していないものの、西側軍事同盟と安全保障上の強い結びつきを確立している。

ロシアは数週間前から、現在の危機はウクライナだけの問題ではなく、ロシアの利益を考慮に入れていない欧州の安全保障構造に関するものだと主張してきた。ロシアの主要な要求は、NATOの拡張を止めることである。プーチン大統領は、ウクライナのNATO加盟を絶対に認めないという確約を求め、東欧からの撤退を要求している。それは当然、同盟国にとってno-go(絶対に嫌な)ことである。

■戦争が始まったら、何が起こるか

可能性としては、ロシア軍が迅速かつ圧倒的な攻撃を行い、ウクライナ軍にirrecoverable(回復不能)な損害を与え、キエフの政治的capitulation(降伏)、そして場合によっては政権交代に拍車をかける、というものがある。

最悪のシナリオでは、100ほどのロシアの大隊戦術集団による空爆とロケット弾の波状攻撃が先行する形で、複数の方面からウクライナに侵攻することになると見られている。ウクライナは、国境付近で反撃することになるだろう。

しかし、それは始まりに過ぎない。ワシントンとキエフの国防関係者は、長く苦しい戦いが続くと予測している。おそらく親ロシア派のクーデター未遂や断続的な停戦、絶望的な和平計画によって中断し、暴力の火山がヨーロッパの真ん中でfestering(くすぶったまま)になるだろう、とコラムニストの1人は指摘している。

ウクライナの人々は、米国のdire(悲惨な)警告とロシアのmenacing(脅威的な)増強に対して、ストイックさとapprehension(不安)とresolve(決意)を織り交ぜて反応している。領土を無期限に保持する完全な侵攻は、おそらくロシアにとって挑戦的なものになるだろう。ウクライナの人々は、ロシアが樹立した傀儡(かいらい)政権を受け入れず、民衆と軍隊の両方で強力な抵抗運動を展開するだろう。最近の世論調査では、少なくともウクライナ人の3分の1は武器を取り、ロシアの侵攻に対して力ずくで抵抗する用意があるという。

今後起こりうるhorrifying(恐ろしい)紛争を考えると、米国は初期段階での逆転がどうであれ、長い戦争に勝つことに焦点を合わせることが重要だという。そのためには、何よりもNATOの同盟関係を維持し、ロシアの言いなりになって紛争を止めるような初期の誘惑的な妥協を避けることが重要だとの意見も出ている。

■プーチンが米国と欧州を団結させた

昨年の夏、米国がアフガニスタンから迅速に撤退して、不意を突かれたヨーロッパ諸国から苦情を受け、また、フランスがオーストラリアとの新しい防衛連携から阻害されたとの苦情も受けたバイデン大統領は、このウクライナ危機で同盟国を巻き込むために、gone out of his way(わざわざ出向いた)。

バイデン大統領は、国内問題で足を引っ張られ、懐疑的な欧州の一部からは過渡的な人物と見られていたにもかかわらず、プーチン大統領の脅威に立ち向かう西側諸国のリーダーとして浮上した。

これについて記事は、「バイデン政権にとって、これは切望されていた外交的リセットに相当する」と述べている。プーチンは、分裂しrudderless(かじを失った)ヨーロッパに衝撃を与える譲歩を要求することで、西側諸国を米国のリーダーシップのもとに団結させた、という。

同時に、欧州諸国は温度を下げるためにクレムリンに直接働きかけを行っている。欧州諸国は、ロシアの侵攻によってロシアに厳しい制裁が課せられると、米国よりもロシアと密接な関係にある自国の経済が打撃を受けることもあり、緊張緩和には強い関心を持っている。

■プーチンにとっての戦争の代償

なぜプーチンは戦争の危険を冒してまで、ウクライナをロシアの支配下に戻そうとするのだろうか? その答えの一つは、昨夏に長いマニフェストで表明した、「ウクライナ人とロシア人はindissoluble(不可分)の一つの民族である」という彼のconviction(信念)にあるのだろう、と記事は言う。もしそれが本当なら、ウクライナのヨーロッパ的で民主的なアイデンティティーは、プーチンが作り上げた独裁的なロシアにdoom(破滅)をもたらすことになる。

プーチンが主導権を握っているように見えるが、彼の行動は、彼が関心を持っていると主張するもの自体をimperil(危険にさらす)恐れがある。プーチンのbelligerence(好戦性)とリスクテイクは、まさにロシアが避けようとしていること、すなわち欧州における米国のプレゼンスの増大、NATOの強化と再活性化、そしてウクライナが永遠に西欧志向になることを導き出す可能性があるのだ。

「侵略は、プーチンにとって最も重要なもの、すなわち自国の政治的権力と支配、を危うくする可能性さえある」と記事は指摘している。

世論調査が示唆するように、ロシア人はこの「選択された戦争」の代償に反発するだろう。ロシアの若者たちは、携帯電話やソーシャルメディアを通じて現代社会とつながっており、西側諸国へも簡単に行くことができる。だからこそ、バイデン政権の厳しい経済制裁を科すという脅しは強力なのだという。

ロシアはコンピューター・チップを製造しておらず、技術的な基盤がない。金融システムは欧米の銀行に依存し、ロシアの新興財閥はロンドンやフランスでぜいたくな海外生活を送っている。プーチンは、孤立するという経済的コストには対処できるかもしれないが、政治的、社会的コストには対処できないだろう。ロシアが国際社会でpariah(のけ者)になったら、プーチンは自らの正統性を失うことになるはずだ。

キエフにいる私のクライアントと彼の家族のためにも、プーチンにはよく考えて行動してもらいたいものである。


(原文)
ロシアが数日でキエフを占領し、ウクライナ市民5万人の犠牲を出す可能性 米国が試算
Russia could seize Kyiv in days and cause 50,000 civilian casualties in Ukraine, U.S. assessments find
2022年2月5日付 ワシントン・ポスト紙

最終準備段階のロシア軍部隊、ウクライナに不安を与える
Russian Troops in Final Stages of Readiness Add to Worries for Ukraine
2022年2月4日付 ニューヨーク・タイムズ紙

ロシアがウクライナに侵攻する可能性について、誰を信じるか?
Who ya gonna believe about Russia invading Ukraine?
2022年2月4日付 ボストン・グローブ紙

アメリカはヨーロッパに留まる--プーチンのおかげで
America is in Europe to stay — thanks to Putin
2022年2月3日付 フィナンシャル・タイムズ紙

バイデンはウクライナ問題でプーチンを個人制裁で脅している。この圧力戦術について知っておくべきこと
Biden is threatening Putin with personal sanctions over Ukraine. What to know about this pressure tactic.
2022年2月2日付 ワシントン・ポスト紙

プーチンが沈黙を破ったウクライナ危機の5つのポイント
Five Takeaways on Ukraine Crisis, After Putin Breaks Silence
2022年2月2日付 ニューヨーク・タイムズ紙

見え隠れするウクライナ危機の出口
The exit from the Ukraine crisis that’s hiding in plain sight
2022年2月1日付 ワシントン・ポスト紙

プーチンは危機の原因を米国のせいにする一方、外交に前向きな意向を示す
Putin Signals Openness to Diplomacy While Blaming U.S. for Crisis
2022年2月1日付 ニューヨーク・タイムズ紙

プーチンをとめるには、本当に痛いところを突くしかない
Stopping Putin Means Hitting Him Where It Really Hurts
2022年1月30日付 ワシントン・ポスト紙

プーチンとのにらみ合いで、バイデンは欧州の同盟国を味方につける
In Standoff With Putin, Biden Makes Sure European Allies Are With Him
2022年1月28日付 ニューヨーク・タイムズ紙

ウクライナへの侵攻は、プーチンに一度裏目に出た。なぜまたやると脅しているのか?
Invading Ukraine backfired on Putin once. Why is he threatening to do it again?
2022年1月28日付 ワシントン・ポスト紙

ウクライナでのこれからの戦い:ボディーバッグとサイバー戦争
The fight ahead in Ukraine: Body bags and cyberwar
2022年1月25日付 ワシントン・ポスト紙

ウクライナ内部からの視点 - 人々は緊張しつつも、ロシアに抵抗する準備ができている
A view from inside Ukraine — tense but people are ready to resist Russia
2022年1月21日付 ニューヨーク・ポスト紙