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「プラごみは商品だ」再生プラスチック、需要急増 ベトナム「ペットボトル村」の活況

World Now
ベトナムのプラスチックごみの埋め立て地=宋光祐撮影

■この仕事なら金持ちになれる

プラスチックごみを山積みにした荷台を引っ張るバイクが、何台も道を行き交う。ベトナムの首都ハノイ郊外のサーカウ村。かつて線香の産地だった小さな集落はいま、ペットボトルを中心にプラスチック容器をリサイクル処理する場所になり、「ペットボトル村」と呼ばれるようになった。

道路沿いに立ち並ぶ家の軒先を作業場にして、住民たちは色や形、材質ごとにプラスチック製品を分別する。「この仕事なら金持ちになれる」。村の入り口近くに住むグエン・バン・トゥイさん(53)は、笑顔で打ち明けた。タクシー運転手を10年前にやめて、ペットボトル専門のリサイクル会社を始めた。平均月収が3万円程度のベトナムで、従業員30人を抱える立派な中小企業の社長になった。

トゥイさんの会社では、ブローカーがハノイを中心にベトナム北部で集めたペットボトルを買い付け、洗浄して粉々のかけらに加工する。「フレーク」と呼ばれるプラスチックの小さなかけらは主に中国に輸出されて、化学繊維として洋服やスニーカーに生まれ変わる。

事業を始めた当初に1キロ約30円だったフレークは、ここ数年で3倍ほどに値上がりした。トゥイさんは「まだ値上がりするはずだから事業を広げたい」。

■リサイクル率たった9%

ベトナム・ハノイ郊外に集められたプラスチックごみ=宋光祐撮影

期待の背景にあるのは、さまざまな製品の素材として使われるようになった再生プラスチック需要の急増だ。

環境保護に取り組む各国政府の規制や消費者意識の高まりを受けて、先進国の企業はこぞって再生プラスチックを買い求めている。ナイキやアディダスといったアパレル大手が廃ペットボトルからつくった化学繊維の割合を増やして服やスニーカーをつくっているのは、その代表例だ。

研究者らの推計によると、海洋へのプラスチックごみの排出量は中国が最多で、インドネシア、フィリピン、ベトナムと続く。東南アジアでは公的なごみ収集のシステムが十分に機能せず、河川や沿岸部に放置された大量のプラスチックごみが海に流出している。

排出量が多い場所でプラスチックの再利用に取り組めば、環境への貢献度も高くブランド価値も上げられる。そんな思惑で、多くの企業が再生プラスチックの仕入れ先として東南アジアに熱い視線を向ける。

だが、廃棄されたプラスチックすべてに高値が付くわけではない。ポリ袋や包装用のプラスチックはリサイクル価値がなく、ほとんど使い捨てにされる。再利用できるプラスチックでも、汚れを落とし、材質ごとに選別するコストがかかるため、焼却や埋め立て処分にされがちだ。

世界全体で見ればプラスチックのリサイクル率は9%に過ぎないとされる。東南アジアでは、河川近くに捨てられたプラスチックごみが海に流れ、海洋汚染を引き起こす。

■プラスチックの『孤児』たち

ベトナム南部のフーコック島を11月に訪ねた。

手つかずの森林や海岸線が残る「最後の秘境」は、リゾート地として急速に開発が進む。島民によると、乾期に入って間もないこの時期は潮の流れで島の東側に海洋ごみが押し寄せる。整備されていない東海岸のビーチを、午前中に歩くと、満潮を迎えた夜中の波打ち際に沿ってごみが延々と列をなしていた。

プラスチックごみが散乱するベトナムの海岸=宋光祐撮影

ボロボロになったポリ袋やぐちゃぐちゃに絡まった漁網、砕けた発泡スチロール、汚れた洗剤の容器。目につく大きなごみのほとんどがプラスチックだった。サーカウ村で見たような、きれいに洗浄されたペットボトルは落ちていない。どれも、砂に埋もれたり流木に巻き付いたりして、再利用が難しいのは、私のような素人の目にも明らかだ。

「海岸に打ち上げられたプラスチックごみは、引き取り手がだれもいないプラスチックの『孤児』たちだ」

現地を案内してくれたイスラエル出身のバラク・エクシュタインさん(45)が、砂浜に落ちたポリ袋を拾い上げて話した。

■プラごみは、いまや廃棄物ではなく商品

エクシュタインさんは2019年、「トントゥトン(TONTOTON=TTT)」という会社を設立した。

そのビジネスモデルは、二酸化炭素の排出量を取引するカーボン・オフセットと似た仕組みから、プラスチック・オフセットと呼ばれる。

近年、米国やカナダの企業が東南アジアなどを拠点に事業を始めており、カーボン・オフセットと同じように、先進国で大きく広がりそうだ。TTTは、フーコック島を含むベトナムの海辺の町3カ所と、カンボジア南部のシアヌークビルでリサイクルの価値がないプラスチックごみを集め、クレジット(排出権)として企業などに販売。企業は自社で使ったり生産したりしたプラスチックと同じ重量分のクレジットを購入することで、プラスチックの消費を相殺する。自社製品などで「プラスチック・ニュートラル」を宣言でき、環境にやさしいイメージを打ち出せる。

「トントゥトン(TONTOTON)」が収集したプラスチックごみ=宋光祐撮影

エクシュタインさんによると、顧客は先進国の企業が多く、パッケージにプラスチックを使う化粧品メーカーや米国の大手音楽レーベルなどさまざまだ。「プラごみは、いまや廃棄物ではなく商品だ」

ごみを集めるのは、地元のごみ収集業者だ。業者といっても、ベトナムでは公的なシステムが発達していないため、個人や家族がごみを集めてブローカーに売るのが通例だった。TTTのようにプラスチック・オフセットをビジネスにする企業は、ごみ収集を担う貧困層に登録制で働いてもらって報酬を支払うことで生活の底上げをめざす社会起業家のような側面もある。

フーコック島で登録しているTTTの収集人は10人ほど。責任者を務めるグエン・タイン・フォンさん(57)は「いままでは、お金にならないため拾っていなかったプラスチック製品を集めるようになったことで収入が増えた」と喜ぶ。

■グリーンウォッシュのリスクは

ベトナム・ハノイ郊外に集められたプラスチックごみ=宋光祐撮影

ベトナム全体では毎月約70トンのプラスチックごみを集められるようになった。プラスチックごみはセメント工場で燃料として燃やされ、灰はセメントに混ぜて再利用される。

だが、プラスチック・オフセットが本当にプラスチックごみ削減につながるかどうかは未知数だ。新興国や途上国で集めたごみとの相殺が免罪符になれば、プラスチックの生産や消費そのものを減らすことにはつながらない。監視体制がなければ、集めたプラスチックごみの二重計上など不適切な手法も横行しかねない。

TTTのエクシュタインさんも「参入企業が増えれば、プラスチック・オフセットが環境配慮を装うだけで中身の伴わないグリーンウォッシュに陥る危険性はある」と認める。

「見てほしいものがある」。エクシュタインさんは、そう言って、島のごみ処分場につれていってくれた。捨てられた大量のプラスチックが山になっている。高さ20メートルはあるだろうか。

ベトナムのプラスチックごみの埋め立て地=宋光祐撮影

生ごみと下水の入りまじった臭いが鼻の奥まで突き刺さり、飛び交うハエの羽音が耳にいつまでもまとわりつく。山の前には、ごみ収集を仕事にする数世帯の家族がシートと木材で家をつくって暮らしていた。子どもの姿もあった。

「大量のプラスチックごみが存在するのは、目の前にある現実だ。どんな形であっても、少しでも減らすための取り組みをするべきじゃないか」