不要になったプラスチックが、埋め立て地、汚れた街路、自然保護区を塞いでいる。多くの人にとって最も憂慮すべきは、風船のように膨らんでいるグレートパシフィック・ガーベージパッチ(訳注=「太平洋ごみベルト」で、海洋ごみが特に多い北太平洋の中央部にかけての海域を指す)から、太平洋の最深部で見つかるごみに至るまで、不要プラスチックがこの惑星の海洋を圧倒し始めていることだ。
世界経済フォーラムとエレン・マッカーサー財団、マッキンゼー・アンド・カンパニーによる2016年の報告だと、海に流れ込むプラスチック廃棄物の量は毎分ざっと、ごみ収集車まるまる1台分に相当する。
プラスチック廃棄物を海からすくい取るとか浜辺で収集するといった困難な仕事を引き受けるとしても、問題は残る。そうしたごみをどうするのか、という問題だ。
これは、建築家やデザイナー、消費財メーカーが現在探っている問題である。
ノルウェーに拠点を置く建築会社「スノヘッタ」で、スティアン・アレサンドロ・エッケネース・ロッシは2年前にPlastを立ち上げた。Plastは、再生プラスチックの新たな利用法を見つけ、プラスチックのごみを廃棄物ではなく資源とみなすよう人びとに促すことを目的にした研究プロジェクトだ。
建築家としての教育を受けたロッシは独自の機械を使い、さまざまなプラスチック廃棄物を細かく砕いたり、溶かしたり、鋳型に入れたりして、ガラス状や乳白光を発するなど不思議と美しい新素材につくり変えている。
「低価格で安っぽいと思われているモノが実に機能的で長持ちし、驚くほどの利点があるというのは興味深いことだ」とロッシは言う。
「実際、みんながびっくりし、プラスチックは良いモノなのか悪いモノなのかをめぐって政治論争をした」と彼は言い添えた。「プラスチックは賢く利用すれば良いモノだし、下手に使えば悪いモノになる」
ロッシの研究を実用化するために、スノヘッタはノルウェー北部の家具メーカー「ノルディック・コンフォート・プロダクツ」(NCP)と提携した。NCPは1960年代にデザインしたR-48という、ベストセラーになったサイドチェア(訳注=ひじ掛けのない小ぶりの椅子)を製造した会社だ。同社は現在R-48を元にデザインし直した椅子を作り、S-1500と名付けた。それは、すべて養魚場から回収したプラスチック製の漁網やロープ、パイプを再生した大理石模様の素材でつくる椅子だ。
スノヘッタは現在、さらに大胆なその活用法について、複数の会社と協議を進めている。「それを建築やインフラにどう使えるかを綿密に検討しているのだ」とロッシは言う。
プラスチック廃棄物が水域に行きつく前に活用する方法を探っているケースもある。
「バイフュージョン」は、プラスチック廃棄物を「バイブロック」と呼ばれるコンクリートのような建築用ブロックにつくり変える会社だ。それを使って2019年6月には米カリフォルニア州のマンハッタンビーチで実演用の水難監視塔を、ハワイのリフエでは学校のパビリオン(仮設の展示館)を建てた。
非営利の環境保護団体「ロンリーホエール」とコンピューター企業「デル」は2017年、オーシャンバウンド・プラスチックを使った製品開発を主導する機構「ネクストウェーブ」を立ち上げた。この機構には現在、HP、ゼネラルモーターズ、イケア、ハーマンミラー、ヒューマンスケール、トレックバイシクル、インターフェース、ブレオが加盟している。
「目指しているのは、水域へと向かうプラスチック廃棄物の流れの蛇口を閉めること」とロンリーホエール事務局長のデューン・アイブスは言う。アイブスは、オーシャンバウンド・プラスチックを水路や海岸域から50キロ以内の地面にあるプラスチックごみで、「無価値だから、誰も決して拾わないであろうモノ」と定義している。
デルはネクストウェーブの事業としてインドネシアでペットボトルやプラスチック製の水差しを収集し、電子機器の包装用につくり変えている。
HPはインクカートリッジにオーシャンバウンド・プラスチックを再生して使い、その素材の一部をラップトップその他のコンピューターのハードウェアに組み込むことを始めた。19年4月には、ハイチでペットボトルを2500万本以上収集したと報告した。
ヒューマンスケール社は18年、リサイクルされた漁網からとる約2ポンド(900グラム余り)のナイロンを使い、「ディフリエント・スマートチェア」の改作版の業務用チェア「スマートオーシャン」を発表した。素材は、チリで廃棄された漁網を集めて、それを新しい製品に成型できるプラスチックペレットにするリサイクル会社の「ブレオ」から供給を受けている。
廃棄漁網は、問題の重要な一部だとアイブスは言い、それは海洋プラスチック全体の約10%から20%を占めていると推定する。非営利団体「オーシャン・クリーンアップ」が18年に完了した太平洋ごみベルトの調査で、ごみの46%が廃棄された漁具類だったことがわかった。
「漁網の寿命が尽きると、海に投げ捨てられ、甚大な被害をもたらす」とヒューマンスケールの最高経営責任者ロバート・キングは指摘する。「海洋動物はそれに絡まって殺されるし、海底の生態系を壊す可能性がある」
ヒューマンスケールは現在、素材をもっと取り込むためにブレオと協働し、漁網のナイロンを使って室内装飾用の布地にする織り糸の製作に取り組んでいる。「最終的には、私たちのテキスタイル(織物)の大半をオーシャンテキスタイル(海洋織物)にしたいと心から願っている」とキングは言う。
ヒューマンスケールはまた、全面的にオーシャンバウンド・プラスチックを使った椅子を開発しており、キングは20年の発表を期待していると語った。
自転車の部品にも同様に、やっかい物のプラスチックを取り込んでいる。トレックバイシクルは19年初め、ブレオのナイロンを使い、ベストセラーになったウォーターボトルホルダーの「バットケージ」をつくった。9月には、同社製のすべての電動マウンテンバイクに取り付ける泥よけをオーシャンバウンド・プラスチックでつくり始めた。
「他にも多くの活用法がある。自転車のサドルやグリップ、フェンダーに注目している」とステファン・バーグレンは語った。同社のシニア・プロダクツ・コンプライアンスエンジニアだ。「わが社の製造部門すべてが挑戦している」と言うのだ。
オーシャンバウンド・プラスチックのリサイクルに関わる大半の人たちが強調するのは、サプライチェーン(供給網)を拡大することの重要性である。製造業者の使用需要を促して、より多くの素材を獲得できるからだ。
「意図はとてもいい」。国際環境NGO「グリーンピース」でプラスチックに重点を置く地球規模のプロジェクトリーダー、グラハム・フォーブスは言う。しかし、こう続けた。「そうしたサプライチェーンは、すくなくとも今後20年間ないし30年間は膨大な量の生産に追いつけないだろう。ある意味、使い捨てタイプのプラスチック製品を消費し続けられるといった幻想を膨らませることになる」
グリーンピースはもっと効果的なことを求めているとし、彼はこう語った。「端的に言えば、プラスチックの使用を減らすことだ」(抄訳)(Tim McKeough)©2019 The New York Times
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