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コロナワクチン、リスクの情報は伝わっているか 警鐘鳴らす、ドイツのベストセラー

Bestsellers 世界の書店から
相場郁朗撮影

現在EUで接種されている新型コロナワクチンは、かつて人類に使われたことのない遺伝子ワクチンだ。各社のワクチンの仕組み、治験の仕方、危惧される副反応などについて、生物学者である著者が専門家による数々の論文や統計をまとめる形で解説する。

『コロナワクチン――救いかリスクか?』で著者はワクチンの治験期間が極度に短いと強調する。新しいワクチンの実用化には通常10年前後かかるが、コロナではどの社も普通なら順次実施する治験の各段階を同時に進めて大幅な時間短縮を図った。こうしてEUでは開発開始から1年弱で市民への接種が始まったが、実はどのワクチンもまだ治験中であり、「緊急承認」を受けているに過ぎない。

当然ながら長期的に人体に及ぼす影響は、未知のままだ。実際に別の遺伝子ワクチンでは1年半後に重篤な副反応が確認され、治験が打ち切られた例もある。また、コロナワクチンに期待される効果は発症と重症化の防止であり、接種者が他者を感染させる可能性もある。さらに、95%などとされる有効性の算出方法にも疑問が投げかけられているという。

コロナワクチンを一概に否定はしないものの、本書に上記のような負の情報が多いのは、各国の政府とメディアがワクチンを唯一の解決策として強く推奨する一方で、多くの専門家の警告がほとんど取り上げられないことへの危機感からだ。市民はメリットばかりでなく潜在的リスクの情報も得た上で、接種するかどうかを自身で判断すべきだと著者は主張する。そして、感染しても重症化しにくい若年層への接種の意義を疑問視すると同時に、非接種者の日常生活を困難にしたり、非接種者を道徳的に非難したりといった間接的な強制接種に強く警鐘を鳴らしている。

EUでは大規模接種が進み、血栓などの重篤な副反応例、死亡例の報告も上がっている。ドイツでは接種済みの人を対象に徐々に規制が緩和される一方、12~17歳の子供一般への接種は常設予防接種委員会の反対で見合わせとなりそうだ。接種に積極的な人も多いが、本書が刊行後4カ月以上売れ続ける事実は、政府とは違う見方や主張も知っておきたいと考える市民が多数いることを示している。

■厳しいコロナ対策、根拠を問い直すドイツ

スチャリット・バクディ、カリーナ・ライスという同著者の2作がベストセラーリスト入りするのは珍しいのではないか。『コロナワクチン――救いかリスクか?』と合わせて、リストにはコロナ関係の著作が3冊もある。ドイツ社会はいまだにコロナ一色だ。

スチャリット・バクディ、カリーナ・ライス『コロナ――誤警報?』は、2020年6月の刊行後たちまち凄まじいベストセラーになり、1年後の現在もドイツ語圏のみならず世界中で広く読まれている。日本でも『コロナパンデミックは、本当か?』のタイトルで刊行され、多くの読者を獲得しているようだ。同じ著者の新刊『仮面を剥がれたコロナ』も、今年5月に発売されるやいなや、2月の刊行以来ベストセラー1位を譲らなかった『コロナワクチン――救いかリスクか?』からその座を奪った話題の書だ。

著者のひとりスチャリット・バクディは、微生物学者、感染症・疫病学者。退官まで22年にわたってマインツ大学の微生物・衛生学研究所を主任教授として率い、臨床と研究の双方に携わりながら、何千人もの後進を育成してきた。専門分野の第一人者としてドイツのみならず世界中で尊敬を集める科学者だ。もうひとりの著者カリーナ・ライスはバクディの妻であり、現役のキール大学教授として生化学、細胞生物学研究に従事している。

バクディとライスは2冊の著書で、新型コロナ感染症について、多くの専門家の論文や公式の統計などのデータをもとに、専門知識を持たない読者にもわかりやすく説明し、昨年からドイツと世界中で続くコロナ対策の矛盾と問題点を突く。

著者が最も問題視しているのが、感染の有無を判定するために世界中で使われているPCR検査だ。この検査ではCt値(増幅サイクル数)を上げれば、感染力のないウイルスのいわば「かけら」までもが検出されてしまう。Ct値が33から34以上で行われるPCR検査で「陽性」になっても感染性はないので陰性と見なすべきだとする研究など、PCR検査の問題点も指摘されているが、ドイツでは一貫して40以上の高いCt値で検査が行われている。ドイツの感染対策を担うロベルト・コッホ研究所ではそのPCR検査で見つかる「陽性者」をすべて「感染者」として扱って統計に組み入れており、政府は「感染者」にはたとえ無症状であっても隔離などの措置を強いている。

さらに著者は、この「感染者数」を根拠に施行されているロックダウン政策を厳しく批判し、いわゆる「パニックペーパー」に触れている。
これは内務省の内部文書で、ドイツで昨年3月に始まった第1次ロックダウンに先立って、国民が厳しい規制を受け入れるよう、「ゆっくり溺れ死ぬような苦しい死に方をする」「子供が手洗いを忘れたせいで祖父母を殺してしまう」「重い後遺症が残る」といった具体的なイメージを喚起して恐怖を煽るという「作戦」を記したものだ。

内務省のウェブサイトに掲載されていたものの、長らく一般の注意を引かなかったが、今年になって大手新聞社が、文書作成の際に内務省と各研究所のあいだで交わされた数々の打ち合わせEメールをスクープして以来、「パニックペーパー」と呼ばれるようになった。バクディとライスは昨年すでにこの文書に言及しており、「科学の声を聴け」と言う政府があらかじめロックダウン導入を決めていたこと、その政策に沿う「科学的見解」を科学者たちに「注文」していたことの矛盾を突く。

こうして導入されたロックダウンだが、実は施行された時点で、すでに感染者数はピークを越えており、ひとりの感染者が何人に感染させるかを示す実効再生産数もとうに1を切っていた、つまり感染拡大の兆候はなかったことも、著者は統計をもとに示す。

これは昨年11月に始まった第2次ロックダウンでも同じだった。さらに、11月以降は規制を決める基準がPCR検査での「感染者数」のみとなり、重症者や死者の数、実効再生産数などほかの数字は考慮されなくなった。日本の対策が(実態はどうあれ)あくまで「自粛」「要請」なのに対し、ドイツをはじめ欧州各国のコロナ対策には法的拘束力があり、マスク着用、社会的距離、会っていい人間の数、外出していい時間と場所といった私生活上のことから、飲食店や娯楽施設、店舗、学校の閉鎖、行事の禁止にいたるまで、警察が取り締まり、違反者は罰金刑を科され、場合によっては逮捕される。肉体的、精神的、経済的に甚大な弊害をもたらし、国民の基本的人権を大きく制限する政策が不正確な数字のみを根拠に決定される現状を、著者は厳しく批判している。

その後ドイツの規制はどんどん厳しくなり、2021年1月、公共交通機関や(営業を許されていたスーパーなどの)店舗におけるFFP2マスクの着用が義務付けられた。FFP2マスクとは医療現場のほかに建設現場などでも用いられる高機能マスクだが、呼吸の妨げともなるため、健康上の理由から連続使用時間は75分が上限と定められているという。ドイツ医院衛生協会は、一般市民のFFP2マスク着用はメリットより弊害が上回ると警告している。『仮面を剥がれたコロナ』はこの点を指摘するとともに、FFP2マスクの素材の安全性にも疑問を投げかけている。

ロベルト・コッホ研究所の姿勢と政府のコロナ政策を厳しく批判する著者だが、自説を絶対的な真実だと主張するわけではなく、反対意見を歓迎し、異なる見解を持つ専門家たちと議論を交わす意思を表明している。科学とはさまざまな見解を闘わせることで発展していくものだ。政府の政策に沿わない見解を持つ専門家に陰謀論者の烙印を押し、社会的信用を失墜させ、議論の場から締め出すドイツ社会の「非科学的」風潮に、著者は強く警鐘を鳴らしている。

子供の通学や店舗での買い物に検査の陰性証明を義務付けるなど、世界的に見て非常に厳格な規制を敷いてきたドイツでは、市民の反発や不満もある一方、規制を批判することを不道徳と見なして非難する風潮が強かった。だが『仮面を剥がれたコロナ』が刊行された今年5月ごろから、わずかずつではあるものの、そんな風潮が変わりつつあるように見える。

5月末には、さまざまな規制と感染者や死者数の推移には因果関係が認められないというミュンヘン大学の研究結果が多くのメディアに取り上げられた。また6月初旬には、公共放送局である第二ドイツテレビで、PCR検査での陽性判定から10週間以上後に死亡した人たちが「コロナ死者」に数え入れられていることが批判的に報道された。ほとんどが別の疾患で入院していた高齢者だという。ロベルト・コッホ研究所の「ドイツでは死亡時に陽性だった人はほかの疾患の有無にかかわらず全員コロナ死者とみなしている」というコメントも流れた。規制の効果も、「コロナ死者」の数え方も、バクディとライスがすでに著書で言及し、批判している点だ。ドイツでは「コロナ死者」のうちほかの疾患がなかった人は1パーセントに過ぎないという統計も紹介している。

さらに、この原稿を書いている6月半ば、ドイツの多くの病院が集中治療室の病床稼働率を虚偽に高く申告して、ベッド新設のための補助金を得ていたこと、政府がそれを以前から知っていたことが、国の機関である連邦会計監査院の報告で明らかになり、多くのメディアが批判的に報道した。これもまた、著者がデータをもとに早くから指摘していたことのひとつだ。今年4月に規制を再度強化した政府が理由として持ち出したのが、病床のひっ迫だった。それが虚偽だったとわかり、さらに多くの与党政治家がマスク調達に際して特定の企業を優遇して巨額のマージンを得ていたスキャンダルも重なって、市民の政治への信頼は大きく揺らいでいる。

「いつか、後の世代の人々は我々に尋ねるだろう。いったいどうしてあんなことになったのか、と」――『仮面を剥がれたコロナ』の序文を、著者はこう結んでいる。私たちの子供や孫の世代は、この時代をどう見るのだろう。

ドイツのベストセラー(ノンフィクション部門)

5月19日付Börsenblatt誌より

『』内の書名は邦題(出版社)

1 Corona Unmasked 仮面を剥がれたコロナ

Sucharit Bhakdi, Karina Reiss スチャリット・バクディ、カリーナ・ライス 

疫学の第一人者がデータを基にコロナとその対策の矛盾を解き明かす。

2 Corona Impfstoffe: Rettung oder Risiko? コロナワクチン――救いかリスクか?

Clemens G. Arvay クレメンス・G・アルヴァイ 

コロナワクチンの仕組みや治験、危惧される副反応などを批判的に解説。

3 Ungeschminkt 素顔のままで

Olivia Jones オリヴィア・ジョーンズ 

アメリカでドラァグクイーンとなったドイツ生まれの著者が半生を振り返る。

4 Eine kurze Geschichte der Menschheit 人類の短い歴史

Yuval Noah Harari ユヴァル・ノア・ハラリ

『サピエンス全史』(河出書房新社)

気鋭の歴史学者が壮大なスケールで人類史を描いた世界的ベストセラー。

5 Kurze Antworten auf große Fragen 大きな問いへの短い答え

Stephen Hawking スティーヴン・ホーキング

『ビッグ・クエスチョン――〈人類の難問〉に答えよう』(NHK出版)

神の存在などの壮大な疑問に答える、天才物理学者最後の書き下ろし。

6 Meine erste Klavierschule! 初めてのピアノ教室!

Jens Rupp イェンス・ルップ 

経験豊かなピアノ教師であり演奏家である著者が独自の教授法を伝える。

7 Nalas Welt ナラの世界 

Dean Nicholson ディーン・ニコルソン 

『ナラの世界へ 子猫とふたり旅 自転車で世界一周』(K&Bパブリッシャーズ)

SNSで人気爆発。スコットランドの青年と捨て猫のナラとの世界一周ふたり旅。

8 Factfulness ファクトフルネス

Hans Rosling, Anna Rosling Rönnlund, Ola Rosling ハンス・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド、オーラ・ロスリング

『FACTFULNESS』(日経BP)

思い込みを乗り越え、データを基に世界を「正しく」見るためのガイドブック。

9 Corona Fehlalarm?  コロナ――誤警報?

Sucharit Bhakdi, Karina Reiss スチャリット・バクディ、カリーナ・ライス

『コロナパンデミックは、本当か?』(日曜社)

1位の本の著者が昨年刊行。コロナパンデミックの矛盾を暴くベストセラー。

10 Think and Grow Rich 思考し、豊かになれ 

Napoleon Hill ナポレオン・ヒル 

『思考は現実化する』(きこ書房)

1937年に書かれた自己啓発本の古典。自分で思い描く人間になるための思考法。