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コロナ禍で失われたセックスライフを取り戻すために

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
-- PHOTO MOVED IN ADVANCE AND NOT FOR USE - ONLINE OR IN PRINT - BEFORE 3:01 A.M. DEC. 27, 2020. --With all its stress and uncertainty, this year hasnユt exactly been a banner year for intimacy. But that can change. (Rose Wong/The New York Times)-- NO SALES; FOR EDITORIAL USE ONLY WITH NYT STORY NEW-YEAR-EXPECTATIONS BY COURTNEY RUBIN FOR DEC. 26, 2020. ALL OTHER USE PROHIBITED. --
Rose Wong/©2020 The New York Times

米ニューヨークに住むすメリッサ・ペトロは作家で、結婚して4年になる夫と2人の子どもがいる。彼女と夫は、仕事と子育てを交代でこなしている。ペトロによると、パンデミック(感染症の大流行)のなか、12カ月の子と3歳の子を常に世話する生活は「せわしなく、疲れてしまい、セックスどころではない」。最近、夫は居間のソファで寝ている。

「私は、欲求がないわけではない」と彼女は言う。「セックスしたいと思う魅力的なパートナーだけど、すべきことがあまりにも多い。時々、自分たちのセックスライフに絶望的になる」

これはペトロだけのことではない。新型コロナウイルスが結婚生活に及ぼす影響についてのキンゼイ研究所の調査によると、既婚者の24%はパンデミック以前よりセックスの回数が減り、女性の17%がパンデミックになってからの性的および感情の満足度は低下したと報告している。昨春以降の別の研究は、カップルの3分の1がパンデミック関連の衝突を経験しており、そうした人たちの多くがセックスライフに苦しんでいることを示唆している。

「私たちは、以前の生活の多くを失っている」とマヤ・ルートキは言う。今回の研究を主導した米インディアナ大学の性的健康増進センター(CSHP)の研究者で、電子メールで返答を寄せてくれた。「2020年は別の点で失われた年だったように、セックスに関しても失われた年だったのかもしれない」

同じく、エミリー・ナゴスキーも今回のデータに驚かなかった。性教育者で、研究者であり、「Come as You Are: The Surprising New Science That Will Transform Your Sex Life(ありのままで――あなたのセックスライフを変容させる驚愕(きょうがく)の新科学)」の著者でもある彼女は、性的な欲求と抑制を車のアクセルとブレーキにたとえている。目下のところ、カップルの生活はアクセルよりもブレーキを踏む要因の方が多いが、希望がすべて失われたわけではない。ブレーキから足を離し、性的なアクセルを踏み込むために、やれることはまだたくさんある。

女性の半数以上は、ストレスや抑うつ、心配事がセックスへの関心を薄れさせ、性的な興奮や性的絶頂感も低下させると報告している。ナゴスキーは、パンデミックのような危機の最中にあって欲求が減退するのは普通のことだと指摘する。「あなたは、すべての世界、つまり呼吸する空気までもが、あなた自身と家族にとって潜在的な脅威であるように感じている。それがブレーキをかけることになるのだ」

セックスライフを改善する第一歩は、行動より考え方を変えることかもしれない。「セックスをしなければいけないとか、そうするべきと思うからセックスをするのであれば、あまりセックスをしないだろうし、おそらくソレを楽しめないだろう」。そうナゴスキーは著書で言っている。

「人は、自発的にセックスをしたくなるものだという考え方にとりつかれている」とナゴスキーは言うが、特に女性の場合は、そうしたことはかなりまれである。性別と性的欲求に関する広範な研究をもとに、ナゴスキーは、女性のざっと15%は自発的な性的欲求を感じるが、大半の女性が感じるのは何かしらの官能的なことが起きている時にセックスをしたくなる、反応型の欲求であると推察する。

「2人の関係で長い期間にわたってすばらしいセックスをしている人たちについて調査すると、彼らがその特性として自発的な欲求に言及することはない」とナゴスキーは指摘する。

パンデミックの中で性的欲求が減退するのは正常であり、理解できるのだが、その一方で2人の関係において欲求を高めるためにできることがある。性的な興奮を増進すると科学的に言われていることの一つは、新鮮な経験だ。性的な類いのことに限らず、ワクワクさせてくれる経験であれば何でもいい。

これは、「パートナーとの関係全体や個人的な欲求、(性的な)空想、要求その他について、パートナーと話し合う」いい機会かもしれない。インディアナ大学で衝突と性的な親密さの関係について研究しているルートキは、電子メールにそう書いてきた。彼女は、もしそうした会話をする気になれないなら、セックスを専門とするセラピスト(心理療法士)に相談することを勧めている。

あるいは、ワクワクする別の方法を見つけよう。あなたはジェットコースターに乗るとか、人が密集するコンサートでダンスしたりはできないかもしれないが、ユーチューブを見て運動したり、パートナーとハイキングに行ったり、子どもたちが寝入った後で恐怖映画を見たりすることはできるだろう。ある研究は、パートナーの周りで興奮していると、それに伴ってその人が新鮮かつ性的に魅力的に見えるようになることを示唆している。

脳が脅威を察知する(たとえば、ライオンがあなたを追いかける)と、体は交感神経系を活性化し、より速く走ったり、激しく戦ったりするのを助けるアドレナリンやコルチゾールといった化学物質を送り込む。脅威がなくなる(あなたが逃げるとか、ライオンを殺す)と、副交感神経系が作動し、戦闘モードないし逃走モードから抜け出して、体は平穏な状態に戻る。

副交感神経系がもたらした平穏な状態は、性的な興奮のもとにもなる。つまり、あなたの脳はライオンがあなたを追いかけている時はセックスをしたくないことを知っているのだ。

だが、現代のストレス要因はライオンよりも不明瞭だ。給料が振り込まれた時や、子どもの学校のリモート(遠隔)授業が終了した時、脅威が去ったのかどうか、脳ははっきりわからない。だから、ナゴスキーは「ストレスサイクルを完結する」、つまり危険が過ぎ去ったことを体に知らせるような行動を推奨している。例えば、長い一日の労働の後でひとっ走りする時、比喩としてのライオンから逃れてゆったりと走り、少なくとも翌日まではストレスがなくなったと体に伝えることで戦闘モードや逃走モードから抜け出すのだ。

そうすれば、欲求を感じられるほどの安心感はまだ得られなくても、パートナーに触れ親密な関係を持つことはできる。暗いところで横になってパートナーと一緒に映画を観たり、散歩に出かけたり、運動をしたりするとか、ありのままの自分を受け入れることを実践する。こうしたことはすべて、たとえセックスにつながらなくても自分自身のためになるのだ。(抄訳)

(Meaghan O'Connell)©2020 The New York Times

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