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憧れのインド・ダージリンで飲んだお茶の味は意外なものだった

荻野恭子の 食と暮らし世界ぐるり旅。
茶摘みをする人々(荻野恭子提供)。

●厳しい環境の茶所、ダージリンへ

私は祖母の影響で子供の頃からお茶に興味を持つようになり、まだティーバッグもインスタントもなかった頃より、日本茶や紅茶はポットで蒸らして、コーヒーは豆から挽いて、香りや味に慣れ親しんできました。やがて、「産地で飲むとどんなにか美味しいのだろう。いつか確かめたい」そんな憧れを抱くようになり、晴れて思いが叶ったのが、このダージリンへの旅でした。

ダージリンはインドの北東部、標高が2000m以上の山々が入り組んだヒマラヤ山麓に位置するところで、お茶関係の仕事をしている人でなければそう何度も訪れる機会はないであろう、厳しい環境です。ネパールやブータンと隣り合っており、北方にそびえるのは、世界3位の高峰であるカンチェンジユンガ。ベストシーズンは3月中旬から11月だそうで、私が訪れたのは11月でした。気候は夏季以外は朝晩10度以上の寒暖差があることもあってすでに肌寒く、現地の人々は寒い寒いと毛布をかぶっていました。

●タイヤがツルツルのジープに乗って

コルカタの空港から飛行機を乗り換えて1時間ほど。そこからはジープに乗って高地の茶園を目指します。ジープのタイヤは長年の往復のためにツルツルで、これで上っていくのかと思うと、見た瞬間に震えが走るほどでした。ジープなので、重たいトランクは全て屋根の上。当然、座席より頭上の方が重量がありますので、カーブのたびに右に左に恐ろしいほどの遠心力で体が宙に舞うように振り回され、今にも振り落とされそうでした。私が行く何年か前に事故があったという話も聞いていたものですから、気が気でない心地でしがみついていました。

そもそも、空港に着いた時刻が確か15時過ぎ。ジープに乗っているうちに夕方になり、日も暮れて、あたりは真っ暗になり……。そんな中、振り回されていたわけですが、翌朝、周辺のあまりの見晴らしの良さを確認し、暗闇の時間帯で良かったのかもしれないと思った次第でした。

カンチュンジェンガより(荻野恭子提供)。

●ダージリンだから美味しいとは限らない?

茶園オーナーの敷地の中は、1つの小さな街のようでした。どこからどこまでが敷地なのかわからなくなるほど果てしなく広がる茶園の中に邸宅があり、茶畑や製造工場、職員用の住宅に加え、病院も学校も郵便施設も揃っていました。敷地内には茶畑が広がり、苗木を育てるところから、植樹、茶摘み、すぐ横の工場に運ばれて紅茶に加工するところまで、全てを行っているようでした。働いている人たちはすぐ横の住宅に家族で住まい、そこから通ってきていました。

ダージリンの茶園。茶摘みをする人々の住まいは敷地内にある(荻野恭子提供)。
茶園のすぐ脇にある工場。ここで、摘んだ茶葉の萎しゅう、揉捻、発酵、乾燥、等級分けをへて紅茶へと製造(荻野恭子提供)。
乾燥の終わった紅茶を茶葉の大きさで等級分けしているところ(荻野恭子提供)。

オーナーの家で飲んだダージリン紅茶が、ある意味思い出深いものでした。ダージリンはもともと、イギリス人のリゾート地と茶園のセットで開発されてきたこともあり、英国文化の影響を大きく受けています。恭しくお茶の用意をする素足の執事には驚きましたが、私は客人ということで、主人は良い茶葉でお茶を淹れるよう指示していたのだと思います。

期待しながら一口飲んで、「あれ、なんだか薄い」というのが最初の印象でした。少々拍子抜けはしましたが、その時はもう嬉しくて、感動の方が先に立っていました。けれども、蒸らしを待ってもお茶は薄いままです。何となく茶葉が少ないように思えました。

オーナー宅でいただいたお茶(荻野恭子提供)。
伺った茶園は、大規模茶園を営んでいる、オーガニック農法の先駆けのようなところでした。 昔は水牛の角に紅茶を詰めて、そのまま水牛のふんに埋めて熟成させ、土に撒いて肥料に(荻野恭子提供)。

●良いお茶は庶民の手には渡らない

お茶というものは、生産国と消費国の関係で経済が成り立っている部分の大きい農産物です。最上の茶葉は主に輸出用かお金持ちのためのもの。一方、製造工程で細かく崩れてしまったブロークンティーや、さらに細かいダストティーなどが、現地の一般の人々に飲まれているもので、屋台のチャイに至ってはダストティーしか使っていないといっても過言ではないでしょう。

なので、この時お茶を出してくれた執事の方は、上級の茶葉を飲んだことがなかったのかな……と思いました。

ダージリンの紅茶は、茶葉が大きく、色が濃く出るわけではありませんが、香りがとても豊か。アッサムやニルギリといった産地のものとは、キャラクターが異なります。もしそういった他の地域のお茶を味わったことがあれば、相対化して良さを引き出そうと思うかもしれませんが、ダージリンの茶葉のみを、等級もわからずに扱っているとしたら……。

インドといえばチャイのイメージが強く、どこの地域に行ってもみんなおいしくお茶を飲んでいそうな気がしますが、実際にはそんなことはありません。それは、私たち日本人全員が特定の地域、例えば宇治のお茶について特に詳しくはないということと同じかもしれませんね。お茶も料理も本来、地産地消のものですので、他所の国の様々な地域のものを知っているのは経済的にゆとりのある人と言えるでしょう。

紅茶のテイスティングを行う。高級茶葉は主に輸出用(荻野恭子提供)。

●ホテルと茶葉の関係

オーナー宅だけでは実態はわからないと思いましたので、地域のホテルにも数箇所泊まってみました。家族で営んでいるような小さな茶園にホームステイ的に宿泊したことも含め、3カ所くらいに訪れました。イギリスの避暑地的な建物の高級ホテル、中程度のホテル。いくつかのランクに宿泊しましたが、出されたお茶は、安いホテルの方が美味しいのです。良いホテルはみんな良い茶葉。安いホテルで出てくる茶葉は、どれも細かい茶葉で、屋台のチャイなどに使われる茶葉と同様のものでした。

茶葉が大きく高級なオレンジペコーの場合には時間をかけて葉を開き、抽出するものです。茶園オーナー宅を含め、ダージリンでは基本的にはストレートで飲んでいましたが、ダストティーの場合は抽出の時間も短く、かなり濃く出ますので、ミルクを加えることも多いようでした。また、家族経営のところの方が、自分たちの食べているものに近い料理を出してくれるため、日常使いのお茶の美味しさもまた、自然に伝わってきて好みでした。

●ダージリンとは文化が違う隣州のシッキム

ダージリン州の隣のシッキム州の茶園を訪れたことも、興味深い発見につながりました。シッキム州はダージリン州の隣、ネパールとブータンの間に位置していて、現在は、大型の茶園1つがある以外は小さな茶園が点在する程度の収穫量の地域です。もともと、イギリス人の避暑地としての開拓から、茶栽培のために多くのネパール人が移り住んだという背景のある土地です。訪れて感じたのは、ダージリンはインド、シッキムはチベットネパール的な雰囲気が強いということでした。建物も、ダージリンは石、シッキムは木造でした。

街中のホテルで出てきたお茶はどこも香りがよく、最上の茶葉などではありませんでしたが、こなれていてとても美味しく味わいました。すぐ近くなので茶葉の特徴はほぼ同じ。けれども、飲み方としてはストレートもミルクもあり、原産国とあってかレモンを絞る場合もありました。チベットに近いせいか、バター茶にもしていて、同じタイプの茶葉でも、飲み方が少しずつ違うことに、農産物の地産地消を実感しました。ダージリン州とは異なる文化を持っている地域でした。

車から見たシッキムの茶畑。急勾配の斜面の底にかけて、茶の木が植っていました(荻野恭子提供)。
シッキムの茶園にて。とても可愛かったおばあちゃん(荻野恭子提供)。