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サンフランシスコのミシュラン三つ星レストラン は生き残れるか

サンフランシスコ 美味しいフード&ライフスタイル
息を飲む美しいガーデンがコロナ禍でオープンエア・ダイニングに早替り

今年のミシュランガイドは言うまでもなくCOVID-19 の影響で発売中止となり、ベイエリア(サンフランシスコとその周辺)は12月初旬からコロナ感染第3波の拡大で、まさかの2度目のロックダウンが発令された。レストランは夏から再開した外での外食サービスも無くなりテイクアウトのみの営業に逆戻りしてしまった。

米国で最も多いミシュラン三つ星レストランを誇る美食の街、サンフランシスコ、ベイエリアのファインレストランは経済繁栄の象徴だった。この10ヶ月、思考覚悟を繰り返し「ニューノーマル」に対応してきた三つ星レストランは長引くコロナ禍で、生き残れるのか。

完熟したメロンのジュレにハーブをあしらったアミューズ@フレンチランドリー

王者のサバイバルーーフレンチ・ランドリー

世界にカリフォルニアの美食文化を広めた、ナパにある「フレンチランドリー」は、ミシュランのサンフランシスコ版が刊行し始めた2000年代初めから三つ星獲得を続けているレジェンドレストラン。去年行われた25周年記念イベントで、オーナーシェフのトーマス・ケラー氏は何百人ものゲストを招待して豪華なパーティーを開催し、カリスマ経営者の貫禄を見せつけた。

去年行われた25周年記念の豪華なパーティでは著名人も多く見られた

しかし、3月のロックダウンでは数百人単位の従業員の解雇を余儀無くされ、雇用問題で保険会社と訴訟を起こすなど暗いニュースが飛び交った。ところが、今年7月、王者は再び蘇った。2年をかけた大規模なリニューアルで2017年に完成していた美しいガーデンやプライベートテラスを、豪華な「アウトドアダイニング」に早変わりさせたのだ。

巨大なワインセラーの横に設置されたプライベートダイニングはオープンエア

元々このデザインガーデンは、食事前にウェルカミングシャンパンやアミューズを嗜む場所だった。ナパの天候は年間を通じて暖かく、緑溢れるガーデンで味わう三つ星コースは格別。料金は$350から旬のトリュフコース$1200までがある。なんと、こんなご時世でも予約を取るのはかなり困難と言われている。これからもナパならではの夢のラグジュアリーダイニングを提供して欲しい。

夢が溢れるダイニングは人生のセレブレーション

消失したナパの豪華リゾートーー「ザ・レストラン@メドウッド」

ベイエリアでは夏に入って、多くのレストランが店外での飲食ができるように整備して再オープンし、人々が行楽地にも戻り始めた矢先、大規模な山火事が何度も発生した。9月の終わり、火の粉はナパのワイナリーに襲いかかり、長年三つ星を保持してきたレストラン「ザ・レストラン@メドウッド」が炎に包まれるショッキングな映像が飛び込んできた。ナパ屈指の美しいリゾート内にある三つ星レストランは一夜にして焼失した。

式を挙げたり食事をしたりした日本人は少なくない。私の思い出といえば、2011年、東日本大震災の救済チャリティーパーティーに参加したことだ。一人$1,000の食事券とその後に行われたオークションでは、一晩で約2億円の寄付金が集まり被災地に寄付されたと聞いた。三つ星レストランの役割はナパならではの高品質なワインと食事で人々の思い出の場となる他に、政経財界のトップを集め、社会に貢献する場所でもある事を学んだ。「メドウッド」の焼失はサンフランシスコのバブル景気の終わりを告げているようでもあった。

緑に囲まれたダイニングは、エレガントで落ち着きのある雰囲気だった

輝きから脱却した三つ星レストラン「セイゾン」

この10年、ポップアップから三つ星レストランに君臨し、全米一と言われた「Seison」 は、開放的なキッチンとダイニング一体型のインテリアや一人$500という予算でも話題になった。創業者でシェフのジョシュ・スケネス氏は、自家農園でオーガニック野菜やハーブを栽培し、自ら狩に出かけるほど食材に凝る天才シェフ。科学を駆使した繊細な料理はアートのようだった。しかし2019年、スケネス氏は突然レストランを去った。前代未聞の三つ星のオーナーシェフ退任でビジネスは混乱、去年は二つ星に降格した。しかし店名はそのまま、新しいシェフに引き継がれている。

コロナ禍、ストリートダイニングになっても予約はいっぱいだった。

「セイゾン」は3月のロックダウンを経て、9月から食事を店外の席で提供すること再オープンしたが、発表直後でもブランドイメージは保たれ、予約を取るのは難しかった。5年ぶりに「セイゾン」の料理を味わった。テーブルのそばは通行人が行き交い、道路にはゴミ回収車が走り、1ブロック先にはホームレスも暮らす環境で、高級感を味わうのは難しい。しかし割引料金と引き換えに客も屋外での条件は覚悟すべきだと実感した。

さて肝心の料理はどうか。メニューは前任のシェフ、スケネス氏が残した会席料理を彷彿する内容なのだが、シェフが変われば味も変わる。残念ながら食事は全く別物だった。私は10年以上に渡って「セイゾン」の快進撃を見てきたが、レジェンドレストランが衰退する現実も見ることになった。

街中心部にある「Saison」。店外での飲食は、周囲の環境の影響を受けざるを得ない

コロナ禍でも自家農園を拡張ーーシングルスレッド

ファーム+レストラン+インを直結した「シングル・スレッド」は、2016年にオープンして最速でミシュラン3つ星を獲得したコンテンポラリー創作ジャパニーズ。これまで一流レストランで修行をしてきたシェフ、カイルとファーマーのカティナ・コナングトン夫妻が提供するサステナビリティを駆使したファームトゥーテーブル料理が客を魅了している。

オープン当初話題になったのは、デザイン性高いインテリアに加えソノマの開放的な景色を眺められるルーフトップテラスだ。そのルーフトップが今回店内飲食を禁止されたコロナ禍で大活躍している。座り心地の良いソファで味わうアウトドアダイニングは、三つ星と納得できる落ち着きとホスピタリティーを備えて客を迎えている。

カイルとカティナ、それからこの日は、日本からゲストシェフとしてキッチンに入った生江史伸シェフ

「シングルスレッド」は今夏、すぐそばまで迫ってきた山火事にも耐え、コロナ禍でもずっと営業を続けている。それどころか、最近自家農園の大規模拡大(24エーカー)をした。「自分たちでコントロールできる”永遠”の農園を持ちたかった」とコナングトン氏は地元雑誌に語っていた。この広大な農園で収穫した作物は、レストランで消費する以外に、山火事で被災した家族に食材を提供したり、「Farm to Pantry 」の機関を通じて飢餓救済に貢献している。やがて客足が戻ってくれば、レストランのコンセプトである料理の「出どころ」を客に知ってもらう為、畑ツアーをしたり、地域の食育イベントを計画している。

「シングルスレッド」のルーフトップでサービスされるスパークリングワインとアミューズ

生き残るサンフランシスコの三つ星

残る4件の三つ星レストランは、コロナ禍でも営業形態を変えながら生き残っている。サンフランシスコNo1の定評を持つカリフォルニアxアジアン料理の「ベニュー」は、3月から店を閉じているが、現在は同キッチンを使ってカジュアルな韓国料理のテイクアウト営業をしている。これは近い将来オープンを予定している新レストランの準備とトレーニングでもあるようだ。

「ベニュー」のキッチンで働く大勢の料理人達

長年三つ星を確保するイタリア料理の「クインス」は、ソノマの自家農園で屋外ダイニングができる体験型プログラムを作った。畑の真ん中にテントを設置し、本店と同じクオリティの料理、サービスを提供する。また、サンフランシスコ本店では「ホームキット」(家庭で火を通すなど簡単に料理できるセット)の配達を始めた。ミシュラン三つ星レストランの味を家庭で楽しめてしまうという特別感いっぱいの試みだ。

サウスベイにあるエレガントなカリフォルニア料理の三つ星、「マンレサ」は、日替わりのファミリーメニュー(1人$40〜)のテイクアウトに取り組んでいる。4、5品の料理にはハイエンドらしくカクテルやワインのペアリングも薦める。一方、姉妹店である「マンレサ・ベーカリー」は小売店となる為、厳しいレストランの規制を免れ稼ぎ頭となっている。ファーマーズマーケットにも出店し、コロナ収束までを凌いでいる。

「マンレサ」のコンセプトはファームトゥテーブル。プレートをデザインする

世界初の女性ミシュラン三つ星シェフが経営する「アトリエ クレム」は、肉を使用しないサステナブル料理で有名なレストラン。11月中旬までは25%の割合で店内飲食を提供したが、現在はクローズで、年内の再開はほぼ見込めない。その為、ハイエンドな「ホームキット」を提供している。このキット、普段店内では$500はかかるものが$155で調達できるとあって、三つ星テイストをカジュアルに味わいたい客に好評を得ている。

サンフランシスコ・ベイエリアでは12月に入り急に寒くなり雨が降ることも増えた。住人には夜間外出禁止令も発令され、レストランは厳しい規制の中、ホリデーシーズンに突入した。多様性豊かな食の街で私たちに夢を与えてきた三つ星レストラン。この冬を耐えしのぎ、春に希望を繋ぐ美食文化の象徴であり続けて欲しい。