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コロナと子供 爆発的な感染拡大のイタリアで、母として保育士として感じたこと

LifeStyle 更新日: 公開日:
産後ケアで、骨盤底筋体操をするために病院に訪れたルチア・チェントラニさん。今では外出ができるようになったが、マスクは欠かせない

新型コロナ 世界からの証言④ イタリアから 新型コロナウイルスは昨年暮れに中国で感染者が初めて確認されて以来、瞬く間に世界に広がった。地域、世代、職業を問わず、世界中でだれもが日々の暮らしに様々な制約や変化を強いられた。人々はどんな変化に直面し、どんな思いを抱き、未来にどんな展望を描いているのか。グローブ編集部の記者が聞いた、統計数字からは見えてこない市井の人々のリアルな声をシリーズでお届けする。
4回目の今回は、世界的にも早い段階から多くの感染者を出したイタリア中部フォルリの保育士ルチア・チェントラニさん(36)。初めての出産を終えた数カ月後に爆発的感染が起き、母親や幼児教育者としての思いをSNSを通じて語った。(構成・山本大輔、写真はすべて本人提供)

新型コロナの中、世界の人々はどう生き、何を考えたのか。世界各地からの証言です。

  1. <ブラジルから>「保障も支援も理解もない」コロナ感染者急増のブラジルから、最前線の医師の訴え
  2. <米国から>「感染したかも」病院で受けたコロナの検査、相手は防護服 残った複雑な思い
  3. <フランスから>オンラインでは想像力も制約される 新型コロナで実感、何げない対話の価値
  4. <イタリアから>コロナと子供 爆発的な感染拡大のイタリアで、母として保育士として感じたこと
  5. <中国から>SARSの体験があったから自由の制限を我慢できた ある北京市民の実感
  6. <台湾から>「不便」と言えば改善される コロナ対策で世界が注目、台湾は自信を取り戻した
  7. <フィリピンから>検問でID、罰則に腕立て伏せも…地区ごとに細かなルール、フィリピンの感染対策
  8. <ベトナムから>外出制限の暮らしの中で、大人も子供も身につけた知恵がある
  9. <ザンビアから>オンライン教育と言われてもネットがない コロナに見舞われた途上国の苦しみ
  10. <フランスから>働きながら子供2人のオンライン授業を支える母の苦労 でもいいこともあった

■出産直後にコロナ危機

――イタリアでは新型コロナウイルスの爆発的感染が早くから深刻化しました。あまりにも急速に拡大し、日本でも連日ニュースとなりました。1月22日、初産で長男を出産されたと聞いています。国内にいて、どのような日々を過ごされていたのですか。

イタリアで爆発的感染が起きた時、私の息子は生後わずか1カ月でした。初めての子育てなのに、それを感染症が拡大する環境の中で始めないといけない。とても大きな挑戦になると感じました。

いつもは頻繁に会っている親戚や友人との面会を一切やめ、息子とともに自宅に閉じこもりました。職業料理人の夫も、なるべく自宅にいるようにしてくれたので、食料の買い出しなど必要最低限の外出は全て担当してくれた。政府が外出禁止措置を国民に命じると、オンラインショッピングを頻繁に使うようになりました。初めての子どもなので、絵本やおもちゃなど、買ってあげたいものはたくさんあります。全てネット経由で買いました。多くのレストランがデリバリーサービスを始めました。私たち夫婦は普段から外食が大好きでしたが、今回はどうも食べ物を外部に頼む気になれない。ウイルスが自宅に入り込む可能性を極力減らしたいので、夫が毎日、自宅で作ってくれています。

ルチア・チェントラニさん

母親として神経質になりすぎているのかもしれませんが、これからのことを考えると不安でたまりません。私自身が感染すること以上に、私が愛する人たちへ自分が感染させてしまうことが最も怖い。昨年11月に父を亡くし、残された高齢の母は、この状況下で1人で生活しています。外出が死を意味しかねない状況なので、生活必需品は私たちが母のために調達するようにしていますが、母はやはり外出したがるんですね。治療薬やワクチンの開発に時間がかかるとなると、今後の生活がどうなるのか考えるだけでストレスです。気持ちが沈み込む日が増えましたが、無邪気な息子の姿を見て、なんとか力をもらっています。

――感染症対策と経済活動は裏表で、感染拡大が収束しない限りは、経済も止まったままになります。それも世界同時進行なため、ダメージが大きい。今後の展望はありますか。

すでに複数の友人がコロナ禍の影響で職を失いました。特に観光業に携わっていた友人の深刻な状況が、そのままイタリア経済の深刻さを示しています。この国の最も大きな産業の代表格が観光だからです。

私たち夫婦を含めイタリア人は観光が大好き。友人と話していても、旅行に行けないことを残念がる人が大勢います。夏になると、近くにあるアドリア海のビーチへ日光浴に頻繁に訪れるのが私の習慣でした。息子にとって初めての海水浴となるので、水着や浮輪などをすでに準備したのですが、今夏の出番はないでしょうね。

産休は夏までで、9月からは保育園に職場復帰する予定です。ただ、産休の間に起きた国内での感染拡大を受けて休園となったため、実際に9月に再開できるのかどうか。できたとしても、どのように子どもたちの安全や健康を維持できるのか。こうした環境で職場復帰することが、幼い我が子にどのような影響を及ぼすのか。前例のないことばかりのため、先の見通しがつかない。私は計画を立てて行動しないと自分にいらついてしまうタイプなのですが、今は、これから、を考えることが精神的にとても苦しいです。一つ確実に言えるのは、普通の日常はしばらくはもどらないということだけ。それがいつまで続くのか、新しい日常とはなんなのか、私には全く予想がつきません。

■子どもには想像以上の精神的打撃

自宅から約10キロ離れた街の病院を、医療用マスクとサングラスをして訪れたルチア・チェントラニさん。この街に1人で暮らす母親が使う薬をとりにきた。正面玄関を避け、裏口を利用した

――幼児教育に携わるチェントラニさんから見て、子どもたちがこの事態を、どのように対応していると感じていますか。

子どもといっても年齢や性格など様々なので一概には言えません。ただ、幼児教育者として、知り合いの保護者らと話をして見えてくる特徴は、普段の日常が突然遮断されたことへの戸惑いが大人以上に大きいということです。生活パターンや友達との物理的つながりが一瞬にして止まる。子どもたちの順応能力は高いですが、それでも普段していいことの多くが、してはいけないことに一転する変化を理解するのは難しい。いつ外出できるの?いつ学校に行けるの?いつ公園で友達と遊べるの?その答えが得られないことへの精神的打撃は想像以上だと考えます。

遊びたい盛りの子どもたちを自宅にとどまらせないといけないのですから、保護者も大変です。多くのお父さんやお母さんは、在宅勤務やスマートワークの承認を勤務先から得て自宅にいるようにしていますが、子どもたちに勉強もさせなければいけません。学校の教諭はインターネットを通じてリモートで生徒と会話をしたり、ビデオ学習を活用したりして教育を続けていますが、ITを使うにも親の協力が必要です。宿題を見てあげるという普段の関わり方とは、関与の度合いが全く異なります。教育の大変さを実感している保護者は多いでしょう。イタリアでは教育者の存在が過小評価されがちですが、今回の事態を経て、その存在の重要性が再認識されることになればいいと思います。学校再開を待ち望んでいるのは、子ども以上に親なのですから。

地元の病院の施設内には、新型コロナウイルス感染者を診療するための仮設テントが設置された

――コロナ後の社会で変化を期待することは他にもありますか。

多くの人が必要最低限の外出を自粛したことで、空気がきれいになったと感じます。一時的な現象なのでしょうが、大気汚染が改善されたのであるとすれば、今回のコロナ禍の影響で歓迎できる数少ない出来事ではないでしょうか。

大打撃を受けた経済を立て直す時期がこれから来ますが、環境に優しいEco-Friendlyな経済や産業のあり方を模索してほしいと願います。資本主義は様々な問題が指摘されていますが、私個人としては、大消費主義は環境の観点から見直す時が来ていると感じています。持続可能で環境に優しい経済に転換する機会にしてほしいです。