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リモートに不向きな日本企業、危機から何を学べるか 企業経営の専門家に聞く

World Now 更新日: 公開日:
上智大学のパリッサ・ハギリアン教授(本人提供)

――パンデミックによって世界中の働く現場が影響を受けています。コロナがもたらすインパクトは、日欧の企業文化の違いによっても異なるのでしょうか。

新型コロナのパンデミックは、世界中で働き方をリモートに切り替えるよう迫りました。ただ実は、リモートワークはこれまで欧米など一部でしか、普及していませんでした。子育て中の人などが便利と考える一方、大半の人は会社に通うことを好んできました。

特に日本の企業にはなじまない構造的な特徴があります。チームワークを大事にし、一緒に働くことを好む。学生時代に何を学んだかよりは、入社後のトレーニングを重視し、様々な部署への配置転換を繰り返しながら経験を積んでいく。新部署では教えてくれる先輩が必要です。だから一緒に働くことがとても大事になるのです。

意思決定には大人数の会議が必要で、数十人になることも。「空気を読む」ことも大事で、リモートでは難しい。これまで必要とされてこなかったため、情報通信技術(ICT)の導入も遅れていて、いまだのFAXがよく使われます。伝統的な日本のやり方には良い面もありますが、リモートワークにはあまり向いていません。

ビックカメラ有楽町店の「テレワーク」コーナーでは、「緊急入荷」のかごに入れたヘッドセットが次々売れた=2020年4月2日、斉藤佑介撮影(本文とは関係ありません)

――欧米は違うのですか。

欧米では専門性を持って働くことが多い。大学の段階で、会計、人材開発、マーケティングなどと専攻に分かれ、入社後も専門性を生かしずっと同じ部門で働き続けます。毎年のように配置転換をする日本と違い、20年間ずっと同じ部署というのも普通です。部署が変わるたびに新しいことを学ばなければならないということもありません。会議をしてもせいぜい数人程度。仕事も個人として評価します。

社員のコントロールの方法も日本と欧米で異なります。

――どういうことですか。

日本の企業は暗黙の方法で社員を管理している、という特徴があります。例えば、日本のオフィスでは、一つのフロアの同じ部屋に200人もいる。そうすると、常に社員同士でお互いが何をしているのかよく見えるので、私的にフェイスブックに書き込むといったことができない。みんな一緒にいるので、特にルールなどを明示しておかなくても、社員をコントロールできていたのです。

一方、欧米では小さい事務所でも、一人ずつ個室があったり、ブースで分かれていたりします。そのため、社員のコントロールは、会社のパソコンからは個人のSNSを使えないように設定したり、システム上で個人の勤務状況が管理したり、仕事中にしてはいけないことなどを具体的に細かくルールとして明示したりしています。日本のやり方だとリモートでは社員を管理しづらいため、経営者が今後も敬遠するかもしれません。

ただ、コロナ以前からリモートワークを取り入れていた欧米でも、全てリモートというよりは、「週2日だけ自宅で」といった働き方が好まれてきました。人と直接会いたいという欲求があるのかもしれません。

――パンデミックによって、世界中が同時に働き方の変革を迫られたことで、今後、何が起こるのでしょうか。

共通して言えるのは、今回、一斉にリモートワークが実践されたことで、通勤代や出張費を抑えられるといったコスト削減や、早朝からパジャマのまま働けるといった便利さが改めて認識されたことです。特に海外企業とビジネスする際には圧倒的にコストを抑えられるなど、会社にとってメリットが大きい。コロナ終息後も、リモートワークに大きく転換していく可能性があります。

ただ、悪い面もあります。家で働くより会社で仕事をしたいと思う人は少なくありません。毎日会社に行くことは、仕事とプライベートを分けられる面もある。この数カ月間、リモートワークをして疲れてしまった人もいます。オンラインで一緒にコーヒーを飲むなど、いろいろな工夫はしていますが、周りに誰もいないことで、不安などを感じています。今後、どれぐらいの割合でリモートで働くのが理想か、というモデルが作られるかもしれません。

リモートワークはあくまでもツールです。会社というシステムは、いつも危機やショックから何かを学びます。例えばコンプライアンスは、20年前には誰も気にしませんでしたが、米国のエネルギー大手エンロンの不正会計事件などをきっかけに、今では新しいシステムを作る動きやたくさんのルールができています。

新型コロナは、人や会社に「大事なものは何か」を考えさせる機会を与えた。この学ぶチャンスをいかせるかどうかが問われています。