1. HOME
  2. World Now
  3. 米国で新型コロナ感染者が急増する直前のトランプ漫談

米国で新型コロナ感染者が急増する直前のトランプ漫談

ホワイトハウスへ猛ダッシュ
保守政治活動会議(CPAC)での演説後、「アイ・ラブ・ユー」と言って星条旗に抱きつくトランプ大統領=メリーランド州オクソンヒル、ランハム裕子撮影、2020年2月29日

4年に一度しか来ない2月29日。春の気配はまだ遠く、冷たい風が吹き付ける中、私はメリーランド州にあるゲイロード・ナショナル・リゾートへ猛ダッシュしていた。ワシントンを流れるポトマック川沿いにあるこのリゾートホテルは、ガラス張りの近代的な建物として有名であり、大規模なイベントが催されることでも知られる。この日、保守政治活動会議(CPAC)のフィナーレで毎年行われるトランプ大統領の演説が予定されていた。

会場に到着すると、そこはまさに「トランプ天国」。お馴染みのMAGA (“Make America Great Again”=アメリカを再び偉大に)や再選を支持する「トランプ2020」のスローガンが目に飛び込んでくる。多くの人が赤いMAGA帽子や星条旗を身にまとっている。

MAGAや星条旗のデザインの帽子などをかぶり、トランプ大統領の登場を待つCPACの参加者たち=メリーランド州オクソンヒル、ランハム裕子撮影、2020年2月29日

CPACとは、保守主義の政治団体「アメリカ保守連合」の年次総会のこと。1974年に初めて開かれ、当時カリフォルニア州知事だったロナルド・レーガン氏が基調演説を行った。歴史ある団体だが、「アメリカ・ファースト」を旗印に保守急進路線をひたすら走るトランプ氏の「応援団」と化している。

星条旗のデザインを身にまとい、CPAC会場でトランプ大統領の登場を待つ女性=メリーランド州オクソンヒル、ランハム裕子撮影、2020年2月29日

この日、トランプ大統領の登場は遅れていた。新型コロナウィルスで米国初の死者が出たため、急遽会見が行われたからだった。予定から30分が経過した頃、「我々の大統領、ドナルド・トランプの登場です!」というアナウンス。次の瞬間「ゴッドブレスUSA」という曲とともに割れんばかりの歓声が湧き上がる。トランプ氏は、歓声を噛みしめるように、満足気な表情で会場を見渡しては、ガッツポーズをしたり、観客を指差したりしながら笑顔を振りまく。客席から押し寄せる「USA!USA!」コールの波が会場を包んだ。

CPACのステージに登場するトランプ大統領。客席からの歓声に満足な表情を浮かべる=メリーランド州オクソンヒル、ランハム裕子撮影、2020年2月29日

演説が始まった。「私たちの国を愛し、国旗に敬意を払い、歴史を重んじ、法律に従い、憲法を守る。そして何よりも米国を第一に考える誇り高きアメリカの愛国者たちが集うこのCPACに戻ってこられて嬉しい」。こぶしをきかせた演歌のように、声に抑揚をつけて観衆に語り続ける。

大きな身振り手振りでの冗談、ライバルのものまねと、全てマイペース。トランプ大統領の生き生きとした表情を捉えるため、私が狙うシャッターチャンスは、トランプ氏が原稿から離れ、アドリブで話す時。「信じられるかい?」と観客に語りかけるように目を大きく見開いたり、「どうだ!」と言わんばかりにカメラを直視したり、観衆ににんまり笑顔を送ったり。目まぐるしく表情が変わる。

演説中、アドリブトークを始めるトランプ大統領。準備された原稿を読む時とアドリブで話す時とでは、表情がまるで異なる=メリーランド州オクソンヒル、ランハム裕子撮影、2020年2月29日

30分ほどたったころ、話題は「ミニ・マイク」へ。「ミニ・マイク」とは、大統領選の民主党候補、マイケル・ブルームバーグ氏(元ニューヨーク市長)のこと。米国人男性としては長身といえないブルームバーグ氏を揶揄してトランプ氏がつけたあだ名だ。

トランプ氏はよく政敵にニックネームをつけるのだが、前回の大統領選では、ヒラリー・クリントン氏を「悪徳ヒラリー」、テッド・クルーズ上院議員を「嘘つきテッド」と呼び、ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事には「低エネルギー・ジェブ」というあだ名を付けた。今回の大統領選でも、ライバル候補者を「スリーピー・ジョー」(ジョー・バイデン元副大統領が眠そうに見えると言い)、エリザベス・ウォーレン上院議員を「ポカホンタス」(ウォーレン氏が先住民を先祖に持つというのは嘘だと言い)、バーニー・サンダース上院議員を「クレージー・バーニー」と呪文のように連呼している。

今回は、討論会でのブルームバーグ氏を話題にし、「きっとミニ・マイクは『ステージから降ろしてくれ!』と思っていたに違いないさ」とからかった。するとトランプ大統領は、演壇の背後にまるで沈むように身をかがめていくではないか!

身長が低いマイケル・ブルームバーグ氏をからかい、ものまねをしながら演壇の背後に沈んでいくトランプ大統領=メリーランド州オクソンヒル、ランハム裕子撮影、2020年2月29日

「ミニ・マイク」はこんなにチビだと言わんばかりの意地悪なパフォーマンスだが、会場は爆笑の渦に包まれる。と同時に、「フォー・モア・イヤーズ!フォー・モア・イヤーズ!」(再選を支持する意味で「もう4年!」)と、観衆からの叫びが最高潮に達した。

トランプ大統領の「漫談スタイル」の演説を楽しむ支持者たち=メリーランド州オクソンヒル、ランハム裕子撮影、2020年2月29日

新型コロナウィルスによる死者が出たことで、トランプ大統領はこの会場に来る前、急遽、ホワイトハウスで開かれた会見に出席した。だがその直後の90分間もの演説の中で、米国内での感染問題について、「中国から来たウィルス」との表現であっさり触れただけ。そのかわり感染国からの入国制限強化や渡航禁止といった決定について、「Aプラス、プラス、プラス」の成績だと自画自賛した。

演説中、「フェイクニュースのメディアたちだ!」と言い、報道カメラが並ぶスタンドを指差すトランプ大統領=メリーランド州オクソンヒル、ランハム裕子撮影、2020年2月29日

まるでコンサートのように盛り上がった会場で、演説を終えたトランプ氏がステージから去ろうとした瞬間だった。壇上に飾られた星条旗に「アイ・ラブ・ユー」と言いながら近づき、両手で国旗に抱きついた!次の瞬間、旗にキス。これがトランプ流「愛国心」の表現なのか……毎年数万人が参加するCPACはこのキスでフィナーレを迎えた。

演説後、ステージに飾られた星条旗に「アイ・ラブ・ユー」と言い、キスするトランプ大統領=メリーランド州オクソンヒル、ランハム裕子撮影、2020年2月29日

その後米国では、新型コロナウィルスの感染者や死者数が増加し、この日から約2週間後の3月13日、トランプ大統領は国家非常事態を宣言。大勢の人が一つの部屋に集合するこのようなイベントが次に開かれるのは、一体いつになることか……。通常であれば、たくさんの観光客で賑わう桜の季節。ゴーストタウンと化したワシントンでは、華麗な桜が寂しそうに咲いている。

新型コロナウィルスの感染拡大に対処するため、ホワイトハウスのローズガーデンで国家非常事態を宣言するトランプ大統領=ワシントン、ランハム裕子撮影、2020年3月13日