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弾劾裁判で無罪となったトランプ大統領 勝利宣言の裏側は

ホワイトハウスへ猛ダッシュ
共和党議員らからの大きな拍手と歓声を浴びながらホワイトハウスのイーストルームに登場し、ウィンクをするトランプ大統領=ワシントン、ランハム裕子撮影、2020年2月6日

2月6日、ワシントンにはどんよりとした空が広がっていた。雨雲の色が濃くなる中、私はトランプ大統領による「勝利宣言」を撮影するため、ホワイトハウスへ猛ダッシュしていた。

「でっちあげの弾劾に対する我々の国の勝利について、明日の正午にホワイトハウスで声明を発表します」

「ウクライナ疑惑」をめぐる弾劾裁判の「無罪」判決を受け、トランプ大統領はすぐさまツイートした。2月5日、夕方5時のことだった。

米議会上院による、トランプ大統領に対する弾劾裁判が行われる議会議事堂。連日夜遅くまで議論された=ワシントン、ランハム裕子撮影、2019年12月13日

大統領による公式発表や会見は通常、ホワイトハウスから事前に記者団へ予定が知らされる。が、トランプ劇場においては、多くの情報がトランプ氏のツイートにより発信されるため、それを見た記者団が、事情がわからないままホワイトハウスへ駆けつけることがよくある。そしてこの日も、トランプ大統領がツイートした「声明発表」とは一体、記者会見なのか、演説なのか、形式すら不明だった。

本番前に場所取りをしたり照明を確認したりするプリセットのため、脚立と機材を抱え列に並ぶと、一粒の雨が頬に落ちる。降り出した雨の中、ひたすら待つ。予定よりだいぶ遅れて案内されたイーストルームという大きな部屋に入ると、東側の壁に沿って置かれた演壇や、大統領の背後に人が並ぶための階段のような台が準備されていた。一体誰がトランプ氏の後ろに並ぶのだろう?と思いつつ、準備を始める。プリセットが完了した瞬間、ホワイトハウスの職員が大声で叫び出す。「機材も脚立も全部持って外へ出て!」 耳を疑った……

記者団の間で「アンビリーバブル!」(信じられない!)の声が漏れる。何十年もホワイトハウスを取材してきたフォトグラファーが、「プリセットのやり直しなんて前代未聞だ」とため息交じりに語った。そこまでして変えたかった理由とは……

全員追い出され、また雨の中、待つこと30分。トランプ大統領の演説予定時間が迫っていた。濡れた脚立と機材を抱え、イーストルームに再入場すると、演壇の位置が東から西に移動され、最初とはまるで異なった光景が目に飛び込んできた。急遽変えられた配置は、扉の前に演壇を置き、背後の扉の開放とともにトランプ大統領が赤絨毯が敷かれた廊下を通り、マイクまで歩く様子を「見せる」というものだった。

ドイツのメルケル首相がホワイトハウスを訪問した際、トランプ大統領は、二人で赤絨毯の上を歩き会見の演壇に上がるという「見せ方」を選んだ=ワシントン、ランハム裕子撮影(2017年3月17日)

会場は、娘のイバンカ氏やメラニア夫人、閣僚メンバー、弾劾裁判に関わった弁護士や共和党議員らを含む数百人で溢れかえっている。通常大統領の演説には、テレプロンプター(原稿表示装置)や原稿が準備される。が、この日は、どちらも見当たらない。大統領登場の数分前、ホワイトハウス職員により、「何か」がマイクの元に置かれただけだった。

父親であるトランプ大統領の演説を見守る娘、そして大統領のアドバイザーという役職を持つイヴァンカ氏。演説後半、トランプ大統領はイヴァンカ氏をステージに迎え、ハグをしてみせた=ワシントン、ランハム裕子撮影、2020年2月6日

予定時間の正午から20分ほど経過したころ。突然、「レディースアンドジェントルマン!アメリカ合衆国の大統領です!」というアナウンス。演壇の後ろの扉がガバッと開いた。そして、そこには嬉しさを隠せぬ表情のトランプ氏が。口を一文字にして微笑むいつものにんまり笑顔で、会場に来た人たちを指差しては「サンキュー」と連呼する。と思えば、笑みを押し殺すかのように真顔に変わり、演説を始めようとする。それでも思わず笑顔が溢れて表情が再び緩む。「ワォ!」。そう言って、自ら客席に拍手を送りながら、鳴り止まない歓声と拍手を味わっているかのよう。

ホワイトハウスに集まった共和党議員らから大きな拍手と歓声で迎えられ、笑顔が溢れるトランプ大統領。口を一文字にする、お馴染みのにんまり笑顔を見せた=ワシントン、ランハム裕子撮影、2020年2月6日

突然険しい表情に変わり、演説を始める。「私たちはこの拍手に値する。なぜならば、とても不当な状況の下で、共に大変な思いをしてきたからだ」。大統領に就任以来3年以上もの間、邪悪な者たちによる「魔女狩り」に逢い、まるで「地獄」だったと真剣な眼差しで訴えた。

客席にはペンス副大統領、バー司法長官を始め、閣僚メンバーや共和党議員の姿が見られる。奥には、「立ち見」するホワイトハウス職員たちの姿も=ワシントン、ランハム裕子撮影、2020年2月6日

次の瞬間、「いろいろ悪いこともしたけどね」と冗談を飛ばし、会場を笑いに包んだ。その笑いが収まりかけた絶妙なタイミングで、「でも最終結果は……」と言うトランプ氏。事前に準備されていた、あの「何か」を手にした ――― ワシントンポスト紙だった。1面には、「トランプが無罪に」と大きく書かれている。トランプ氏に批判的な記事を出す度に大統領本人から「フェイクニュース」と攻撃され、昨年10月にはホワイトハウスを含む政府機関による同紙の購読を中止するとまで言われたワシントンポスト。この新聞をトランプ大統領が自慢気な表情で掲げ、「額に入れようか?今まで唯一いい見出しだね」とカメラ目線でジョークを飛ばしているではないか。会場は再度笑いに包まれる。

「ほら見ろ」と言わんばかりの表情で「トランプが無罪に」と大きく書かれたワシントンポスト紙を掲げるトランプ大統領。招待席にいる人たち全員に見せるよう、180度、角度を変えながらカメラ目線を繰り返した=ワシントン、ランハム裕子撮影、2020年2月6日

その後、「攻撃態勢」を取り戻し、みるみる険しい表情に変わっていく。弾劾調査を主導した民主党のナンシー・ペロシ下院議長を「ひどい人間」と呼び、上院の票決で共和党員で唯一有罪票を投じたミット・ロムニー議員は「史上最悪の大統領選をした」などと、「敵」を罵り続けた。

米議会議事堂でトランプ大統領に対する弾劾訴追決議に署名するぺロシ下院議長と民主党委員ら=ワシントン、ランハム裕子撮影、2020年1月15日

トランプ大統領はこの式典を「記者会見ではない。演説でもない。祝いの場」と呼んだ。大統領選に参戦した時から攻撃され続けた地獄のような日々に終止符が打たれると同時に、これまでの疑惑が全て「完全な無罪放免」と証明されたかのような主張を繰り返した。この式典は、トランプ大統領にとってまさに「優勝パレード」だったのかもしれない。

1時間に渡り、「敵」とみなす人を言葉で攻撃するトランプ大統領=ワシントン、ランハム裕子撮影、2020年2月6日

「邪悪」、「卑劣」、「不当」、「汚職」、「地獄」、「戦場」……これらの言葉が散りばめられたトランプ大統領による「祝い」の演説は1時間続いた。

雨に濡れた上着は少し乾き始めていた。