今日も私は走っている。猛ダッシュでゴールする先は久しぶりに定例会見が行われる会見室。
月に1、2回しか行われなくなってしまったサンダース報道官による会見は、もはや「定例」ではない。とはいえ、私は相変わらずここに駆け込んでいる。ホワイトハウスで大統領の式典などがある時に、待機、作業、休憩したりするのが、会見室とそこに繋がるプレス用のスペースだからだ。ホワイトハウスは、とてつもない歴史が詰まった建物。だが、毎日そこで仕事をするものにとっては、「職場」でもある。
機材や脚立で埋め尽くされたこの職場の一番奥には、6畳ほどの休憩室がある。その一角には、高価なエスプレッソマシーンが置かれている。ホワイトハウス記者団へプレゼントされたものだ。その贈り主は、なんと俳優のトム・ハンクスさん!ハンクスさんからのエスプレッソマシーンの寄付は実はこれで3台目となる。2004年、初めてホワイトハウスを訪れたハンクスさんは、会見室の休憩室には安くてちっぽけなコーヒーメーカーしかないことに気づく。これがきっかけだったとトーク番組で本人が説明していた。
現在のエスプレッソマシーンが送られたのはトランプ政権が発足して間もない2017年3月。ただ今回はいつもと違った。1枚のカードが添えられていた。アメリカ兵のイラストとともに、ハンクスさんが自分のタイプライターで打ったメッセージがあった:「真実、正義、米国らしさのために戦い続けて下さい。特に真実のために」
奥の休憩室から細い通路を抜け会見室に向かうと、すぐ左手にテレビ局がカメラを常備しているコントロールルームがある。演壇に向かってこのスペースに立ち、目線を上に向けると、天井近くに細い棚がある。そこには大統領同行の際に記者団が買ってきたお土産や記念品などが飾られている。今年6月、シンガポールの米朝会談で配られた金正恩の顔が描かれたうちわが追加された。
この棚は演壇と逆方向に向いているため、後方からでないと見えない。オバマ前大統領が表紙を飾った雑誌も含め、圧倒的にオバマグッズが多いが、水に浮かべるトランプダック(アヒルのおもちゃ)の新入りも最近加わった。トランプ大統領のグッズは、金髪の頭がブラシになっているものや、面白い表情のトランプ人形など、笑えるものが多い。
会見室の後方にはフォトグラファーの作業スペース。その地下には大手テレビ局の作業ブース(ガラス張りの小さな部屋)がある。所狭しと、脚立や機材、ケーブルなどが散乱しているので歩くとき気を付けないとすぐ何かにひっかかる。険しい面持ちで作業する人、大きな機材を抱え壁や人にぶつかりそうになりながら突進する人、たわいもない話で盛り上がる人、昼寝する人など、皆それぞれのことをしながらこの狭い空間を共有している。
休憩室には5、6人座ればぎゅうぎゅうのテーブルと椅子のセットが、お菓子とドリンクの販売機の横にあるだけ。テレビのレポーターがここでヘアメイクをすることもある。どこもかしこも狭いため、「ごめん、通らせて!」、「おはよう!」「おー元気?」を繰り返しながら前に進まなければならない。ただ、このようなコミュニケーションは毎日顔を合わせる仲間にとって大切な要素だ。その意味でもこの休憩室は、戦場のようなバトルが繰り広げられるホワイトハウスの憩いの場と言える。たとえそれがトイレの真横だとしても。。。
以前、トランプ大統領は会見室に姿を見せないと書いたが、オバマ氏は、この会見室によく足を運び、自ら記者の質問に答えていた。ギブス元報道官やアーネスト元報道官の最後の日にプレゼントを渡すために突然登場したこともあった。金曜日にサプライズ登場することが多かったため、金曜日の午後になると、今日は来るかな?と、サンタを待つ子供のようにソワソワしたものだ。年末会見も定例行事で、会見直後に休暇でハワイへ飛び立つオバマ氏に、心の中で「いってらっしゃい!」と叫びながら、自分も仕事納めの実感が沸いたものだった。
2017年1月18日、オバマ氏によるホワイトハウスでの最後の会見が開かれた。多くのジャーナリストが会見開始時間の1時間前から詰めかけ、狭い会見室は都内の満員電車のように混みあった。脚立を開くのも困難の中、やっとのことで脚立に上がる。あまりの不安定さに、天井と壁の間にある縁を必死につかんでいた。オバマ氏の表情は柔らかく、殺伐とした会見場に安堵感を与えてくれた。その時、我々に向けオバマ氏が語った言葉が今でも心に残っている。
「民主主義国家にとって報道の自由が絶対不可欠であることは言うまでもない」
「米国が、そして我々の民主主義があなたたちを必要としている」
これらの言葉を胸に秘め、トム・ハンクスとオバマ前大統領に励まされた気分になりつつ、今日も走り続ける。