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パレスチナで愛されるフリーケはスーパーフード 煙と轟音うずまく製造工場に行ってみた

中東を丸かじり
パレスチナの家庭でご馳走になったフリーケのスープ

ビタミンや繊維が豊富

轟音を響かせて回転する巨大な円筒パイプに、噴き出すバーナーの猛火−−。ロケットの発射実験場か。はたまた、ミサイルの極秘製造拠点か。ジェニン郊外のディエルガザーリ村にあるフリーケの製造工場。凄まじい迫力に気おされ、迷夢に包み込まれた。覆面姿の屈強な若者たちがスコップや鋤を操り、青麦を高温に熱されたパイプに放り込んでいる。強力な火力で焼かれた小麦の外皮が細かな灰となって空気中に舞い上がり、口や目、鼻から容赦なく侵入する。ゴーグルや覆面が欠かせない。

フリーケの製造工場

ヨルダン川西岸で目立つのはオリーブ畑だ。だが、最もパレスチナらしい食材は何だろうかと考えた際に思い浮かんだのがフリーケだった。 パレスチナではソウルフードとして人々に愛され、家庭に招かれたときに何度かフリーケ料理を味わった。エジプトやシリア、レバノンなど中東各地にもある。スープに入れたり、ご飯の代用にしたりと多用されている。プチプチとした食感。スープにすると青みがかったウグイス色に近い色彩。ビタミン類や繊維が豊富なのがスーパーフードと呼ばれる理由だ。

出来上がったばかりのフリーケ

戦火の偶然が誕生秘話?

何と言ってもそのユニークな製造方法が魅力的。優れた機械がなかった古代、人々は脱穀に苦労したはずだ。火を使って小麦を脱穀する方法が何かのきっかけで編み出された。いや、偶発的だったかもしれない。コーヒー誕生の秘話のように、火事が起きたことでアイデアが生まれたのか。一説では、やはり戦火の絶えない中東らしい次のような誕生秘話がある。

ある村が敵の攻撃を受け、敵に包囲されていた際に収穫間近だった小麦畑に火の手が広がった。村人たちは、焼けた籾殻を手でこすって落とし、中の青い麦を取り出して食用となるのを発見したという。内戦が激化しつつあったシリアで、アサド政権側は反体制派支持の村々の小麦畑を焼いた。中東では古代から兵糧攻めの手法として畑を焼くのは常套手段だったのだろうか。

豊かに実った青麦

フリーケづくりのために機械で刈り取っている畑で、まだ青い麦を手で摘み、籾殻を取り除いた実を指でつまんでみた。中身は十分に膨らんでいるものの、まだ白くて柔らかい。ミルクのような白い液体がにじんだ。成熟した実と違って水分が含まれているため、強火で焼いても籾殻や茎を焼くだけで中身は燃えない。瞬間的に加熱することで酵素の働きを止め、栄養素が閉じ込められる。キヌアなどと並ぶスーパーフードとして欧米やオーストラリアなどでもてはやされている。

フリーケの最大の魅力が燻煙効果だ。カツオのたたきをイメージすると分かりやすい。稲わらの強力な火で焼かれたカツオには、香ばしさが加わり、カツオ特有の臭気を和らげてくれる。青麦にも麦わらで燻されたような香ばしさが添えられる。味覚が単調になりがちなベジタリンやビーガン食を愛好する人たちにとっては、ソーゼージやベーコンでしか出せないような香りを料理に与えてくれる食材として評価が高い。

巨大なパイプの中を通る青麦

煙や粉塵撒き散らす製造現場

ディエルガザーリ村のフリーケ工場からは、もくもくと煙が上がっていた。オーナーのナセル・ザカルネさんは「驚いただろう。パレスチナだからこんな製造方法ができるのさ。イスラエルでは公害や周辺住民の苦情で直ちに営業停止になってしまう」とユーモアたっぷりに出迎えてくれた。

パレスチナにコンプライアンス(法令順守)という言葉は存在しない。そもそもイスラエルの占領下で国家が存在せず、パレスチナ自治政府も腐敗で悪名を馳せている。迫力のあるフリーケの製造風景を見れるのは、こんな現実の裏返しでもある。

青麦をすくい上げるパレスチナ人労働者

巨大な装置は約4年前から稼働を始めた。それまでは収穫した小麦をガスバーナーによって手作業で焼き上げていたという。装置は、鉄の部材を加工して自分たちで造り、改良を重ねて効率は格段にアップした。大量生産が可能となり、今ではイスラエルにも輸出する。

近くで収穫の全盛期を迎えた小麦畑に案内してもらった。大型のコンバインがものすごい勢いで実の詰まった青麦を収穫する真っ最中だった。イスラエルでジャンク品となっていた米国製大型コンバインを約5万ドルで購入し、修理しながら使っている。パレスチナには、先進国のような産業はほぼ皆無。部品や中古品を取り寄せ、何でも修理して必要なら自作する。

青麦を刈り取るコンバイン=ヨルダン川西岸ディエルガザーリ

「パレスチナの食文化を支える重要な仕事ですね」とザカルネさんに向けると、「自治政府からは何の支援もないし、機械はすべて自分たちで手作りするしかない。これがパレスチナの現実だよ」とつぶやいた。

フリーケづくりの盛期を迎える春、工場はもくもくと煙を上げ、粉塵を撒き散らす。広々とした農地の真っ只中にあるので苦情は来ない。順法精神が行き渡った国家には存在しないような工場だ。和平への道筋が見えないパレスチナが置かれた現実を示しているようだった。