「エコな消費がしたい。でも、スーパーで商品を選んでいる時、自分が手にしている食品が排出する排出量がわからない」
地球に優しい生活行動をしたいと思っている北欧各国の市民からは、「商品が出す排出量を数値で知りたいが、わからない」という声が以前から出ていた。その声にこたえて、二酸化炭素などの排出量を意味する「カーボン・フットプリント」(炭素の足跡)を、商品の包装に明記する企業が出始めている。
排出量を4種類の色別で、スープの袋にエコ印
北欧ノルウェーの食品会社である「トロ」(Toro)は、1946年創業で、スープ、ブイヨン、ケーキやパンのミックスパウダーなどを製造。調査会社Norstatによると、ノルウェー人の10人に1人が、「気候に優しい食生活をしたいが、食品が及ぼす気候への影響度がわからない」と回答している。
このような声は、ノルウェーでの気候や環境会議などでもよく聞かれるものだ。現在の若者が大人の消費者になるにつれて、この声はどんどん大きくなるだろう。
トロ社では、排出量が低い食品には、包装に「ロー・カーボン・フットプリント」を意味する、緑色の印をつけるようになった。
トロ社は、包装、運送、材料、製造などのプロセスで出る各商品の排出量を4種類の色で評価。
排出量が「とても低い」(緑色/排出量0~0.5kg CO2e)、「低い」(黄緑色/~0.8kg CO2e)、「中間」(オレンジ色/~1.6kg CO2e)、「高い」(茶色/1.6kg CO2e以上)を自社で換算。CO2量が0.8キログラム以下の夕食向け製品にのみ、緑色の印がつけられる。
現在、夕食向け製品の平均数値はオレンジ色と茶色の間の数値1.6とされているので、緑色か黄緑色の評価がつく食品は、企業も誇りを持って売れるということだ。緑色の印がつけられるようにと、社員の間でもより気候フレンドリーであろうと、開発のモチベーションもあがるだろう。
CO2eとは、CO2 (carbon dioxide) equivalentsの略で、二酸化炭素換算の数値だ(参照:JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センター)
植物性ミルクのパックに排出量、食品業界に同様の動きを求める
スウェーデンの乳製品会社「オートリー」(Oatly)は、さらに進んだ、より挑発的なキャンペーンを展開している。北欧各国では、牛乳から植物性ミルクへの移行が顕著だ。ヘルシー、そしてアレルギーや乳糖不耐症で、牛乳があまり飲めないという消費者のためでもある。なによりも、牛乳は気候変動の原因の一部であることが、常識として市民に浸透してきている。
オートリー社は、以前から「WOW! すごい!牛乳じゃないよ!」ということを大々的に打ち出し、気候変動と環境を気にしている企業だとアピール。牛乳農家には嫌がられるだろうが、「エコな暮らしで、ミルクを飲み続けたい」という層から熱く支持されている。
スウェーデンの企業だが、オート麦のミルクブランドの人気者として、北欧各国や英国などで販売中だ。
オートリーはミルク、調理用クリーム、アイス(全てオート麦を使用)の全商品に、農地から店頭に並ぶまでの二酸化炭素、CO2eを商品に記載し始めた。
それだけではない。
「大胆に挑発してるなぁ」と私が思ったのが、昨年から見かけた、この大きなポスターたち。
「よお、食品業界。あなたたちの数字を、私たちに見せてよ」という呼びかけを、各国の駅や電車内などで仕掛けたのだ。
私たちひとりひとりが、小さな変化を起こすことができる。カートに入れる商品が気候に与える影響が、もっとわかりやすいといいなとは思いませんか?
脂肪、糖分、栄養分が商品に記載されるように、カーボンフットプリント(炭素の足跡)を食品業界が当たり前のように記載するようになってはどうだろう?
とはいえ、業界が流れにのるまでには時間がかかりそうだ。しかし、私たちの企業は、辛抱強くない。だから、まずは率先してみることにしたOatly公式HPより引用
自分たちだけがCO2eを公開するだけでは、まだまだだから、食品業界全体でこの動きを当たり前にしようと、呼び掛けているのだ。
若者の学校ストライキと同じように、「相手が変わるのをゆっくりと待っている時間は地球にはないから」と、挑発的な呼びかけだ。
両社の公式HPでは、排出量をどのように換算したのかを詳しく公開している。
オートリー社の広報であるリンダ・ノールグレンさんに、このキャンペーンの背景と反応を聞いた。
「スーパーで買い物をする消費者の手間を省きたいと考えたからです。食品の栄養価が表示されているように、気候への影響も同じように表示されるべき。食品業界に呼びかけているのは、そうではないと消費者にとって比較することさえもできないからです。業界がサステイナブルのことを語ろうと思っているなら、最も正直で透明性があるやり方だとも思っています」
「他企業からは驚くほど良い反響がありました。食品業界以外からの業界も含めて。フィンランドにあるセックス玩具の会社も、後を追って、商品ラベルにカーボンフットプリントの数値を明記し始めました。でも、まだまだ満足はしていません。ドイツでは、食品生産者が商品にカーボン・フットプリントを記載すること義務付けるように、請願書の運動を始めました。ドイツ連邦議会で議題となるためには5万以上の著名が必要です。なんと、たった数分で、5万7千以上の著名が集まったのです。議会で議論するのを楽しみにしていますよ」
「買い物をする際に、商品の炭素の足跡を知りたい。知りたくても、企業が公開してくれないと、消費者にはわからない」。この声は、私が関連テーマを取材していると本当によく聞くようになった。トロ社やオートリー社の動きは、未来ではもっと当たり前になっているのだろう。どうせなら、早く動いたほうが、企業はブランドイメージをアップして、新しい顧客層もゲットできるのかもしれない。
Text: Asaki Abumi
Photo: Oatly, Asaki Abumi