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百花繚乱のフュージョン料理 イスラエル

中東を丸かじり 更新日: 公開日:
テルアビブにあるレストラン、ミツノン=池滝和秀撮影

⬛「テロや戦争のストレスも影響」

高度を下げた飛行機の窓から地中海の青い海が見えたかと思うと、高層ビル群のすぐ上を抜け、滑走路に降り立った。テロに見舞われてきたイスラエルは、過酷な治安検査で悪名高いが、入国してしまえば、一転して圧倒的な開放感を味わえる。イスラエルは、創造的な料理に満ちている。もっとも、1948年にパレスチナの地に建国されたという歴史や、現在も続く紛争のため、食にも政治的な対立がつきまとう。ヒヨコマメを使ったフムスをめぐるイスラエルとレバノンの間での本家争いが代表的なものだろう。「パレスチナやアラブの食文化を盗み取った」と咎める声もある。

複雑な事情をはらむイスラエル料理とは、何だろうか。イスラエルは、故郷に戻ろうというシオニズム運動によって建国された人工的な国家だ。世界各地に離散したユダヤ人たちは70カ国以上から移民としてやってきた。彼らが各国から料理を持ち込み、イスラエルが位置する地中海東部沿岸地域であるレバントの伝統的な料理や食材が取り込まれて多様性のある食文化が生み出された。

地中海に面したイスラエルの商業都市テルアビブ=池滝和秀撮影

イスラエルの食については現地の専門家に聞くのが手っ取り早い。テルアビブにある調理師学校ダノンのオーナーであり、シェフのメール・ダノン氏は、料理への情熱をまくし立てるように語った。

「歴史の浅いイスラエルは、ユダヤ人たちによって世界から多くの料理が持ち込まれた。イスラエル人は概して大雑把な性格であり、細かいことは気にせずに何でも取り入れ、ユニークな食文化が形成された。政治問題や紛争といった日常のストレスも半端ない。ストレス解消のために食べるのが何よりも好きな国民だ。旅好きという要素も料理の世界に影響を与えている」

調理学校のオーナー、メール・ダノン氏=池滝和秀撮影

あるイスラエル人女性は「数カ月に一度はイスラエルから海外に出ないと、精神的に参ってしまうわ。仕事や日常生活でのストレスは半端ない」と語った。技術立国として仕事で求められる要求水準は高そうだし、テロや戦争という現実も生活にのしかかる。過酷な兵役を終えた後、自由を求めて世界旅行に出る若者たちも多い。旅好きで好奇心旺盛な国民性が料理に影響していることは確かだろう。

⬛世俗派向けに豚肉料理も

ダノン氏にテルアビブで訪れるべきレストランを何軒か教えてもらった。その中でもオススメが「ミツノン(Miznon)」。ここのローステッド・カリフラワーは、その大きさに度肝を抜かれ、お腹が空いていたので思わず頰が弛む。熱々のカリフラワーは、表面はカリッとしていて香ばしい。中はナイフがスーッと入るように芯まで柔らかく、オリーブオイルの力もあってバターのようなクリーミーさ。ミツノンは、パリやウィーンにも店舗を展開する人気店。

こんがりと焼かれたローステッド・カリフラワー=池滝和秀撮影

タレは、イスラエルを代表するタヒーニだ。レモン汁で溶いて塩胡椒で味を整えた中東の定番ゴマペースト。青唐辛子のペーストにオリーブオイルをかけたもの、サワークリーム、トマトソースといった色とりどりのソースを取っ替えひっかえしながら食べる。

この料理は、 あるシェフの母親が作っていたレシピだったという。敬虔なユダヤ教徒は、金曜日の日没から土曜日の日没までのシャバット中は、労働に当たる料理はせず、シャバット前に大量に作り置きする。こうした食習慣がカリフラワーを丸ごとオーブンで焼き上げる大胆な調理法を生み出した。この料理はイスラエルから羽ばたき、米国や欧州のシェフたちがアレンジして多くのレストランのメニューの一部となっている。

もう一軒は、ハイテク企業がひしめく商業地区にある多国籍料理店「トポロポムポ(TOPOLOPOMPO)」。ハイテク企業に勤務しているような颯爽とした若手の男女で昼食時間帯でも、ほぼ満席の繁盛ぶり。

ダノン氏の一押しは、カンボジア風の豚の角煮。ユダヤ教では、コーシェルという食物戒律があり、旧約聖書の記述から豚やエビなどの甲殻類、肉と乳を合わせるチーズバーガーのような食べ物はタブーのはず。もちろん、こうした食物戒律を守っている人は多くいる。が、約6割は食物戒律を気にしない世俗派といわれる。

多国籍料理店「トポロポムポ」の角煮=池滝和秀撮影

トポロポムポの角煮は、そのビジュアルに圧倒された。これぞ、料理の最果てにやってきたと感慨深い。紫バジルや緑鮮やかなミント、真っ赤な生の刻み唐辛子、極め付けに黄色を中心としたエディブルフラワーが散りばめられ、原色のパレットをひっくり返したような色彩が黒っぽい色の器の中で3D映像のように展開する。そのお味はどうか。ライムを隠し味に表面がカラメル化してカリッと仕上げられ、中はこってりとした脂身を多く含んでジューシーだ。バラ肉に網目が付いているので、豚の角煮を網に乗せて強火で炙ったようだ。

注文したサラダも斬新だった。焦げ目がつくようにソテーしたカリフラワーをベースに、素揚げしたミントや同じく油で揚げて弾けさせた白米や黒米のサクサクとした食感と色彩がたまらない。黄色や紫のエディブルフラワーがあしらわれている。ちょっとやり過ぎなぐらいがイスラエル料理らしい。

多国籍料理店「トポロポムポ」のサラダ=池滝和秀撮影