まるっきり別人のような演技に、ノ・ミヌと気付くまでずいぶん時間がかかった。
韓国で6~7月に放送され、首都圏で10%を超える視聴率を記録したMBCドラマ「検法男女 シーズン2(原題)」(全16話)で、4年ぶりにドラマ復帰を果たしたノ・ミヌが熱演を見せた。
昨年シーズン1が放送され、2の好評を得てすでに3も予定されている。シーズン制ドラマは韓国では珍しいが、1、2と続いたヒットに「韓国ドラマの新たな歴史を築いた」と報じられた。主人公は神経質な法医学者のペク・ボム(チョン・ジェヨン)と、熱血新人検事のウン・ソル(チョン・ユミ)。科学的証拠を徹底的に探し出し、事件を解明していくドラマだ。2人の好演もさることながら、シーズン2ヒットの一番の立役者はノ・ミヌだろう。ノ・ミヌ演じるチャン・チョルは医師だが、謎の多い人物。いくつかの事件を経て、チャン・チョルの正体が徐々に明らかになっていくのに目が離せなくなった。
口数の少ない、ミステリアスな役柄は、これまで見てきた役とはまったく違った。出演オファーを受けた時には、「自分にこの役ができるだろうか」と、かなり悩んだという。「一方で、願ってもなかなか来ない機会だとも思った。一度きりの人生、挑戦してみようと、出演を決めました」と話す。
そして実際、「これまで経験した中で一番大変な役だった」と言う。「撮影が終わるまで、ちゃんと演技できているのかずっと不安で、不眠症になったぐらい」。本人としては大変だったが、それは役作りには役立った面もある。チャン・チョルがまさに、常に不安を抱えた役だった。「チャン・チョルも不眠症だったんじゃないかな、と思いました」
私生活と役を混同するほど、没頭していたということだ。チャン・チョルの暗いキャラクターに引っ張られ、私生活でも笑いを失ってしまったという。「体重も自然と3キロほど減りました」。もともと細いのにと、心配になるほど。過去のトラウマに苦しむチャン・チョルの表情のリアリティーは、俳優ノ・ミヌの表情でもあったのかもしれない。
それは、厳しい演出の結果でもあった。リアリティーにとことんこだわったという。
ノ・ミヌは医師役のため、手術のシーンなど医療行為の演技も多かった。撮影に入る前に、実際に救急センターで教育を受けたうえで、現場でも常に医師が指導に入った。「しかも監督がワンカット・ワンシーンを好むので、一連の動きを手際よく演じる必要があった」。ごまかしの効かない演技だったわけだ。
そのうえ、チャン・チョルは二重人格の持ち主。大人しい性格のように見えて、時に狂気を爆発させる。「感情を露わにする方が演じていてすっきりできた。前半、感情をひたすら抑え込むのがつらかった」と振り返る。
現場での緊張を和らげてくれたオアシスのような存在が、主演のチョン・ジェヨンだった。ペク・ボムは神経質な役だが、演じるチョン・ジェヨンはギャグ好きのムードメーカーとして知られる。ノ・ミヌが緊張してNGを出しても、チョン・ジェヨンが冗談を言って雰囲気を和ませてくれたという。
最も好きなシーンは、ある少女との心温まるシーン。少女を笑わせようとチャン・チョルが前歯に海苔をくっつけて、ニカッと笑って見せる。これはアドリブだったそう。「普段からふざけてよくやるのをファンの皆さんは知っているので『ドラマでもやった』と、喜んでくれました」
現場での楽しかった思い出を尋ねると、意外にも死体役の話だった。「死体役の人が時々眠ってしまって、ピクッて動いたりするんですよ」と、インタビュー中もほとんど笑わないノ・ミヌが笑みを浮かべて「おもしろかった」と話した。
俳優としての今後の活動については「今回のキャラクターが暗かったので、ファンタジーやラブストーリーなど、明るい役をやりたい」と話す。オファーが来る役の幅も一気に広がりそうだ。
ノ・ミヌはもともとミュージシャンだ。韓国よりむしろ日本など海外を中心に音楽活動を続けたため、韓国内ではむしろ俳優として知られるようになった。最近、MBCの歌番組「覆面歌王」でBTS(防弾少年団)の「Fake Love」をロック調に編曲して歌い、「ノ・ミヌは俳優と思っていたら、実はデビュー16年目の歌手だった」と、注目を集めた。今後はライブを中心に韓国内での音楽活動にも力を入れるという。
昨年7月に兵役を終え、カムバックのコンサートは日本で開いた。日本で暮らしたこともあり、日本語も堪能。日本の友人も多いという。「日本のファンの皆さんは義理堅く、いつも待っていてくださる。今回、久々のドラマ復帰でいい作品に巡り合えてうれしい。ぜひ最後まで視聴してください」
韓国ドラマ「検法男女 シーズン2」は、日本では9月19日からCS放送「衛星劇場」で放送される。