韓国では近年、司法関連のドラマが多い。主人公は判事、検事、弁護士と様々だが、昨年放送されたSBSドラマ「親愛なる判事様」(全16話)の主人公は、少し違った。判事になりすました前科者が主人公という、異色のドラマだった。
ドラマの中でとはいえ、判事になりすますことが可能だったのは、双子の兄が判事だから。兄の振りをする前科5犯の弟ガンホと、本物の判事の兄スホを一人二役で演じたユン・シユンにインタビューした。
近年韓国で司法関連のドラマが多いのは、司法の腐敗が社会的に問題になっているからだろう。日本の最高裁にあたる大法院の元長官が逮捕されるなど、司法に正義はあるのか?と思わざるを得ない状況だ。ユンは「視聴者が法廷ドラマを好む理由は、ドラマの中でだけでも正義が実現されてほしい、人間的な温かみが見たい、ということだと思う」と話す。「特に『親愛なる判事様』は、悪党たちがかわいそうなぐらいやられる」。悪党というのは、権力の側だ。司法界に何のしがらみもないガンホは、権力者たちをことごとく法廷でやっつけてしまう。「演じていて、正直痛快でした。前科者が判事をやっていいのかという疑問はありますが」と笑う。
一人二役というと、よくあるのは髪型や服装で差をつけて、違う人物というのを示す方法だ。このドラマの一人二役が難しいのは、ガンホはスホの振りをしている、ということだ。髪型も服装も同じで、表情や話し方などで視聴者にガンホなのかスホなのかを示す必要がある。それでも不思議と、一目でガンホとスホの見分けができてしまうのは、ユンの演技力のおかげだろう。
判事になりきるといって、法律の勉強をしていないガンホが判決文を書けるわけがない。司法修習中で裁判所に配属されているソン・ソウン(イ・ユヨン)に練習しろといって代わりに書かせ、ごまかし続ける。法律用語のセリフは難しくなかったか、という質問には「ガンホにとっては難しくて当たり前なので、それは大丈夫。チンプンカンプンという表情で判決文を読み上げるのがガンホ」。ドラマは司法がテーマといっても深刻さはあまりなく、どちらかというと、コメディーやラブストーリーの要素が強い。
ガンホは、性犯罪の被害にあった姉のため、ひたむきに法律家を目指して学ぶソウンに次第にひかれていく。ソウンもまた、規格外の「判事」、だが人間味あふれるガンホにひかれていく。ユンが「イ・ユヨンさんはラブストーリーの演技が光る俳優。特有の愛らしさがある」というのも納得。裁判所の業務中も、ガンホをこっそり見つめるソウンの瞳は完全にハートになっている。
ユンは今年で俳優デビュー10年。「だんだんドラマは総合芸術だと感じるようになってきました。俳優はそのうちの一部。演技だけで作品ができるわけでない」と、謙虚な態度ながら、「でも、負けず嫌いなので、演技が下手とは言われたくないです」。インタビューの日は、朝からドラマの撮影があったという。現在放送中のドラマ「緑豆の花」。朝鮮時代末期の東学農民運動を描いたドラマだ。疲れを見せないどころか、好奇心いっぱいの目で、「俳優という仕事をやって良かったと、つくづく思う。緊張とか圧迫感とかも含めて、撮影が楽しくてしょうがない」と語った。
ドラマ「製パン王キム・タック」などで知られ、ファンミーティングで日本にも何度か訪れている。「日本のファンの皆さんはノリが良くて、自分もつられてテンションが上がります。日本にいる間は雲の上にふわふわ浮いているような気分。また作品とともに、会いに行きます!」
「親愛なる判事様」は、日本ではCS放送「衛星劇場」で、6月21日午後11時から放送される。