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学ぶ場所も中身も自分で選ぶ ホームエデュケーション急増、英国の事情

Learning
幼なじみのミア(右)と久しぶりの再会を喜ぶエレクトラ

■定食じゃない、アラカルトの学び

月曜日は教会で作文の授業を受けてからトランポリンクラブへ、火曜日はオンライン教材を使って数学の勉強、水曜日はドイツ語のレッスンに……。

ロンドンから北に約20キロの町ポッターズバーに住むエレクトラ(12)は中学校には行っていないが、不登校というわけではない。自分でつくった1週間のプログラムにそって勉強する「ホームエデュケーション」を選んでいるだけだ。

数学や歴史は家でオンラインで取り組み、化学や物理はSNSで見つけたグループで仲間と一緒に学ぶ。「定食」ではなくアラカルト。科目によって学び方を変えられるのが楽しいという。

学校に行かずに、家やグループで学ぶホームエデュケーションを選ぶ子どもたちがいま、英国で急増している。

もとは王族や貴族の子弟が家庭教師を招いたのが発祥とされ、その後、各地で市民が自発的に始めるようになった。1996年の教育法で「教育は義務」と定められたが、就学は義務でないとされ、ホームエデュケーションも義務教育として認められた。地方自治体の教育担当責任者の全国組織ADCSによると、ここ5年は毎年約20%の伸び率で増加し、いまでは約6万人、義務教育年齢の子どもの1%に迫る勢いだ。

「与えられたテーマを周りと同じペースで進める授業は、やる気につながらない」とエレクトラは話す。地元の公立学校に通っていたが、母のカレン・ロートン(44)が「学校の勉強では、娘の個性をいかせない」と考え、5年前の引っ越しを機に8カ月間、ホームエデュケーションを試してみた。そして中学入学を機に、エレクトラは自らホームエデュケーションで学ぶことを選んだ。

ハーブセラピストの仕事をするカレンは、娘が一緒に学ぶ仲間をフェイスブックなどで探し、教会や集会場を借りて学びの場にしている。「仲間がたくさんいるので、いつでも助言してくれる。みんなで学ぶから『社会性に欠ける』といった批判は当たらない」

ホームエデュケーションには「閉鎖的だ」などの批判がある。地方自治体への届け出が必要だが、義務ではないため、反発を避けるため無届けの家庭も多い。今回、フェイスブックやウェブサイトを持つ約50のグループに取材を申し込んだが、断られた。

それでも、こうした学び方は、子どもたちにも「選択肢のひとつ」と映るようだ。この日、エレクトラと遊んでいた幼なじみのミア(12)は「私はこれといってやりたいことがないから、学校に行っているだけ」と話す。

季節の果物を選ぶエレクトラ(左)とミア

■オンライン教材の普及で身近な存在に

背景には、SNSやオンライン教材の普及がある。教育感度の高い中所得者層が注目し始め、ネットやSNSにはエリアや年齢、目的ごとに数多くのグループが出現。情報が共有できるようになり、教材の低価格化も実現して、ハードルが下がった。

基礎学力がつくのかといった疑問もあったが、英国では中学を卒業する際に受ける統一テスト「GCSE」があり、対応する教育法がある程度定まっている。それで学べば、ホームエデュケーションで支障はない。

「教育に関心の高い親たちの新たな選択肢になっている」と元中学教師のハンナ・タイトリー(28)は指摘する。学校現場では子どもの才能を開花させることに限界を感じ、2年前にホームエデュケーションをカスタマイズする会社をロンドンで立ち上げた。「意識の高い親たちは、子どもたちが将来、今は存在しない職業に就くといわれているにもかかわらず、伝統的な学校教育を続けることに不信感を抱いている」

ホームエデュケーションをカスタマイズする会社を立ち上げたハンナ・タイトリー

週に数回学校に通い、他の日は家で学ぶ「フレキシスクール」を選ぶ家庭が増えているのも、最近の傾向だ。ロンドン近郊に住む元公立小教師のゾー・ハドソン(46)は、7歳から13歳の3児の母親。5年前から週1回、学校で主要科目の授業がない日を選んで、子どもたちをホームエデュケーションで学ばせている。学校と話し合い、この学び方を認めてもらった。「学校で集団生活を学び、家庭では時間や教科にとらわれない勉強をする。フレキシスクールはメリットしか浮かばない」と話す。

ゾー・ハドソン(中央)は毎週金曜日、子どもたちと過ごす日と決めて、学校では教わらないことを学ぶ時間にしている

■いいことばかりではない実情も

新しい学び方に、社会も対応を迫られる。

息子と勉強しようにも理解できずに困惑する母親、退学を迫られて急にホームエデュケーションをするはめになった親たち……。

公共放送「チャンネル4」は2月、こんなドキュメンタリー番組を放送した。制作したのは教育省の外郭団体「子どもコミッショナー事務局」。学校からはじき出される形で、望まないまま始める人も多い実情を描いた。

反響は大きかった。中学卒業時の統一テストGCSEの前に、生徒数が激減する学校が複数あるという調査を示して、「テストに悪影響を与えそうな生徒を学校が非公式に排除している」と報じたのだ。

英国には、学校の監査を行う専門組織の教育水準局(Ofsted)が存在する。学力到達度や指導の質などを4段階で評価、公表しており、高評価を得た学校の周囲の地価が高騰するなど絶大な影響力を持つ。学校は、その評価に神経をとがらせる。

Ofstedは9月、「結果重視」だった評価方法を「プロセス重視」に変える。担当のクリス・ジョンズ(31)は「これからの学校は様々な学び方を提案して、特徴を出していくのが理想だ。はじき出された生徒がいるなら、検証する必要がある」という。

英教育水準局(Ofsted)のクリス・ジョンズ

これまで積極的に支援はせず、いわば放置してきた教育省も、法制度の整備に動き出した。自治体への届け出を義務化し、必要なら行政が家庭に入って調べることを可能にする。

労働党の上院議員クライブ・ソーリー

反発もあるが、制度づくりを訴えてきた労働党の上院議員クライブ・ソーリー(80)は話す。「ホームエデュケーションの流れを止めることはできない。サポートする仕組みをつくるべきだ」