ノルウェー王室のマッタ・ルイーセ王女が、「また」世間を騒がせている。彼女は、王室メンバーの中で最も不思議な言動が多いとして有名だ。
天使や死者とコミュニケーションができる彼女は「超敏感人間」であり、私たちには見えないものが見えているという。
作家・芸能人であるアリ・ベン氏との交際・結婚も長い間注目を集めていたが、2016年に離婚。
「天使と交信できる」王女は、「天使の学校」を運営しており、ばかにされながらも、批判されながらも、ピュアに自分の道を突き進んできた。
天使と交信する王女に新恋人!
5月12日、王女の交際宣言にノルウェー中が驚く。相手のデュレク・ベレット氏は、「シャーマン」(霊媒師)という職業で、アメリカ人だという。
「シャーマンって、なに?」「王女と同じタイプの人?」
ベレット氏は、病気の人を助け、体の中にある毒、ネガティブなエネルギーを浄化できるという。亡くなった父など、死人とも交信ができるそうだ。
スピリチュアルな世界と交信可能なふたり。同じような価値観と能力を持ち、気が合うのは不思議ではない。
王女がもともとスピリチュアルな世界に魅了されていることは、ノルウェーではよく知られたこと。市民が驚き、騒動となっているのは価値観が同じ人同士の交際そのものではない。
問題は、王女としての立場の認識の甘さ、商業的な活動だ。
ビジネスウーマンとして活動しようとするが?
5月に王女が公にしたのは、大好きな恋人の存在だけではなく、ビジネスウーマンとしての新しい活動だ。「天使の学校」は赤字となり、運営を断念。今後は新たな霊的な活動として、ベレット氏と活動を共にしていくという。
スピリチュアル・インフルエンサーの立場は今に始まったことではない。問題は、交際宣言後、ふたりのトークイベントの宣伝を始めたことだ。
交際宣言で注目が集まる中、有料のチケット販売というタイミングは、計算してのことだと思われても仕方がない。
チケットは1万円前後もするが、有名な王女の講義ともなれば、完売だって難しくはないだろう。「プリンセスとシャーマン」というタイトルで、ふたりは講演ツアーを開始した。
世界調査で「報道の自由」1位を誇るノルウェーでは、記者は王室にも容赦ない。記者たちはすぐに批判を展開した。「王女の肩書を、商業的な活動に悪用している」と。
ベレット氏も、ノルウェー王室の王女の交際相手なのだから、今後のビジネスはより楽になるだろう。結婚したら、どうなるのだろう。
「平等」を重んじる北欧で
「平等」社会を重んじるノルウェーでは、特定の人物や企業などが、商業的な行いで「利益を得る」ことを好まない。恵まれた家庭に生まれたラッキーな立場・影響力を自覚せずに振る舞い、個人の利益を社会に還元しない場合には、批判を受けるのが通例だ。
天使が見えるのも自由だし、好きな相手との恋愛に夢中になってもいい。でも、王女としての影響力と立場を、お金儲けに利用するのは、おかしいのではないかというのが一般的な世論だ。
その批判を、当の2人は最初はかわそうとしていた。しかし、疑問の声はどんどん大きくなり、世間は王室の見解を求めるようになった。国王や皇太子は、「彼女と話をする」という短いコメントを出す。
8月、王女は自身のインスタグラムを更新し、謝罪した。
「私の称号の使い方に関する議論がやまず、とても残念に思っています。プリンセスの称号がこのように使われることに、眉をひそめる人がいることも理解できます。批判の声を真剣に受け止め、家族とも話し合いました。今後は公務でのみ、王室を代表してプリンセスの称号を使用します。商業的な活動では、マッタ・ルイーセとして活動していきます。これが、私の王室と商業活動を明確に切り分け、商業活動ではより大きな自由につながる、良い解決策になることを祈っています」
王女のインスタグラムは、これまで「プリンセス・マッタ・ルイーセ」@princessmarthalouise だったが、「わたしはマッタ・ルイーセ」@iam_marthalouiseというを別のアカウントを新たに開設した。
SNSのアカウントがふたつあるように、公務と私的ビジネス活動も切り分ける、という宣言だった。
王女は、これで状況の鎮静化を祈っているだろう。報道陣たちは静かになるか?とんでもない!
彼女が王女であることは周知の事実。チケット販売の際に「プリンセス」と今さら表記しなくたって、彼女の存在自体がビジネスの宣伝につながる。彼女がどう認識していようが、観客は舞台の上にいる彼女を王女としてみる。
ほかの同業者ほどPR活動をせずとも、2人はチケットを売りさばいていけるだろう。
平等社会を重んじるノルウェーでは、これは不平等でNGなのだ。
どれだけ努力したって、プリンセスにはなれない。どれだけ働いても、プリンセスのような楽な暮らしはできない。ただでさえ不公平なのに、プリンセスとしての地位と影響力をビジネスに使うことを、国民が受け入れないのは不思議ではない。
人口が520万人と少ないノルウェーでは、社会がうまく機能するためにも、1人の人間が「複数の肩書き」をもっていることは普通だ。
例えば、ノルウェーのソールバルグ首相は、首相としての発言、保守党の党首としての発言、一人の母親としての発言は、異なっていてもよかったりする。本人がその立場の違いを明確にしているなら。
しかし、ルイーセ王女の場合、恋愛するビジネスウーマンと、王女の立場がごちゃまぜだ。その恵まれた立場と影響力を自覚せずに、好きに生きようとしていることが問題となっている。
一方、彼女が自分に正直に生きようとしていることを、この社会は否定していない。ノルウェーの多様性とオープン性の良い例ともいえる。批判を覚悟で、自分らしく生きようとする彼女の姿勢を、「勇気ある行動」と讃える人も多い。
ノルウェー国営放送の世論調査では、「国王は王女から称号をはく奪するべきと思うか」という質問に対し、「そう思う」は25.4%だった。一方で、君主制の維持に関しては、81%が好意的だ。
国をまとめるシンボルとして愛されている王室だが、税金を払わない、生まれた時から恵まれた地位にあるという点では、疑問の声も頻繁にあがる。
ルイーセ王女が飛びぬけて不思議な存在であることは、今に始まったことではない。彼女個人は批判されても、王室に大きく飛び火していないのは、そのためだろう。
しかし、二つのSNSアカウントで、公務とビジネスをうまく切り分けられるだろうか?
愛するベレット氏は、王女の両方のアカウントに登場している。天使王女のお騒がせニュースは、これからも続くだろう。
Text: Asaki Abumi
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