1. HOME
  2. 特集
  3. 王室2019 君主たちのサバイバル
  4. エリザベスとダイアナに支えられた人気いつまで 次世代の活躍に見える英王室の危機感

エリザベスとダイアナに支えられた人気いつまで 次世代の活躍に見える英王室の危機感

World Now 更新日: 公開日:
英国のハリー王子とメーガン妃=ロイター

■王室に飛び込んだ異色のキャラクター

晩秋のロンドンは小雨がぱらついていた。昨年11月19日午後10時すぎ、チャリティーイベント会場になった中心部のパレイディアム劇場前では、それまでのざわつきが悲鳴に似た歓声に変わった。

「メーガン!メーガン!」

イベントに参加したハリー王子(34)とメーガン妃(37)が出てきたのだ。歓声を浴びるのは、もっぱらメーガン。英国ブランドのシークイントップを身につけ、見送りの人たちに会釈しながら、黒塗りのジャガーに乗り込む。

米国人、元俳優、母親はアフリカ系、離婚歴あり。英王室では異色のキャラクターだ。だが、この場にいた年配の女性は「ハリーはいい選択をしたと思う。ダイアナも誇りに思っているでしょう」と興奮気味に話す。

1997年、パリで事故死したダイアナ元皇太子妃の記憶は、今も英国人の心に刻み込まれている。エイズ患者を支援し、地雷廃絶運動に取り組んだダイアナ。その衝撃的な死後、ケンジントン宮殿の前には、追悼の花束が無数に並べられた。ところが英王室の反応は当初、素っ気なかった。声明も出さなければ、半旗も揚げない。女王エリザベス2世(92)に対する反感も高まった。

故ダイアナ妃=ロイター

それまでダイアナに冷淡だった女王の変わり身は早く、矢継ぎ早に対応策を打ち出していく。追悼のテレビ演説に続き、大々的な葬儀を行い、初めてパブも訪問。王室の経済状態を公開するようになったのも、この後からだ。

■進化しなければ続かない

「ダイアナ妃の遺言」などの著書がある雑誌「マジェスティ」編集長イングリッド・シュワードは言う。「女王は『進化しなければ君主制は続かない』とわかっている。92歳で毎日、公務をこなす姿は尊敬を集めている。そしてダイアナの2人の子どもが成人して公務に就くようになり、王室人気はさらに高まった」………ハリーも、そしてやはり妻キャサリン妃(36)が人気を集めるウィリアム王子(36)も、ダイアナの忘れ形見だ。王室が彼ら彼女らに公務を振り分け、存在をアピールする能力には目を見張るものがある。

英国・ウィリアム王子、キャサリン妃とその家族=ロイター

英王室は政府から独立した組織で、王室歳費の年次レポートによると約500人のスタッフを抱える。儀式の実務や美術品の管理、財務などのほか、メディア対応も担う。王族の公務はウェブサイトで公開し、「オープン」を強調する。時には載らない情報もあり、それは少数の王室担当記者やフォトグラファーだけに知らされる。

エリザベス2世=ロイター

なかでもメーガンは身重にもかかわらず、メディアへの露出が群を抜いている。チャリティーイベントの2日後には、ケンジントン宮殿の公式ツイッターに、イスラム教徒の女性と笑顔で向き合う姿が載った。その翌日には新聞各紙にも掲載された。72人が犠牲になった2017年の公営住宅グレンフェル・タワー火災の生存者を見舞ったのだ。このタワーは低所得者向けの高層住宅で、移民や難民を含む様々な国籍の人がいた。裕福な家庭で育ったわけではないメーガンなら遺族たちに寄り添える、とふんだのだろう。

「母がアフリカ系のメーガンに親しみを覚える国民は多いし、国連で演説するなど発信力もある。王室にとってすばらしい財産」。セレブ雑誌「ハロー!」の王室担当記者エミリー・ナッシュ(40)はいう。

「ハロー!」誌の王室担当エミリー・ナッシュ

■EU離脱前に、絆強める役割

メーガンには、英連邦53カ国の絆を強める「大使」としての役割も期待されている。カナダ、インド、ガーナ、ジャマイカ、ソロモン諸島などを含む英連邦は、様々な肌の色の人たちで成り立っているからだ。夫妻の初の外遊先に選ばれたのは、オーストラリア、ニュージーランド、トンガ、フィジーの英連邦加盟4カ国。昨年10月に回り、「ロックスターのような歓迎」(ナッシュ)を受けた。

「欧州連合(EU)からの離脱を控え、王室は英連邦との絆を強調しようとしている」。マンチェスター・メトロポリタン大学で歴史学を教えるジョナサン・スパングラー(47)は説明する。

過去にエリザベス2世は、南ローデシア(現ジンバブエ)の人種差別政策終結や、南アフリカ共和国のネルソン・マンデラ釈放とアパルトヘイト廃止にも、人脈を生かして貢献したといわれる。ジンバブエは英連邦を脱退したが、南アは現在も加盟する。「女王の政治的影響力が最も出やすいのは英連邦」と関東学院大学教授の君塚直隆(51)はいう。メーガンは女王の名代として各国をつなぎとめる役回りなのだ。

■現女王の後をにらむ

メーガンとハリー。キャサリンとウィリアム。彼ら彼女らがめまぐるしく活躍する背景には、英王室が抱える危機感があるようにも見える。それは「エリザベス2世後」。

街なかの土産物店で売られていたダイアナ元妃の写真入りマグカップ。レジにいた店員に売れ筋を聞くと「ダイアナのグッズが一番人気だよ」と返ってきた=ロンドン

いまの英王室は、エリザベスとダイアナの衰えない人気に支えられている。代替わりは確実に来る。王室が方向を誤れば、ダイアナの死の直後に起きた人気急落の再来もあり得る。「君主制が今後何十年も揺るぎないとは言い切れない。脆弱さをはらむものなのです」。ロンドン大学准教授のアンナ・ホワイトロックは警鐘を鳴らす。「王室の生き残りは、代替わりで問われる」。それはいつか。メーガンやキャサリンは国内外を飛び回る。