■王室に飛び込んだ異色のキャラクター
晩秋のロンドンは小雨がぱらついていた。昨年11月19日午後10時すぎ、チャリティーイベント会場になった中心部のパレイディアム劇場前では、それまでのざわつきが悲鳴に似た歓声に変わった。
「メーガン!メーガン!」
イベントに参加したハリー王子(34)とメーガン妃(37)が出てきたのだ。歓声を浴びるのは、もっぱらメーガン。英国ブランドのシークイントップを身につけ、見送りの人たちに会釈しながら、黒塗りのジャガーに乗り込む。
米国人、元俳優、母親はアフリカ系、離婚歴あり。英王室では異色のキャラクターだ。だが、この場にいた年配の女性は「ハリーはいい選択をしたと思う。ダイアナも誇りに思っているでしょう」と興奮気味に話す。
1997年、パリで事故死したダイアナ元皇太子妃の記憶は、今も英国人の心に刻み込まれている。エイズ患者を支援し、地雷廃絶運動に取り組んだダイアナ。その衝撃的な死後、ケンジントン宮殿の前には、追悼の花束が無数に並べられた。ところが英王室の反応は当初、素っ気なかった。声明も出さなければ、半旗も揚げない。女王エリザベス2世(92)に対する反感も高まった。
それまでダイアナに冷淡だった女王の変わり身は早く、矢継ぎ早に対応策を打ち出していく。追悼のテレビ演説に続き、大々的な葬儀を行い、初めてパブも訪問。王室の経済状態を公開するようになったのも、この後からだ。
■進化しなければ続かない
「ダイアナ妃の遺言」などの著書がある雑誌「マジェスティ」編集長イングリッド・シュワードは言う。「女王は『進化しなければ君主制は続かない』とわかっている。92歳で毎日、公務をこなす姿は尊敬を集めている。そしてダイアナの2人の子どもが成人して公務に就くようになり、王室人気はさらに高まった」………ハリーも、そしてやはり妻キャサリン妃(36)が人気を集めるウィリアム王子(36)も、ダイアナの忘れ形見だ。王室が彼ら彼女らに公務を振り分け、存在をアピールする能力には目を見張るものがある。
英王室は政府から独立した組織で、王室歳費の年次レポートによると約500人のスタッフを抱える。儀式の実務や美術品の管理、財務などのほか、メディア対応も担う。王族の公務はウェブサイトで公開し、「オープン」を強調する。時には載らない情報もあり、それは少数の王室担当記者やフォトグラファーだけに知らされる。
なかでもメーガンは身重にもかかわらず、メディアへの露出が群を抜いている。チャリティーイベントの2日後には、ケンジントン宮殿の公式ツイッターに、イスラム教徒の女性と笑顔で向き合う姿が載った。その翌日には新聞各紙にも掲載された。72人が犠牲になった2017年の公営住宅グレンフェル・タワー火災の生存者を見舞ったのだ。このタワーは低所得者向けの高層住宅で、移民や難民を含む様々な国籍の人がいた。裕福な家庭で育ったわけではないメーガンなら遺族たちに寄り添える、とふんだのだろう。
「母がアフリカ系のメーガンに親しみを覚える国民は多いし、国連で演説するなど発信力もある。王室にとってすばらしい財産」。セレブ雑誌「ハロー!」の王室担当記者エミリー・ナッシュ(40)はいう。
■EU離脱前に、絆強める役割
メーガンには、英連邦53カ国の絆を強める「大使」としての役割も期待されている。カナダ、インド、ガーナ、ジャマイカ、ソロモン諸島などを含む英連邦は、様々な肌の色の人たちで成り立っているからだ。夫妻の初の外遊先に選ばれたのは、オーストラリア、ニュージーランド、トンガ、フィジーの英連邦加盟4カ国。昨年10月に回り、「ロックスターのような歓迎」(ナッシュ)を受けた。
「欧州連合(EU)からの離脱を控え、王室は英連邦との絆を強調しようとしている」。マンチェスター・メトロポリタン大学で歴史学を教えるジョナサン・スパングラー(47)は説明する。
過去にエリザベス2世は、南ローデシア(現ジンバブエ)の人種差別政策終結や、南アフリカ共和国のネルソン・マンデラ釈放とアパルトヘイト廃止にも、人脈を生かして貢献したといわれる。ジンバブエは英連邦を脱退したが、南アは現在も加盟する。「女王の政治的影響力が最も出やすいのは英連邦」と関東学院大学教授の君塚直隆(51)はいう。メーガンは女王の名代として各国をつなぎとめる役回りなのだ。
■現女王の後をにらむ
メーガンとハリー。キャサリンとウィリアム。彼ら彼女らがめまぐるしく活躍する背景には、英王室が抱える危機感があるようにも見える。それは「エリザベス2世後」。
いまの英王室は、エリザベスとダイアナの衰えない人気に支えられている。代替わりは確実に来る。王室が方向を誤れば、ダイアナの死の直後に起きた人気急落の再来もあり得る。「君主制が今後何十年も揺るぎないとは言い切れない。脆弱さをはらむものなのです」。ロンドン大学准教授のアンナ・ホワイトロックは警鐘を鳴らす。「王室の生き残りは、代替わりで問われる」。それはいつか。メーガンやキャサリンは国内外を飛び回る。