記者は11月24日から6日間、コペンハーゲンに滞在。その間に、王室関係者や王室に詳しい学者らの取材を予定していた。
英国から飛行機で移動し、コペンハーゲンに到着した初日。ホテルにチェックインした後、大きなバッグをホテルに置いて、カメラバッグだけを持って外を散策した。運河に沿ってカラフルな木造家屋が並ぶおしゃれな「ニューハウン」には、クリスマス市が出ていた。マルグレーテ女王や皇太子たちが住むアマリエンボー宮殿からほど近く、童話作家アンデルセンが愛したと言われる場所だ。
このかわいらしい風景に、記者の脳裏には「インスタ映え」の言葉が浮かび、携帯やカメラでパシャパシャと写真を撮影。ただ、この時は、何もとられることはなかった。
被害に遭ったのは、デンマークにも少し慣れてきた4日目。欧州屈指のショッピングストリートと言われる歩行者天国「ストロイエ」に、一人で夕飯を食べに行った帰りだ。
取材も順調に進み、おいしいものでおなかがいっぱいになり、完全に気が緩んでいた、と後から思う。この時は、大きなリュックを背負い、カメラの入った小さなバッグを肩から掛けていた。クリスマス市のそばにたむろしている若者たちのグループがいることは目に入ったが、さして気にすることもなく、イルミネーションがきれいな市の写真を携帯でパシャリ。その後、通りの端で、バイオリンの演奏をしている男性がおり、歩調をゆるめた。
「あ、上手なバイオリン。さすが、芸術の国、デンマーク!」などと感心しつつ少し聴き入り、「聴いたからには、小銭を置いた方がいいか?」とカメラバッグの中の財布に触れた。
この後、結局小銭を置かずに、その場を去ったが、少し歩いたところで、バッグのチャックが開いたままになっていることに気付いた。中を見ると、ない!財布が。あわてて来た道を戻り、地面に落ちていないか、くまなく探したが、どこにもない。ゴミ箱ものぞいたが、ない。
普段はクレジットカードを何カ所かに分けて持ち歩いていたが、この時はたまたまなくなった財布に全3枚のカードを入れていた。現金もデンマーククローネで5千円相当以上入っていた。あわててカード会社に電話し、すべてのカードの利用を停止。ホテルの金庫に日本円を置いていたため、何とか旅を続けることができたが、現金だけでなくカードを失ったのは痛すぎる失態で、意気消沈してしまった。
翌日、観念して、コペンハーゲン中央駅の駅舎の中にある警察署に出向いた。扉を開け、立っている警察官に「財布をとられた」と必死の形相で訴えると、部屋の隅を指し、「あのパソコンで登録して」とこともなげに言われる。指された先に置いてあるパソコンの画面で、名前や連絡先、被害に遭った場所や状況を英語で入力。書き終わる間もなく、日本人の夫婦とみられる壮年のカップルが「携帯をとられた」と、困った様子で入ってきた。
その後も警察署には、次から次に「被害者」が訪れた。「自転車をとられた」と訴えるバックパッカー風の白人男性に、デンマーク人女性の姿も。地元の人も、被害に遭っているようだ。
パソコンでの登録を終え、しばらく待つと、自分の順番が回ってきて、警察官の女性による聞き取りが始まった。状況を知りたくて、こちらからも質問をする。「スリですか?」と当たり前の質問をすると、「そのように被害届を書いています。ストロイエとコペンハーゲン中央駅周辺で増えています。気を付けて」と親切に言われる。
「何で増えているんでしょうか?」と聞くと、「シェンゲン協定が結ばれた後、東ヨーロッパからたくさんの人が入ってきているから」との答え。シェンゲン協定とは、ヨーロッパ域内の出入国審査を不要とする協定で、デンマークは2001年から参加している。
財布をとられた瞬間を認識しておらず犯人について推測で物を言うべきではなく、犯罪を「移民」のせいにして必要以上に怖がるのは、差別や排外主義を助長しかねない。自分の中でそうした感情を抱かないよう十分注意した上で、注意喚起のために書いているが、被害は多発しているようだ。インターネットで調べると、在デンマーク日本大使館も2017年末に、「スリ、置き引きにご注意ください」と注意喚起をしていた。被害の多発場所として、遊園地のチボリ公園、中央駅周辺の繁華街、コペンハーゲン国際空港から中央駅に向かう電車内、があげられていた。
北欧に詳しいライターでツアーコーディネーターの新樹みかさん(26)は、自身のブログで2012年にコペンハーゲンでスリに遭ったことを書き、被害を防ぐ手立てを紹介していた。
新樹さんが財布を盗まれたのは、コペンハーゲン中央駅から空港に向かう電車に乗り込もうとしていた時。重いスーツケースを運ぶのに気を取られているうち、背中のリュックが開けられ、中から財布が抜き取られた。その後は盗まれないための対策をとり、一度も盗まれていないという。
新樹さんが提案する方法とは・・・
①トートバッグなどではなく、ファスナー付きのかばんを持ち、ファスナーに鍵をつける。それだけで狙われる可能性が低くなる。
②片手で貴重品を触っておく。重いスーツケースを持っているときや、きれいなものを見つけて写真を撮っているとき、大事な荷物から意識が離れがちになる。重い物はすぐ宿泊先やコインロッカーに預け、両手を空けていく。カメラを構えるときはリュックやポーチを自分の前に回しておく。
③行く場所と時間帯を選ぶ。できるだけ人混みを避け、人と一定の距離をあける。後ろに立たれたら、すぐ振り向く。
デンマークに旅行を計画されている方、お気を付け下さい!