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「アラブの春」でも王国は残った その安定の背後にある「越えられない一線」 

World Now
マラケシュのジャマ・エル・フナ広場の一角には、王室ファンの商店主が壁一面に国王家族の写真を貼り付けた場所があった=高橋友佳理撮影
マラケシュのジャマ・エル・フナ広場の一角には、王室ファンの商店主が壁一面に国王家族の写真を貼り付けた場所があった=高橋友佳理撮影

モロッコは北アフリカに位置し、人種は主にアラブ人とベルベル人。イスラム教が国教で、アラビア語、ベルベル語のほか、フランスの保護領だったためフランス語もよく話されている。

モロッコは立憲君主制だが、国王の権限が強く、首相や閣僚の任命のほか、国会の解散権なども持っている。モロッコでは、イスラム教の預言者ムハンマドの子孫イドリース1世が即位した788年から、12世紀以上続く王朝国家としての歴史があるとされている。ムハンマドの末裔による統治から始まったという「正統性」が強調され、国王は「アミール・アルムーミニーン(イスラム教の信徒たちの長)」とも呼ばれる。

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2都市で泊まった2つのホテルには、いずれもフロントに国王の写真が掲げられていた=高橋友佳理撮影

■国王の「改革」で沈静化

だが、「アラブの春」の波はモロッコにも訪れた。反体制を掲げる抗議活動が頻発し、都市によっては5万人を超えるデモが行われた。モロッコの政治状況に詳しい愛知県立大学講師の白谷望さんによると、「君主制打倒」というスローガンはなかったものの、国王の政治的権限の縮小や憲法改正、首相の解任や国会の解散などを要求した。

国王ムハンマド6世(55)の対応は早かった。全国規模での大規模デモが発生した11年2月20日からわずか3週間たらずの後に、憲法を改正することを発表。作成された改正案は7月には高い支持率で承認され、国民議会選挙が前倒しで行われた。

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マラケシュのジャマ・エル・フナ広場の一角。壁一面の国王一家の写真とともに、アラビア語で「私の国が好きです、国王が好きです」と記されていた=高橋友佳理撮影

「アラブの春」が始まったチュニジアに続き、エジプトで政権が崩壊し、リビアやシリア、イエメンが混乱に陥るなか、モロッコではデモは沈静化した。その姿は、同じようにデモが起こるも、改革を矢継ぎ早に打ち出し、沈静化させたサウジアラビアと重なる。サウジでは、人口が増大する若者の不満を解消しようと、女性の権利拡大に動いてスポーツ観戦を解禁したりするなど、ムハンマド皇太子(33)が中心となって改革を行っている。

やはり、王国であることと、民主化や安定とは関係があるのだろうか。フェズ郊外のアルアハワイン大学ドリス・マグラウィ准教授(55)は「確かに、改革に乗り出していた11年当初は期待があった。だがその期待は徐々にしぼんでいった」と話す。当初は改革が進んだのだが、体制を批判したことによって逮捕されているジャーナリストは釈放されないままで、「(アラブの春前に比べても)より強固な警察国家になった」という。

そして、「王国だから安定か」という「問い」自体に疑問を呈した。

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マラケシュにある世界遺産、ジャマ・エル・フナ広場=高橋友佳理撮影

「モロッコやヨルダンでは確かに、比較的若い君主がいて、改革に乗り出した。民主化運動で政権が倒れた国々では、『共和国』の大統領が30年、40年と長期にわたり権力を持ち、息子などに権限を委譲しようとしていた。彼らはあたかも『王』のような存在で、そもそも君主制国家と共和国を対比させる問いが意味を持たない」

そしてこう続けた。

「何を安定と見るか、という問題もある。ここ半年の間にモロッコでも農村部でデモが起きており、そのために人々が逮捕されているが、ほとんど報道されていない。これを、安定というならば、モロッコは安定している」

そしてこう言う。「モロッコの言論の自由にはレッドライン(越えてはならない一線)がある。それは、王制批判と、西サハラ問題、そして宗教についてだ」

■「民主化で混乱よりは、国王のもとでの平和を」

確かに、今回街なかで、「王室についてどう思うか」と出来る限り人に聞いて回ったが、国王について賛美する以外の声は聞かず、1年近く表舞台に出てきていない王妃サルマ妃については、名前を出すと即座に「知らない」というか、話題をそらされた。

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マラケシュのジャマ・エル・フナ広場を見下ろす国王の写真パネル。隣の地図は、西サハラ地区も「領土」として塗られていた=高橋友佳理撮影

西サハラ問題というのは、西欧の植民地支配後、独立運動が起きたモロッコの南、西サハラ地区の帰属問題で、モロッコは自国領と主張し実効支配をしているが、住民投票がいまだ実施されず、国際的には決着がついていない。そして、宗教とは、イスラム法に基づく統治を主張し、王制を否定するイスラム主義運動のことなどを指している。

報道する身としてはタブーがあっては自由な取材が難しく、強いストレスを感じるが、一般の人々はどのように感じているのだろうか。

首都ラバトで外国人にアラビア語を教えるジャミーラさん(54)はこう話した。「私たちの生活や言動には制限がある。でも、民主化するにはこの社会は十分熟していないと思う。民主化して大混乱に陥るより、国王のコントロールの下での平和を望む」。それを、病気に例えてこう表現した。「体に悪いところがあったとして、手術したら死んでしまうかもしれない。それならば、私は少しずつ薬を飲んで、生きていたいですね」