モロッコでは、国王ムハンマド6世(55)の妻サルマ妃(40)が、公の場に出るようになった初めての王妃だった。2011年に英ウィリアム王子とキャサリン妃の結婚式に出席し、英雑誌「ハロー!」の読者投票で「最も優雅なゲスト」に選ばれ、注目を集めた。
近年、表舞台に立つのは、国王の姉妹たちだ。妹のハスナ王女(51)は昨年11月、五井平和財団から平和賞を受けるために来日し、東京での記念講演で「国の制度的枠組みの中で(環境保護)活動を推進しており、この枠組みこそ、国王が重点を置いているものです」と王室主体の環境保護への取り組みをアピールした。
それから間もない11月30日、モロッコの古都マラケシュで国際映画祭が開幕した。国王の肝いりで、運営する財団のトップは国王の弟ムーレイ・ラシード王子。2時間近くに及んだ開会式で王子が民衆の前に姿を現すことはなかったが、翌日の晩餐会で俳優ロバート・デニーロら参加者からあいさつを受ける王子夫妻と、国王の姉メリヤム王女の姿が報道された。
映画祭は2001年に始まり、17年を除き毎年行われている。首都ラバトには「ムハンマド6世」の名前を冠する現代アート美術館が14年に建てられたほか、毎年夏に行われる国際音楽祭も王室がかかわっている。
環境保護も文化も、すべて国王の庇護の下で。その中でプリンセスたちは、「近代化と親しみやすさ」を打ち出す象徴的存在なのかもしれない。
■プライベートはベールに
ところが、公の場で初めて活動した王妃サルマは、1年ほど前から表舞台に姿を見せていない。どうしたのか?
首都ラバトの街中で聞いてみた。だれも消息を知らない。ようやく、「最近、王宮で王妃が手を振ってくれた」との話を聞くことができた。子育て中の王妃は、王宮にこもっているのだろうか。
伝統と近代化のはざまで、王室のプライベートな側面はベールに包まれている。近現代史を研究するフェズ郊外のアルアハワイン大学准教授ドリス・マグラウィ(55)は「サルマ妃は『近代的な王室』の象徴だった。王妃についても、行事に使うお金についても、透明性を高めれば国民の信頼は増し、王室強化につながる」と話す。
一方、国王の特使として昨秋来日したアシア・ベンサーリフ・アラウィは、伝統的社会では近代化が不安定化を引き起こしかねないことに触れたうえで、「国王陛下は穏健なイスラム教の指導者として、伝統と近代化の調和において中心的役割を果たしている」と述べた。