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ホワイトハウスに飛び交う罵声と怒号 突然始まったバトル

ホワイトハウスへ猛ダッシュ
アメリカのシンガーソングライター、ジョイ・ヴィラ氏(写真中央)。「壁を建てよ」、「米国を再び偉大に」など、トランプ大統領の決まり文句をデザインしたドレスをまといグラミー賞に出席し話題を呼んだ=ワシントン、ランハム裕子撮影、2019年7月11日

7月11日、ワシントンは朝から湿度が高く、どんよりと薄黒い雲に覆われていた。その空の下、私はホワイトハウスに猛ダッシュしていた。

この日の大統領の予定には公開行事はなかった。だが、朝目覚めて携帯を見ると、トランプ大統領のツイートに「会見」の文字が?!慌てて飛び起きる。

「ホワイトハウスで今日、とても重要で大規模なソーシャルメディア会議が開催されます。ソーシャルメディアがなかったら私が大統領になれたでしょうか?イエス(多分ね!)。会議終了後は美しいローズガーデンに行き、国勢調査と市民権について会見します」。ツイートされた時間は午前3時39分だった。

「ソーシャルメディア会議」というのは、ツイッターやグーグル、フェイスブックが招待されない一方で、トランプ氏の支持者が数多く招かれていたことから、その趣旨をめぐって論議を呼んでいた。しかも冒頭以外はメディアに公開しないというものだ。そしてこの謎めいた会議の直後に急遽追加された記者会見……

通常、大統領のスケジュールは前日に発表され、記者団はその予定に基づき取材を計画する。が、トランプ政権発足以来この「通常」はない……大統領本人がツイッターで突然予定を変更し、国民やメディアに向けて「今日の会見みてね!」と言わんばかりに宣伝する。そこから猛ダッシュが始まる。突然の会見を実現させるべく、準備に追われるホワイトハウス職員の奮闘は言うまでもない。これが今の「通常」だ。

この日の予報は雷雨。レインコートや雨具をまとった多くの記者団がホワイトハウスに詰めかけたものの、一体どこで会見が行われるのか発表がないまま。中では「ソーシャルメディア会議」がまだ続いていた。午後5時過ぎ、屋内だろうという予想に反し開かれたのはローズガーデン(ホワイトハウスにある中庭)への扉。トランプ大統領のツイート予告通りだった。土砂降りの中の撮影になるかもしれないと不安にかられた瞬間、追い打ちをかけるかのように頬に雨つぶが落ち始める。

雨が降ったり止んだりする中、急遽開かれる会見に入るため、ホワイトハウスの集合場所で待つ報道陣。脚立や機材はすでに雨で濡れている=ワシントン、ランハム裕子撮影、2019年7月11日

なだれ込むように中庭に入り、急いで撮影準備を始める。すると目に飛び込んだのは「MAGA(マガ)」(「米国を再び偉大に」という意味のMake America Great Againの頭文字)の赤い帽子をかぶった人々だった。それは毎度毎度トランプ集会で目にする光景。でもなぜ、トランプ支持者がホワイトハウスで記者会見に出席するのだろう……!?

トランプ選挙集会に参加するトランプ支持者たち。サポーターの間での人気アイテム、赤い「マガ帽子」をかぶっている=フロリダ州オーランド、ランハム裕子撮影、2019年6月18日

5時半をまわり、やっと大統領登場。執務室から目の前のローズガーデンに出てくる際、大抵の場合立ち止まって笑顔を見せたり、手を振ったり、またはガッツポーズを見せるトランプ大統領だが、この日はご機嫌斜め。それが手に取るように伺えた。その理由は、国勢調査に米国民かどうかを問う質問を追加しようとして躍起になっていたトランプ大統領に対し、連邦最高裁から「待った」がかかったためだ。全て表情や素ぶりに出てしまう。

大統領執務室からローズガーデンに登場するトランプ大統領(右)とバー司法長官。この日トランプ大統領の顔には笑顔がなく、終始険しい表情だった=ワシントン、ランハム裕子撮影、2019年7月11日

だが、すんなり負けを認めるトランプ大統領ではない。そこで大雨になりそうな天気の下、代替案を発表するためにこの会見が急遽開かれた。そして、そんな大統領を応援するかのごとく、この「MAGA帽子」をかぶった「ソーシャルメディア会議」の参加者たちが、会見にも招待されたというわけだ。そのメンバーは、ツイッターでフェイクビデオを広めた人や、陰謀論者などを含む名の知れたトランプ支持者たち。ホワイトハウスでの会見がまるでトランプ選挙集会の光景さながらになったのも当然の成り行きだ。

ローズガーデンは、トランプ大統領が「フェイクニュース」や「国民の敵」と呼ぶホワイトハウス記者団と、自分たちが真のジャーナリストだと主張するトランプ支持者が隣同士に共存する空間となった。この状況を考えるといつ何が起きてもおかしくはないだろう。

ローズガーデンでトランプ大統領の登場を待ち、カメラを構えるフォトグラファーと記者たち。会見の間、奇跡的に雨が止んだ=ワシントン、ランハム裕子撮影、2019年7月11日

緊迫した空気の中、トランプ大統領は演説を始める。呼吸の度に鼻をすするような音が聞こえる。この音が出る時、鼻炎か、はたまたストレスを感じているともいわれる。いつもの「トランプ節」を出すこともなく、演説は6分で終了。トランプ大統領は「皆さん、ありがとう」と言い、すぐさまローズガーデンを去る。記者団は質問をしようと叫んだが、大統領はそのまま執務室へ。大統領の「会見」ツイートで始まった1日は、会見ではなく一方的な「発表」で幕を閉じた。

トランプ大統領はこの日、記者会見をするとツイートしたが、声明を発表した後、記者団からの質問に答えることなくローズガーデンを後にした=ワシントン、ランハム裕子撮影、2019年7月11日

次の瞬間、いやな予感は当たった。招待客席から、星条旗をモチーフにしたドレス姿の女性がホワイトハウス記者団に向かい突然叫び始めた。「あなたたちはフェイクニュースだから、今日のソーシャルメディア会議に招待されなかったのよ」。ローズガーデンが一気にざわつく。女性は、「フェイクニュースはもう終わった。真のジャーナリストになりなさいよ」と続けた。それに対抗したのが、CNNのコメンテーターでもあるプレーボーイ誌のホワイトハウス担当記者。この男性記者は報道官や大統領に対し大声で批判や質問をぶつけることで有名。ジャーナリズムの「定義」を巡って反論。バトルが始まった。外野からは「お前はジャーナリストじゃない。チンピラじゃないか」とヤジが飛び交う。記者が「文句があるなら外で話そうじゃないか」と言う。

トランプ大統領がローズガーデンを去った直後、始まったケンカをあおりながら携帯で撮影する招待客たち=ワシントン、ランハム裕子撮影、2019年7月11日

するとそこに、「お前は俺をこのローズガーデンで脅す気かぁー?!」と叫びながらバトルに乱入してくるガタイのいい髭面の男性がいた。元大統領補佐官のセバスチャン・ゴーカ氏だった。ゴーカ氏は「ブライトバート・ニュース」の元編集者だ。前米大統領首席戦略官のスティーブン・バノン氏とともに「ホワイトハウスの極右」と呼ばれ、物議を醸した人物。

2017年1月からトランプ大統領の補佐官を務め、同年8月に解任されたセバスチャン・ゴーカ氏。現在はセーレムラジオネットワークで「アメリカ第一」というラジオ番組を持つ=フロリダ州オーランド、ランハム裕子撮影、2019年6月18日

「ゴーカ!こいつをやっつけて!」と女性が言うと、周囲は「ゴーカ!ゴーカ!」と、一斉にゴーカコール。ローズガーデンは、プロレスのリングと化す。ゴーカ氏は、他の記者にもいちゃもんをつけ出した。すると客席から別の男性が記者に対し、「記録のために言っとくが、ゴーカはチンピラのお前をやっつけることができるんだぞ」と、携帯で撮影しながら、そう言い放った。その場は、ホワイトハウス職員がローズガーデンから早く人々を退場させる形でひとまず終結したが、通路でも怒鳴り合う声が響いていた。

ホワイトハウスのローズガーデンで、プレーボーイ誌のホワイトハウス担当記者(写真右手前)に対し怒鳴るセバスチャン・ゴーカ氏(中央)=ワシントン、ランハム裕子撮影、2019年7月11日

しきりに叫んでいた女性はトランプ支持をアピールするシンガーソングライター。彼女のドレスには「Freedom」(=自由)という文字が大きくデザインされていた。ホワイトハウスを後にすると、雷が響き、大粒の雨がこぼれ落ち始めた。

「フェイクニュースを広めるのを止めなさい」とホワイトハウス記者団に語る米歌手。「真実を書こうとしないあなた方の記事なんて読まない。そういうことを話すために今日私たちはホワイトハウスに集結した」と続けた=ワシントン、ランハム裕子撮影、2019年7月11日

翌朝、トランプ大統領はこうツイートした。「ゴーカの大勝利!比べ物にならない!」

バトルはまだまだ終結しない……