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トランプ氏の記者会見は突然に 気分次第で爆弾発言も

ホワイトハウスへ猛ダッシュ
ホワイトハウスで記者団からの質問に答えた後、支持者と握手するトランプ大統領。トランプ大統領の握手はいつも力強く、相手を自分へ引っ張るように見える =ワシントン、ランハム裕子撮影
ホワイトハウスで記者団からの質問に答えた後、支持者と握手するトランプ大統領。トランプ大統領の握手はいつも力強く、相手を自分へ引っ張るように見える =ワシントン、ランハム裕子撮影

今日も私は走っている。猛ダッシュでゴールする先は、上空にヘリ2機が旋回する騒がしいホワイトハウス。

大統領が遠くへ移動する際、ホワイトハウスから24キロ離れたアンドルーズ空軍基地までの約10分間の飛行は、専用ヘリを使用する。空軍基地で大統領専用機「エアフォース・ワン」に乗り換え、目的地へ飛ぶためだ。悪天候時には車で約30分、車列での移動になる。

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敬礼をしながら大統領専用ヘリ「マリーンワン」に乗り込むトランプ大統領。階段には”Welcome Aboard Marine One”(マリーンワンへようこそ)と書かれている。

ホワイトハウス記者団は、大統領がヘリに乗り降りする際に質問を浴びせる。普段会見室に滅多に姿を見せないトランプ大統領が、その日の気分で自分の言いたいことをカメラに向かって話したり、記者からの質問に答えたりするのがこの時。それはまさに突然の記者会見だ。オバマ前大統領の時は、このような「サービス」がなかったため、ヘリの発着に大勢の記者が詰めかけるということは稀だったが、今となっては恒例行事。いつ爆弾発言や発表が飛び出すかわからないからだ。

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サウスローンで記者団からの質問に答えるトランプ大統領。写真右上に見えるのが大統領執務室。大統領は執務室から直接外に出て、芝生からアスファルトの通路を通り、記者団方向に向かってくる=ワシントン、ランハム裕子撮影

時には記者団を完全無視、時には数分間自分が言いたいことだけを言い、立ち去る。またある時には、およそ20分にもわたり記者からの質問に答える。気に入らない内容は「愚かな質問」だと言い、記者を指差しながら攻撃する。一方で、気に入った質問をする記者には「もっと他に質問ないの?」と自らさらなる質問を招き、同じ記者が数回質問することも。

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様々な手振りで有名なトランプ大統領は、アコーディオンを弾くように両手を動かしたり、人差し指と親指で丸の形を作ったり、人差し指で人を指しながら話したりする=ワシントン、ランハム裕子撮影

「マリーン・ワン」と呼ばれる大統領専用ヘリは、ホワイトハウスの南側にある芝生の庭に発着する。サウスローンという名のこの庭に立つと、春には桜、夏には青葉、秋には紅葉、冬には雪景色といった光景が目の前に広がる。その奥には、ワシントンで一番高い建物、高さ169メートルのワシントン記念塔がそびえ立っている。

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ホワイトハウスのサウスローンに着陸する大統領専用ヘリ「マリーン・ワン」。左奥にはワシントン記念塔がそびえ立ち、右奥にはトーマス・ジェファーソン記念堂が見える=ワシントン、ランハム裕子撮影

記者団からマリーン・ワンまでの距離はおよそ50メートル。待機時はエンジンを切らずに大統領を待つため、ここでのやり取りは叫び合いに近い。特に強風の時は、トレードマークの髪型が乱れまくったトランプ大統領が質問を聞き取ろうと記者の顔に近づいてくることもしばしば。「え?聞こえないからもう一度言って」と耳を凝らしながら近づいてきた大統領の右手中指に、鬱血して黒くなった爪を発見したのもマリーン・ワンの出発時だった。ドアに挟んだに違いない……と確信しつつ、痛かっただろうに、と思いながらシャッターを切った。この距離だと髪型の仕上がりの違いも見えるため、今日はフワフワ感満載だなぁとか、今日は湿気でペシャっとなっているなぁ、などと思いながら撮っている。

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「ヘリのエンジン音で聞こえなかったから質問をもう一度言ってくれ」と言いながら記者に近づくトランプ大統領の右手中指の爪が鬱血しているのが見える=ワシントン、ランハム裕子撮影

大統領がヘリに乗り降りをする際の通り道は2つある― 大統領執務室からの出入り通路とレジデンス(居住スペース)からの出入り通路。この2つの撮影位置は約25メートル離れているため、カメラを構える位置は2つのうち、必ずどちらかを選択しなければならない。ただ、早朝ならレジデンスからの出発、午後なら執務室からの出発というように、発着時の時間により順路は推測することができるため、ほとんどの場合、大統領は構えたカメラに姿を現してくれる。推測が難しい時は、まさに賭けのようなものだ。「ギャンブル戦」となれば、勝つか負けるかは50/50だ。

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ホワイトハウスで記者団からの質問に答えるトランプ大統領。写真左にあるのがホワイトハウスの「レジデンス」と呼ばれる居住スペース。バルコニーもある。早朝の出発は、執務室ではなくこのレジデンスの出入り口から登場することが多い=ワシントン、ランハム裕子撮影

ある日、トランプ大統領がいつものようにマリーン・ワンでホワイトハウスに到着した。すでに夕方5時を回っていたため、ヘリを降りて向かう先は当然レジデンスだと思われていた。ところが、一旦こちらへ向かおうと数歩踏み出した時、レジデンスの入り口で待つ大勢の記者団を見たトランプ大統領は、突然くるりと方向転換。大統領執務室へ向かい始めた!慌てて脚立や機材を抱え、執務室方向へ一斉に移動。テレビカメラのケーブルに引っかかり転びそうになった人もいる。その日、トランプ大統領の不機嫌な顔には普段のメークはなく、すっぴんに見えた。いつもより早い速度で歩き出したトランプ大統領は記者団の質問に一切答えることなく、執務室のドアを閉めた。なぜあのようなフェイントをかけてきたのか。敵視するメディアに対する嫌がらせか。執務室に忘れ物でもしたか。はたまた、すっぴんを見られたくなかったのか。答えはトランプ大統領にしかわからない……

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マリーン・ワンから降り、大統領執務室へ向かって足早に歩くトランプ大統領。記者からの質問に見向きもせず、うつむいた顔は、肌が荒れているように見える=ワシントン、ランハム裕子撮影

出発の際に、同じくマリーン・ワンに搭乗するメラニア夫人やイバンカ氏なども姿を見せることがある。政権発足直後は、記者団と受け答えするトランプ大統領の隣で、メラニア夫人は何も言わず、待っていた。大きなサングラスの奥には若干不機嫌な面持ちが見え隠れし、その場に居たくないような表情がうかがえた。

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記者団からの質問に答えるトランプ大統領と、終始何も言わずやり取りを見守るメラニア夫人。メラニア夫人はサングラスをかけていることが多い=ワシントン、ランハム裕子撮影

今では、トランプ大統領が話す気満々の時は、先に自分だけカメラの前に登場し、メラニア夫人はホワイトハウス内で待機。トランプ大統領が記者団とのやり取りを終了し次第、メラニア夫人は外に姿を見せ、共にヘリに向かうことが多くなった。このことから、予定に夫人も同行と書いてあるにも関わらず大統領が一人で登場する瞬間、私たちの中では、「大統領は記者団の質問に答える」と確信する。

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週末を家族で過ごすため、家族でヘリに向かうトランプ大統領ファミリー。メラニア夫人のピンヒールが芝生に刺さらないかハラハラする=ワシントン、ランハム裕子撮影

昨年11月末にトランプ大統領夫妻がアルゼンチンで行われるG20へ向けホワイトハウスを出発した時、いつものようにまずはトランプ大統領が一人でカメラの前に姿を現した。記者団とのやり取りは10分間に及んだ。その後、いつものように記者団に手を振り、トランプ大統領はそのままマリーン・ワンへ向かい、歩き出した。記者からの質問に答えたアスファルトの地面から、ヘリが待つ芝生へ差しかかろうとしたその時、「しまった!何かを忘れた」とでも言わんばかりにトランプ大統領が振り向く。。。忘れたのはメラニア夫人だった。

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記者団とのやり取りを終え、待機するマリーン・ワンへ向かうトランプ大統領=ワシントン、ランハム裕子撮影

奥さんのことを忘れ、一人でマリーン・ワンに搭乗しようとしたことを慌ててかき消すかのように、トランプ大統領はメラニア夫人の手を取り、「さぁ記者団に挨拶でもしようか?」というジェスチャーをした。自分はすでに記者団にバイバイしていたのにも関わらず。そして、手を繋いでカメラの前で仲良くポーズしてみせた。終始無表情だったメラニア夫人の顔に笑顔が見えたのは、カメラに向かってポーズした、この瞬間だけだった。

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メラニア夫人の手を取り、なぜかカメラの前で立ち止まるトランプ大統領。「奥さんを忘れたわけじゃないよ」とでも言いたかったのか……=ワシントン、ランハム裕子撮影

このようなハプニングも含め、「青空会見」はある意味、会見室よりも至近距離で自由なやり取りが繰り広げられる。もちろんそれは大統領の気分次第だが……

トランプ大統領を乗せたマリーン・ワンは、上空で待機していた2機の「おとり」ヘリとともに、爆風で木々の葉っぱや、噴水の水、そして記者団の髪の毛をめちゃくちゃにしながら、今日も旅立って行く。

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マリーン・ワンの発着時の爆風は、記者団、シークレットサービス、ホワイトハウス職員、支持者らの髪の毛を、パンクロックのような仕上がりにしてくれる=ワシントン、ランハム裕子撮影