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ホワイトハウスの会見室に現れた「とても特別なゲスト」とは?

ホワイトハウスへ猛ダッシュ
定例会見の激減を受け、外でテレビ出演を終えるサンダース報道官を待ち構え質問する。報道官にそのまま立ち去られないよう記者団は工夫し、台を準備するようになった=ワシントン、ランハム裕子撮影

今日も私は走っている。ゴールは5分後にホワイトハウスで始まる定例会見。さすがに間に合うわけがないと思いながらもいつもの通り猛ダッシュで向かう。

メキシコ国境の壁をめぐるトランプ大統領と議会の対立で、政府機関が一部閉鎖になり13日目を迎えた1月3日。この日のホワイトハウスの予定には「会見」の文字はなかった。が、午後4時近くに「5分後に会見」という突然の知らせ。サンダース報道官による記者会見は2週間ぶりだった。しかも政府閉鎖後初とあっては逃すわけにいかない。

オフィスからホワイトハウスまではどんなに走っても10分かかる。息を切らして到着した会見室では記者団がまだ待機していた。間に合った……トランプ政権発足以来、突発的な会見や緊急発表があるが、時間通りに始まらないのはもはや日常茶飯事だ。

時間通りに始まらない会見を待つ記者団。予定時間を過ぎてから「30分遅らせます」などというアナウンスが流れることもしばしば=ワシントン、ランハム裕子撮影

「5分後」という突然の通告に間に合わない記者も多く、空席も目立つ中、サンダース報道官が4時半ごろやっとカメラの前に姿を現した。通常一人で演壇に立つが、なぜかこの日は男性7人、女性1人がぞろぞろと登場した。一体誰?と、会場がざわつく。

「明けましておめでとう」と切り出したサンダース報道官はこう続けた。「2019年の幕開けを、いつもと少し違うやり方で迎えましょう。この会見室にいらっしゃったとても特別なゲストを紹介します」

「とても特別なゲスト?」 新たなざわめきが押し寄せる。次の瞬間自分の耳を疑った。「我々のとても偉大な大統領、ドナルド・J・トランプ!」……

確かに聞いた、この名前。そしてプロレスラー並みのいつもの大げさな紹介。だが、トランプ大統領は就任以来2年間、会見室に足を踏み入れていない。「トランプ?本当に?」と、他のフォトグラファーたちと目を合わせる。サンダース報道官はすぐさま演壇から降り、トランプ大統領の登場を待つ。紹介から登場までの10秒間、会場は水を打ったように静まり返った。

会見室に登場するトランプ大統領。昨年3月、韓国特使が米朝首脳会談の発表をする直前に、トランプ氏は会見室のドアに姿を見せ、「これから韓国が重大な発表をするぞ」と記者団に伝えすぐに中に戻っていった。この時以外、会見室に登場したことはなかった=ワシントン、ランハム裕子撮影

そして、「我々のとても偉大な大統領」が会見室に初登場した。両手を広げ、「皆さん、こんにちは。なんて美しい所でしょう。今まで見たことがありませんでした」と切り出したトランプ大統領の顔は、慣れない場所での緊張からか、引きつっていた。使い古された会見室を「美しい」とする表現に違和感を覚えた自分の顔も引きつっていたに違いない。

会見室に入るとすぐに天井に装備された照明を見上げ、「なんて美しい場所だ」と記者団に話すトランプ大統領=ワシントン、ランハム裕子撮影

壇上に上がると、いつものトランプ節の、始まり、始まり……

トランプ大統領は、背後に立つ8人の紹介とともに、国境の安全にはいかに「壁」が必要か、そしてどれだけ自分の案が多くの国民から支持されているか、という話を始めた。南部の国境から入国する不法移民がアメリカに麻薬や犯罪をもたらしているという主張は、大統領選の時から幾度となく繰り返されているため、また始まった、と思いつつカメラを構える。

初めて上がった会見室の演壇で、壁の必要性について話すトランプ大統領=ワシントン、ランハム裕子撮影

サンダース報道官と登場した8人は、国境警備の責任者だった。男性3人が、トランプ大統領を後押しするように壁の必要性を説いた。すぐ背後で話を聞くトランプ大統領は、役者の演技をチェックする芝居監督、はたまた「絶対ホームラン打ってこい」と選手に圧力をかける野球監督のように見えた。一人には、まるで「頑張れ。お前はできる」とでも言わんばかりに腕を叩き気合を入れた。一人一人が、トランプ大統領に対する感謝や忠誠を述べる。「トランプ大統領に心から感謝し、国境を守ろうとする努力を完全にサポートします」「物理的な壁を作ってくれるトランプ大統領の努力に心から感謝の気持ちでいっぱいです」。それを満足げに聞く「トランプ監督」。この流れは、他の式典や会議でもよく見られる恒例の「儀式」となっている。

壁の必要性を説明し、トランプ大統領に対する感謝の気持ちを述べる国境警備の責任者を監督のように見守るトランプ大統領=ワシントン、ランハム裕子撮影

演壇のマイクに戻ったトランプ大統領は、会見室に自分が登場したことを「初めてだったけど出て来てよかった」、「誇りに思う」などと言い、さっさと会見場を去ろうとする。

その瞬間、記者団から一斉に質問の波が押し寄せた。「会見室は質問を受け付けるためにあるのではないですか!」と叫ぶ記者や、「演壇に戻って来て下さい!」と懇願する声も聞こえた。記者団からの非難と質問の嵐を背中に受けながら、トランプ大統領は振り返ることなく会見室を後にした。

質問に一切答えないまま会見室を去ろうとするトランプ大統領に、一斉に記者団が質問を浴びせた=ワシントン、ランハム裕子撮影

サンダース報道官による定例会見の回数は去年の秋から激減した。トランプ大統領がその理由を、「記者団が報道官に対して失礼で不正確な取材をするからだ。。。フェイクニュース!」とツイートし、会見はしなくていいという指示を自分が出したと明言している。一方で、トランプ大統領が言いたいことをカメラに向かい話す回数は増えている。トランプ大統領は自分の報道官を自分でやっている。

国境での人身売買に関する会合は、本来非公開だったが、急遽トランプ大統領が公開し、記者団からの様々な質問に自ら答えた。このような機会は、定例会見の減少の一方で増えている=ワシントン、ランハム裕子撮影

サプライズの開演ベルで始まった「トランプ監督」の初舞台は、自分の言いたいことだけを語り、突然幕を閉じた。全体で10分にも満たず(トランプ大統領が実際に話した時間は約5分間)、残された観客、もとい記者団は怒りと混乱に満ちていた。直後、会見室からすぐさまリポーターたちが中継を始める。質問を一つも受け付けないというのは一方的な発信で、注目を集めるための「ツイートの実写版に過ぎない」。そんな声を聞きながら帰る準備をした。

会見室に取り残された記者たちは極めて不服な表情を浮かべていた=ワシントン、ランハム裕子撮影

トランプ劇場はまだまだ続く。