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「不器用で完璧ではないところに良さがある」:コントラバス奏者、原田光嗣さん①

行け!イタリアの風にのって ~若手音楽家の手紙~
トリエステの海を見下ろす丘の上で。妻が撮影=2016年4月、原田光嗣さん提供

イタリア北部の国境の街、トリエステで、コントラバス奏者として活動しています。

トリエステってそもそもどこにあるの?コントラバスってあの大きな弦楽器で、どんな仕事があるの?いろいろな「謎」が浮かぶと思います。まずは、僕がコントラバスに出会ってトリエステにたどり着いたいきさつと、プロとして活動するまでのお話から。

コントラバスはご存じの通り、オーケストラの弦楽器パートの一番奥にある、低音楽器です。バイオリンやチェロに比べると、目立たない楽器と言えますし、どうして「コントラバスを演奏しよう」と思うのか、不思議に思われるかもしれません。イタリアに来て、同僚のコントラバス奏者に聞くと、「親がやっていたから」という人が意外に多いようです。一方で、日本では部活の吹奏楽で始める人が多いのではないでしょうか。

僕も吹奏楽部でコントラバスを担当しました。でも元々は、バンドのエレキベースをしていたのがきっかけです。中学校を卒業して、どうしても「大学に向けた受験戦争」に関わりたくなかった僕は、進路に5年制の高等専門学校(高専)を選びました。化学を専攻して、大学受験をせずに専門的な職業に就けるのでは、と考えたからです。しかも中学のころは、「宇宙飛行士になりたい」と言っていました。ちょうど、向井千秋さんがスペースシャトルに乗って宇宙に行った頃。科学者でも宇宙に行けるんだと知り、夢がふくらみました。

原田光嗣さんが学んだトリエステの国立音楽院で=2019年6月、河原田慎一撮影

ですが、高専に入学後は見事に「高校デビュー」を果たしました。ブルーハーツやハイスタンダード、ザ・イエロー・モンキー(イエモン)など、日本のロックバンドのカバーでしたが、演奏に明け暮れる日々。そこにある日、学校OBの寄贈で、一本のコントラバスがやってきました。「エレキベースやってるんやったら弾けるやろ」ということで、吹奏楽部で担当することに。そこで、コントラバスの音の「深さ」にはまりました。

低音だから、というだけではなく、こんなに深い音色を持つ楽器は、ほかにないと思います。コントラバスはその楽器の構造上、音を響かせる「箱」の部分の大きさと、弦の長さが釣り合っていない、と言われます。つまり楽器から出せる音のすべてを出し切れていないのだそうです。もし完全に出そうとすると、もっと大きな楽器になっていたでしょう。でも僕に言わせると、この不完全なところが「深い」のです。楽器自体がなんだか不器用で、完璧ではない。そんなところに良さがあります。

原田光嗣さん=2016年10月、写真家のジャコモ・フルラーニ氏撮影

しかし先生はもちろん先輩もいなかった僕には、なぜか一人だけ弦楽器だし、他の管楽器の音量には到底かなわないし、吹奏楽におけるコントラバスの魅力がよく分かりませんでした。そこで自然と、自分が好きなメロディーを耳コピで演奏したり、ジャズやクラシックの境なく国内外で活躍するコントラバス奏者のCDを手当たり次第に聴いたりするようになりました。

その中で最もほれ込んだのが、ステファノ・シャシャというイタリア人奏者の演奏でした。彼ほど、メロディーを「歌える」人はいません。コントラバスのために書かれた曲が少ないこともあり、チェロやバイオリンのために書かれた曲を超絶技巧で演奏したり、楽器をたたいたりこすったりする雑音で奏法に変化をつけたりする演奏家がいる中で、歌い方がすごく自然で、心にしっかりと届く。これは美しい、と感銘を受け、2004年の来日コンサートを聴きに行きました。

コントラバス奏者のステファノ・シャシャ氏(中央)と=2018年3月、原田光嗣さん提供

終演後、シャシャ氏と直接話す機会があり、「あなたと勉強するにはどうしたらいいですか」と直談判。「トリエステに来たら、歓迎するよ」という返事は、今考えると社交辞令だったと思いますが、高専5年生の卒業旅行の目的地はトリエステに決まりました。