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「コレペティは好きなことが全部できる仕事」:斎藤優奈さん

行け!イタリアの風にのって ~若手音楽家の手紙~
チロル音楽祭でバッハ「マタイ受難曲」のチェンバロ奏者を務めた斎藤優奈さん=2018年3月、斎藤さん提供
チロル音楽祭でバッハ「マタイ受難曲」のチェンバロ奏者を務めた斎藤優奈さん=2018年3月、斎藤さん提供

コレペティートルという職業をご存じでしょうか。日本では略して「コレペティ」と呼ばれます。イタリア語では「マエストロ・コラボラトーレ」と言います。直訳すると「協力者の師匠」といったところでしょうか。

協力者?それでいて師匠?なんだか不可解ですが、オペラ公演には欠かせない存在です。歌手がオペラの舞台に立つときに、音楽面で裏から支える仕事。伴奏のピアニストをするだけでなく、台本や楽譜の解釈を伝え、照明や舞台袖でキューを出すこともある。まさに縁の下の力持ちなのです。

このような重要な仕事を任されているのですが、残念ながら日本ではほとんど知られていません。日本にいるコレペティの専門家は、大学で教えている人なども含めて、20人ぐらいでしょうか。本来は、オペラ歌手のいるところには絶対に必要なのですが。

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同じ秋田出身の親友がパルマ歌劇場で開いたコンサートで伴奏する斎藤優奈さん(左)=2014年10月、斎藤さん提供

コレペティは、歌手にとっては「かかりつけ医」のような人と言えます。オペラでは伝統的に楽譜に書かれた通りに歌わず表現を優先することがよくありますが、それが現代の感覚では行き過ぎになってしまったり、逆に足りなかったり、ということがよくあります。そういうときにそのバランスをアドバイスすることが、大きな仕事の一つ。台本の意味から入って、「文化的な背景はこうだから、ここはこういう風に歌った方がいい」というようなアドバイスをします。オペラ歌手はふだんの勉強を、コレペティにつきあってもらいます。

歌手でもないのに、歌い方を指導するの?イタリア人でもないのに、イタリア語の歌詞の解釈を伝えられるの?確かに、大変な仕事です。私は2012年に東京藝術大学を卒業後、イタリア北部のパルマに渡り、パルマ音楽院でコレペティについて学びました。イタリアで過ごし始めて半年がたった頃。中部にあるスポレートという街で、歌手の研修所(アカデミー)でのコレペティの仕事を任されたのです。

今考えると、どうやってできたのでしょう?イタリア語も十分でないのに、コレペティは語学だけでなく、文化や宗教についての知識も必要です。これはイタリア人の100倍頑張っても及ばないでしょう。

一方で、楽譜を読む能力は、日本で音楽を専門に学んだ人は圧倒的に優れていると思います。歌手に知識を与えるというよりは、目の前にある楽譜から様式や「作曲家が求めているもの」を読み取り、自分の持っている知識を活用しながらアドバイスしていく、という感じでしょうか。指揮者や歌手が培ってきた文化的な知識にはとても及ばないので、逆に「教えて」と言います。彼らから得ることも多く、私は作品への理解をすすめるための楽しい共同作業だ、と思っています。

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イタリアを代表する声楽家ミレッラ・フレーニ氏の誕生パーティーに招かれた斎藤優奈さん(左)=2013年2月、斎藤さん提供

コレペティの協力によって、歌手も指揮者も完成度が変わります。演出家にとっても、稽古が進めやすくなるという効果があります。それもこれも、自分が音楽にかかわる中でやってみたいことじゃないか――。そう気づいて、「好きなことが全部できる仕事だ」と思い、この世界に入りました。

生まれは秋田県の大仙市(旧・大曲市)というところです。秋田ではオペラ公演はありませんでしたが、幼なじみが声楽を習っていたので、あちこちで伴奏をする機会がありました。父はブラスバンド一筋の指導者で、母親は自宅でピアノ教室を開くピアノの先生。いわゆる音楽一家でしたが、大学に入ったころは、ピアノはあくまで趣味でした。アルバイト先のバーでピアノの前に座り、映画音楽やジャズの名曲に適当な伴奏をつけて弾いていました。大学では楽理科という音楽について研究する学科で、ピアノが専門というわけではありません。ただ、上石神井(東京都練馬区)にあった学生寮で同じ部屋だった声楽科の同期生に頼まれ、伴奏をしました。伴奏の経験を積む中で、オペラにはコレペティという仕事がある、ということを知ったのです。