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ストラディバリウス、ヴァイオリンの「王」の魅力 ZOZO前澤社長も購入

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(撮影:齋藤大輔)
(撮影:齋藤大輔)

10歳からストラディバリウスに触れた、天才音楽家

――ストラディバリウスについて、ざっくり教えてもらえますか。

中澤 ストラディバリウスは17~18世紀にアントニオ・ストラディバリというヴァイオリン職人によって製作された弦楽器の総称です。今は世界に600挺ほど存在しています。製作された年代によって「初期」「挑戦期」「黄金期」「晩年」の4つのカテゴリにわかれていて、それぞれフォルムがまったく違います。楽器として独特の「音色(おんしょく)」もあり、他の楽器とは一線を画す存在です。

――お二人はいつからお知り合いなんですか。

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ヴァイオリンへの情熱がほとばしる中澤さん(撮影:齋藤大輔)

中澤 3年、いや4年前かな?初めて会ったのは東京のサントリーホールで、彼の演奏会が行われた後でした。どうしても会いたくて、楽屋に突撃しました(笑)。マキシムさんは素晴らしい演奏家、音楽家であると同時に、楽器への愛や知識もすごく深いんです。ストラディバリウスといえば彼、というほどの人なんですよ。僕はもっと彼の音楽を多くの人に聞いてもらいたいと思っているんです。

マキシム 中澤さんのヴァイオリンへの愛には圧倒されます。日本でストラディバリウスを21挺も集めた展覧会、これは今まで世界で開かれたストラディバリウスの展覧会で2番めに大きい規模なんですが、それを開くというその情熱には敬意を評したいですね。

――マキシムさんはいつストラディバリウスに出会ったんでしょうか。

マキシム 実は僕が初めてストラディバリウスに触れたのは、10歳のときなんです。僕はシベリアの出身なんですが、コンクールで賞を取った時に、ロシアの財団が所有している小さいサイズのストラディバリウスを弾かせてもらえることになりました。

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2人のコミュニケーションは英語だが、マキシムさんは日本語の単語も知っている(撮影:齋藤大輔)

中澤 えっ、ストラディバリウスの子供用?すごくレアじゃないですか。

マキシム 多分世界に1挺しかない楽器だと思います。それを弾かせてもらえたというのは、とても光栄なことでした。でも実は、最初に音を出した時はギーギーとすごくひどい音が出て、びっくりしたんです。

楽器を知り、学び、適応する

中澤 それまでの楽器のようにはいかなかったということ?

マキシム そうなんです。それまでの楽器は「弾けば音が出る」っていう感じだったんだけど、ストラディバリウスに関しては、弾き方も変えて、試行錯誤して初めて弾きこなせるようになる、という感じでした。オーボエ奏者だった父に「楽器を知り、学び、対話しろ」と言われましたが、楽器というより、人とコミュニケーションを取っている感覚だなと思います。

僕はラッキーなことに、これまで50挺以上のストラディバリウスを弾く機会に恵まれましたが、いわゆる新しく作られた楽器とは違い、ストラディバリウスは本当に1挺1挺が違うんです。その都度、楽器と会話をしないといけません。

――マキシムさんご自身は、「クロイツァー」というストラディバリウスを所有していますね。

マキシム はい。1727年に製作されたものです。

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美術品としての価値も高いストラディバリウス「クロイツァー」(撮影:齋藤大輔)

中澤 ストラディバリウスには年代ごとにカテゴリが分かれていますが、この楽器は「黄金期」の末期に製作された素晴らしい楽器です。

マキシム オークションで購入した当初は、このヴァイオリンはすごく小さい音しか出なかったんです。購入してすぐに世界的チェリストのロストロポービッチ氏と競演する機会があったんですが、「その楽器、イケてないから買い替えたほうがいいよ」と言われてしまい……。もう人生をかけて、大金をはたいて手に入れた楽器なのに!と大ショックでした。

もともとヴァイオリンというのは、室内楽のために生まれた楽器だったので、そんなに大きな音が出るセッティングになっていなかったんです。次第にオーケストラなどの大編成、大きなコンサートホールで演奏されるようになって、楽器のセッティングなどもそれに合わせて変えていく必要が出てきました。だからこのヴァイオリンもチューニング、今の時代にあわせていく必要があると思って、まずは信頼するヴァイオリンメーカーに持ち込み、駒の位置や魂柱の位置などを細かく調整してもらいました。

あとは弓も、この楽器にあわせて作ってもらいました。世界的に有名な日本人の弓職人、笹野光昭さんにオーダーしました。すばらしい弓を作っていただきましたよ。

単なる楽器ではなく、チームのような存在

――楽器も時代に合わせるし、人も楽器に合わせていかなければ、ストラディバリウスの真の良さが引き出せない、ということでしょうか。

マキシム 普通の楽器は、車に例えるとオートマのセダンのようなもの。それに対して、ストラディバリウスはF1の車のようなものです。性能は素晴らしいけれど、いきなり乗れるわけではない。「素晴らしい音楽」「素晴らしい奏者」「最高のプレゼンテーション」「完璧にチューニングされたヴァイオリン」「素晴らしいコンサートホール」。この5つの要素が揃って、初めてストラディバリウスの本当の価値を感じることができるんです。

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あごあてもマキシムさん専用のセッティングだ(撮影:齋藤大輔)

中澤 単なる楽器ではなく、ストラディバリウスは「チーム」のような感じですよね。素晴らしいアート作品でもあるんですが、とかく日本では値段や希少さだけに話題が集まりがち。それをもっと変えていきたいと思っています。

素晴らしい音楽は人生を変える。もっと気軽に聞いてほしい

――マキシムさんから見て、日本の観客はどうですか。

マキシム 僕が初めて日本に来たのは、13歳のとき。それ以来数え切れないほど来ています。日本の観客は演奏中だけでなく、演奏の前後もすごく集中していて、聞く準備をして聞いてくれているなという印象があります。僕は音の鳴っていない、沈黙の部分も音楽の一部だと考えているんですが、それを一緒に作り上げられている感じがありますね。

――日本だとどうしても「クラシックって古い」「一部の人のもの」と思われがちですが…

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もっとたくさんの人に、音楽を聞く機会をもってほしいとマキシムさんは言う(撮影:齋藤大輔)

マキシム クラシック音楽は、本当は古いとか新しいとか関係ないところにあるはずなんです。素晴らしい音楽はどんな人の心も打ちます。聞く前の自分と聞いた後の自分が、全く違う人になっている、ということすらあり得ますから。彼の開催する展覧会も、きっと今までとは違う音楽の世界を開いてくれるものになると確信しています。

世界的にも珍しい規模の展覧会、今だけのチャンス

――展覧会が近づいてきましたが、どんなお気持ちですか。

中澤 正直、誰もやったことのない試みなので、試練も多いです。でもできるだけ不安要素をのぞいて、成功するように、素晴らしい時間を多くの人に過ごしてもらえるように、とにかく準備していくのみです。

今回は21挺のストラディバリウスを展示しますが、これだけの数のストラディバリウスがアジアに集まることはもうないかもしれません。見るだけではなく、音色に触れてもらうために、展示会の中で演奏会を行う時間も設けました。まさに、ストラディバリウスの魅力を五感で感じられる展覧会になっていると思います。ここに来てもらえれば、今までのクラシックやヴァイオリンへの考え方が180度変わるだろう、と思います。

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撮影中もずっと音楽の話をしていた2人。クラシックへの情熱は尽きない(撮影:齋藤大輔)

マキシム 中澤さんは本当にすごいことをやっているなと思います。ストラディバリウスの全てが解き明かされる展覧会だと思います。ストラディバリウスは魔術師と形容されることもありますが、その「魔法」を目の当たりにできるでしょう。僕は演奏会があって展覧会を見られないのが本当に残念です。

今の時代、みんなスマホを持っていて、コミュニケーションがインスタントになっています。ずっとメールの着信音に追いかけられて、来たメッセージに返信して、目の前のタスクをこなしていく、という状態に陥っている人が多い。何にも邪魔されず、深い思考を身につける時間が減っているなと感じます。コンサートは、数少ない「スマホから開放される時間」。だからこそ演奏会に足を運んでもらい、芸術に身を委ねて、感性を身につける時間を持ってほしいなと思います。