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ハノイの大気汚染は世界ワースト2位?

子連れで特派員@ベトナム 更新日: 公開日:
ダナンの人気スポット「ゴールデンブリッジ」=鈴木暁子撮影

鈴木です。6歳の長男(ポコ)と夫(おとっつあん)と一緒にベトナム北部ハノイで暮らしながら新聞記者をしています。今回はハノイの空気についての話です。

今年のゴールデンウィークは10連休、みなさんも旅行など楽しんでいるでしょうか。

ベトナムに住む私も4月初旬、ハノイから飛行機で1時間ほどの中部ダナンに家族と旅行に行った。何度も行ったことのある町だが、今回はある目的があった。だいぶ前から話題になっている橋の写真を撮ることだ。

その橋の名は「ゴールデンブリッジ」。ダナン空港から車で30分ほど離れたバナビルズという観光施設内に2018年にできた。まるで巨大な手が橋を支えているような、ぞくぞくっとする造形がSNSなどで世界中に拡散し、観光客に大人気のスポットになっている。訪ねた日も韓国やインドネシアから来た人たちでにぎわっていた。

インドネシアからのご一行が記念撮影をしていました。韓国の人も多い、一方日本人はこの日、ほとんど見なかった=鈴木暁子撮影

ゴールデンブリッジは山の上にあるため、ケーブルカーで上っていく。眼下に緑を見下ろしながら、すがすがしい風を感じてとても気持ちがいい。この日は、バナビルズからさらに車で20分ほどのところにある温泉施設にも行った。ポコが大好きなプールのほか、裸になって入る日本式の「ONSEN」もある。硫黄のようなにおいのする本格的なお湯で、とてもリフレッシュできた。

ダナンにある温泉施設。緑屋根の建物の中に日本式の「ONSEN」もある=鈴木暁子撮影

この旅の最中、何度か、「ああ、久しぶりだなあ」という、いいにおいをかいだ。森の中にいるような木々のにおい、深呼吸したくなるようなさわやかなにおいだ。住まいのあるハノイでは、このにおいはなかなかかげない。ハノイではたくさんのバイクが道を行き交うからか、空気がほこりっぽい。冬場は、大半の日はどんよりと曇っていて、夜空にも星はほとんどみえない。ベトナムのお正月にあたる2月のテト(旧正月)のとき星が6個見えてびっくりした。工場やバイクの動きが止まり、空気がきれいだったのかもしれない。

空気の悪さはよく話題になる。ポコが通う学校でも大気の状態を日々チェックしており、「空気が悪いため今日は外遊びはやめましょう」という日がたびたびある。私が子どもの頃、日本でも排ガスや紫外線の化学反応による「光化学スモッグ」注意報がよく出ていたのを思い出した。ハノイに住む日本人に聞くと、ぜんそくや、アレルギーの悪化に悩まされる人もいるようだ。ポコも最近、風邪でもないのにケホケホとせきをするので心配している。北欧出身のポコのクラスメートの一家は、「空気のよいところで育てたい」と、ダナンに近い中部ホイアンに引っ越しを決めた。

もやなのか汚染なのか、もやもやしたハノイの空=鈴木暁子撮影

それもこれも、大気汚染の影響なのだろうか。2016年に、世界の環境調査をするNPOが「ハノイの大気汚染度は世界ワースト2位」という結果を発表し、ベトナムで大きな話題になった。今年3月に発表されたデータでは、ハノイは1㎥あたりに含まれるPM2.5(工場の煙や排ガスなどからつくられる微小粒子状物質)の値が世界の首都の中で12番目に多く、ジャカルタに次ぎ東南アジアでは2番目の汚染度という。この発表にベトナム当局は反発、「データが不十分だ」と批判している。ちなみに首都でワースト1位はインドのデリーで、東京は46位だった。

大きな湖があるホータイ地区の空も、夏が来る前はこんなふうにどんよりしていることが多い=鈴木暁子撮影

ハノイの大気汚染は、世界的に見てそれほど深刻なのだろうか。専門家に話を聴きに行った。「データが不十分な中で世界でワースト2位と評価するのは言い過ぎだと思います」というのは、JICA専門家として日本の環境省からハノイに出向している山崎寿之さん(43)だ。2016年から、ベトナム政府に環境政策などのアドバイスをしている。PM10などを指す浮遊粒子状物質濃度の年平均値をみると、今のハノイは、限られた情報ではあるものの日本の1990年代前半ごろと同じぐらいのレベルなのだそうだ。公害が大きな問題だった70年代の日本ぐらいかと想像していたが、そこまで悪くないのだ。「曇っていてもすべて排ガスやスモッグによるとは限りません。冬の日本海側のように、天気が曇っているということもあると思います」と山崎さんは話す。

「ベトナムの大気汚染が世界ワースト2位は言い過ぎ。天気の影響もある」と話すJICA専門員の山崎寿之さん=鈴木暁子撮影

データを見せてもらうと、ハノイでは二酸化硫黄(SO2)や二酸化窒素(NO2)などの濃度は環境基準の範囲内におさまっている。工業団地が市中心部から離れた場所にあることから、工場の煙による大気汚染は大きな問題にはなっていないことが推測できるそうだ。一方、基準値を超過している物質は、PM10やさらに小さいPM2.5を含む「粉じん」だ。ここから推測できるのは、新しいマンションやビルの建設、古い建物の取り壊しなど、ハノイの建設現場の砂ぼこりが空気を汚す大きな理由になっているということ。最大都市ホーチミンと比べてもハノイの沿道の粉じんは多い。古い建物の立て替えがあちこちで進む影響が大気にも表れているといえる。ちなみに、粉じんやNOx(窒素酸化物)の値がぐっと上がるのは朝7時前後と夕方で、通勤通学や帰宅時間と重なる。バイクと車の影響も大きそうだ。月別にみると秋冬に値が高くなるのは、収穫後の稲わらなどを野焼きする家が多いから。ハノイの冬がどんよりしている理由の一つ、かもしれない。

布製のマスクをつけてバイクに乗る女性。PM2.5対策にはならない?=鈴木暁子撮影

空気の悪さから、ベトナムの人が最近「これでいいのかな」と気にし始めているものがある。マスクだ。ベトナムでは布製のマスクが一般的で、多くの人が布マスクをつけてバイクで走っている。花粉症シーズンに日本で重宝される、「細かい花粉も通さない!」といった高機能マスクはほとんど見かけない。

PM2.5は布マスクを通過してしまうほど微細なため、「体を守るには意味がない」と、ベトナムメディアも話題にし始めた。大気汚染対策で、高機能マスクがベトナムで大ヒットする日も近いかもしれない。