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オーストラリアのシェアハウスで英語を学ぶ 日本人の担当者が語る「5カ条」

バイリンガルの作り方~移民社会・豪州より~ 更新日: 公開日:
シェアハウスの一例。共用のダイニング・リビングスペースがあるのが一般的だ

ワンルームで週5万円 家賃高いシドニー中心部

シドニー中心部のセントラル駅の周辺には、壁と壁を隣り合わせにして住宅や事務所、店舗の建物が並ぶ通りが続く。通りの中ほどにある二階建ての建物の玄関から続く明るい廊下を抜けると、テレビのあるダイニング兼リビングがある。留学生たちが暮らすシェアハウスの一つだ。

ここは1人部屋が2室、2人用の相部屋が3室、3人部屋が1人の間取り。家賃は週150豪ドル~260豪ドル(約1万2千~2万1千円)で、キッチンやバスルームは共用だ。現地の不動産情報サイトによると、シドニー中心部でアパートやマンションを借りようとすれば、1ベッドルームのタイプで、週650豪ドル(約5万2千円)前後もするのが普通。値段が手頃なシェアハウスは、若者たちにとっては欠かせない存在だ。ダイニングにいたヨ・スンフンさん(22)は韓国人留学生。ここからシドニー大学に通っているという。

シェアハウスはどんなものか見てみたいとお願いして、ここを案内してくれたのは、地元の不動産業者の日本人向けの担当者、渡辺真理さん(26)。シドニーに住む日本人がよく利用する日本人向けの情報サイト「日豪プレスや、「Jams.TV」の住まい探しの欄で、「Mari」の名前で物件紹介をしている。実は、渡辺さん自身もシェアハウスで暮らしている。 

日本人向けのシェアハウスを紹介する渡辺真理さん。自身もシェアハウスに住む

渡辺さんは大学卒業後、大阪で2年ほど勤めたクレジットカード会社を辞め、ワーキングホリデー(ワーホリ)でシドニーにやってきた。2017年10月のことだ。

英語力を上達させるのが、第一の目的だった。ワーホリの場合、学校に通えるのは4カ月までと決まっているので、最初の4カ月は英語学校に通った。選んだのは、スピーキング、リスニング、ライティング、リーディングのそれぞれの技能で、レベル別に分かれてクラスを取れる学校。渡豪前に自分で見つけて、その学校の入学手続きを手配してくれる日本の業者を探したほど、やる気があった。

この業者が、シドニーに来て最初の4週間分の滞在先として、ホームステイも手配してくれていた。でも、「想像していたホームステイとは違った」。学校のあるシドニー中心部からはバスで1時間以上もかかる場所にあり、帰宅時間がこの家庭の夕食時間に間に合わない。家族との会話の時間があまり持てなかった。苦痛で、契約期間を1週間残し、3週間でステイ先を出た。その後に移ったのは、中心部のシェアハウスだった。

その後、これまで、日本に一時帰国するタイミングなどでシェアハウスを変えてきた。契約期間が短期間でも大丈夫なのが、シェアハウスの特徴のひとつで、渡辺さんの現在の滞在先は4カ所目になる。女性と男性の3人部屋が一つずつと、1人部屋が一つの間取りで、日本人は渡辺さんだけで、あとは韓国と香港から来た若者たちだという。

「最初は、シェアハウスに英語の上達を求めていなかった」と渡辺さん。学校に近くて交通費がかからず、手頃な家賃で住めれば、英語は英語学校の友達と話して鍛えればよいと思っていた。でも、シェアハウスに暮らしてみて、その良さに気づいたと語る。昨年6月からは、シェアハウスを紹介する不動産業者の日本人担当者としても働き始め、これまでの成約件数は、150人分にもなる。

1年間のワーホリビザが切れた後は、学生ビザに切り替えて、昨年10月末から英語学校ではなく、ビジネス学校に通っている。顧客の満足度をどう測るか、市場調査はどうするのか、そんなテーマで英語でレポートを出す。「1年半前には全く想像していなかった」というレベルまでになった英語力のベースには、シェアハウスでの経験が生きている。渡辺さんが語るその魅力をまとめてみると――

訪れたシェアハウスの入り口

「教える」ことでも学ぶ

・英語しか通じない環境に身を置ける

 「日本人が少ない環境ならば、英語が話せないと確実に困ります。最初のシェアハウスでは、豪州での滞在歴が長くて英語のうまい韓国人の学生がいたので、できるだけ彼と話しました。彼は英語が苦手な人に教えて、誤りを直してあげて、その人の英語がうまくなるところをみたい、というような人でした」

・学校の友人よりいっしょに出かけやすく、相談もしやすい

「普段からよく会うシェアメートだと悩み事も相談しやすいです。学校で会った韓国人男性との恋愛での悩みを、韓国人男性のシェアメートに相談したことがあります。それを英語で話すのは難しかったけれど、韓国人の男性がどう思うのかを知りたかったんですよね」 

・シェアメートに刺激を受ける

「シェアハウスで英語がすんなり上手に話せている人を見て、悔しいと思ったから、私が頑張れていると思います。上手に話せていいなあ、というのではなくて、こういう人になりたい、これ以上に話したいというのが強かったですね」

「一方で、日本人は英語を勉強しないと、とまじめに視野が狭くなりがちのように感じます。でも、身近なシェアメートには、生活を充実させて楽しんで、言葉も学んで、という人がいました。そんな前向きな人に影響を受けています」

・自分が「教える」立場にも

 「滞在が1年を超えてくると、反対に英語を話せない人と話すことが多くなっていきます。英語をどう話すかわからない人がいたとき、相手の母語を調べて、これは英語でこういうんだよ、と教えてあげたり、英語学校の宿題を教えてあげたり。最初、英語ができなかったとき、自分はこういうことを教えてもらったなあ、ということを今、自分が実践しています。自分がしてもらったことを誰かにする時間ですね。辞書で調べてもいいけど、私が教えてあげると。そのことで私も勉強になるし、コミュニケーションが取れます」

「シェアハウスを紹介する担当者としても、日本人の方たちに、同じように接しています。wifiが使えなくなったとか、トイレが流れにくくなったとか、日常生活の困りごとを『英語でどういいますか』と聞いてくる人がいます。そんなときは、トイレが流れるというのはflush という単語を使うよ、というくらいまで伝えます。完全に翻訳してしまわないで、英語に挑戦してもらう機会を奪わないようにしたいんです」

 ・友人関係は広がり、続く

「シェアハウスで出会った友人で、その後も日常生活で連絡を取る人はかなりいます。とくに1カ所目のシェアハウスは、韓国、フランス、ドイツ、中国など、いろんな所から来た人たちが頻繁に入れ替わりました。今でもグループチャットで連絡を取り合ったり、会ったりしています」

「滞在が長くなればなるほど、いろんな人と出会う機会が少なくなりがち。でも、シェアハウスは、入居者の回転が良くも悪くも早いので、いろんな人々と出会えます」 

シドニー市内でシェアハウスに住む留学生たちに聞くと、渡辺さんの話と重なる。

冒頭のシェアハウスに暮らす韓国人のヨさんは、シェアメートの「先生役」にもなれる存在だ。ヨさんは、大学で留学生向けの英語を鍛える「基礎コース」に1年半通い、その後、経済学の専攻に進んで1年半になる。ヨさんも今のシェアハウスが4カ所目。流暢に英語を話し、「シェアハウスに住むのは家賃が安いから。英語を勉強するのが目的じゃない」と言うが、「日本人のシェアメートは僕とは英語で話してほしい。可能なら自分が教えることもできる」と話す。

訪れたシェアハウスで暮らす韓国人留学生のヨ・スンフンさん

ヨさんは、韓国の高校時代に学んだ日本語も話すので、それを知った日本人の中には日本語が話しかけてくる人がいるという。でも、そんなときは英語を話すように勧める。「豪州で生きていくのには、英語を上達させないといけないと思うから」

 キッチンやダイニングで会話を鍛える

神奈川県出身の石田萌絵さん(32)は、渡辺さんがシェアハウスを紹介した日本人の一人。海外旅行が好きで、外国でも英語で意思疎通ができるようになりたいと、昨年11月にワーホリでシドニーにやってきた。今、住んでいるのは、女性の4人部屋、男性の4人部屋という構成のシェアハウスだ。

ワーキングホリデーでシドニーに暮らす石田萌絵さん。渡辺さんにシェアハウスを紹介してもらった

女性部屋は、石田さんを含めて全員日本人。石田さんは、英語学校の宿題を自分の部屋ではなく、ダイニングの共用スペースでしていた。すると、英語の上手なコロンビア人の男性のシェアメートと日々、会話をするようになった。

男性はキッチンで料理をしていても「今日これからどうするの」、「英語学校の後は、どんな仕事をするの」などと尋ねてくる。「最初は何を言っているかわからなかったけれど、だいぶわかるようになり、少しずつ英語でコミュニケーションが取れるようになってきている。やっぱり英語が上達するには話すのが一番だと思う」と話す。シェアハウスでは、週末にみんなで食事を作っていっしょに食べる、といった機会もあるという。 

シェアハウスには、オーナーが住む家の部屋を間借りする、とういう形態もある。シドニー大大学院に通う中国人のグロリアさん(24)は、フィリピン系の家主が住む家の部屋に8カ月ほど住んでいたことがある。

話し好きな家主で、「私が帰ってくると、大学生活や買い物の様子など毎日、尋ねてきました」と振り返る。フィリピン人のなまりの強い英語で、「最初の3カ月は彼女が何を話しているのかわからず、何度も聞き返した。彼女が最後には身ぶりも交えてやっと理解したこともあります」と振り返る。移民社会の豪州では、いろいろな英語が飛び交うが、「今のシェアメートのフィリピン人の英語は、かなりわかりますよ」と笑う。

渡辺さんによると、シェアハウスの紹介を依頼する日本人には、「英語ができないから絶対日本人がいるところを」と頼む人もいれば、英語の経験がそれなりあって「日本人ゼロの場所を」と希望する人もいる。

「日本人がいるところを」と言われて希望の場所を紹介したが、ルームメートの日本人がすぐにそこから引っ越してしまった。でも、その後に入ってきた韓国人と仲良くなって、そのまま別の場所のシェアハウスを探している、といったケースもあった。「そんなふうに、出会いを通じて紹介した人が変わった、というところを見るのもうれしいですね」

      ◇

職業カレッジに英語学校、シェアハウス。この連載では年明けから、大人が学ぶ英語を紹介してきました、次回は、まさに「移民社会ならでは」と言える大人向けの英語教育の様子を紹介する予定です。