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30代、40代でも遅くない 豪州の大人向け英語学校で学ぶ(後編)

バイリンガルの作り方~移民社会・豪州より~ 更新日: 公開日:
クラスメートとランチをする本多ひとみさん(左奥から2人目の座っている女性)。最近は会話に割って入ることができるようになったという=シドニー、2018年12月上旬、本人提供

シドニーの大人向けの英語学校、グリーンウィッチ(Greenwich)英語カレッジ。メルボルンのキャンパスと合わせて1400人を数える留学生たちには、社会人経験を積んだうえで、やってくる人たちも少なくありません。今回はそんな二人のケースを紹介します。

外国航空会社のCAを目指して

2018年6月末から留学を始めた本多ひとみさん(31)は、日本の航空会社の元客室乗務員(CA)だ。もともと留学が夢で、CAになって外国の航空会社で働きたい、という目標もできたことで、大学を卒業して8年ほど働いた会社を辞めてやってきた。日本の航空会社でも、外国人の乗客に英語で対応することは珍しくなかったが、「わーっと話されるとよくわからないことがよくあった」という。

本多ひとみさん。外国の航空会社のCAを目指すして英語力に磨きをかける

グリーンウィッチ校に決めたのは、外資系企業の就職で必要なことが多いケンブリッジ検定の対策に強い、と聞いたことと、留学生が様々な国々から来ている、という環境から。留学費用は働いてためた貯蓄から出している。年間の学費は約150万円。これとは別に、生活費用もかかる。

昨年10月末、留学して4カ月ほどだった本多さんに最初にインタビューした当時は、一般英語の中上級、上級のコースを1カ月ずつこなし、ビジネス英語コースで1カ月、そして、ケンブリッジ検定コースで学んでいるところだった。

英語は日本で学んだことしかなかった本多さん。最初の一般英語コースで「文法用語などは当然、英語で、adjective(形容詞)、adverb(副詞)、などという。そこについて行くのが大変で苦労した」と話した。

その後、ビジネス英語コースで学んだ。前回紹介したように、ペアやグループで、実際のビジネスを想定してリサーチをし、資料をまとめ、クラスでプレゼンをした。そのとき、「ほとんど緊張することなく話せた」ことが人前で話す自信を生んでいた。

質問に英語で答えてもらった。

――日本の航空会社のCAとして搭乗していたとき、英語での困ることはありましたか?

”Yes, especially when some irregular things happen, we need to communicate with foreign customers, and we need to explain what's happened. But I didn't know the specific word for aviation, so sometimes it's difficult to explain what I want to say to them, and they didn't understand me, and they became frustrated, so that was very difficult situation. ”
(はい。いつもと違うことが起きたときに、外国人の乗客にも何が起きたのかを説明する必要がありますが、特定の航空用語には知らないものもあって、説明するのが難しく、乗客も理解してくれずに、いらいらした様子を見せました。難しい状況でした)

――この学校で学ぶことは、将来に役立つと思いますか

” Yeah I think it's really useful and helpful, because in here it's not just learning English, I can learn about the cultural differences, and the differences between the intonation or accent. If I work for foreign airline in the future, I think there is many multicultural onboard so I need to get used to different accents, so I think it's very useful for me. ”
(はい。本当に役に立ちます。というのも、英語を学んでいるだけでなく、(留学生の)文化の違いや発音の違いも学べるからです。もし、将来、外国の航空会社で働くなら、多文化な機内で働くことになるでしょうし、違ったアクセントに慣れておく必要があるでしょう)

しっかりとした答えが、すらすらと返ってきた。だが、満足している様子はなかった。

本多さんは留学前に知り合った豪州人のボーイフレンドを暮らしている。「彼は2人で話すときにはわかりやすく話してくれる。でも、彼の両親と話すとわからない。豪州人同士で話しているのを聞くのは、耳が慣れていません」

毎朝、豪州の民放のニュース番組を見るようにしていて、気になった話題は夜、彼に振ってみて、話してみたりしているとも。「ハローウィンで若者がクスリのやり過ぎで搬送された話とか」。昨年8月にあった豪州の首相交代劇についても話題にしたという。

「学校で正しい英語を学んで、実生活でアウトプットすることが大切だと思う」と語った。

グリーンウィッチ英語カレッジのシドニー校。パソコンや自習ができる共用スペースを備える=同校提供

「日本人らしさ」を脱するには

それから4カ月あまり。3月に英語学習の現状を尋ねた。

学校ではその後、ケンブリッジ検定や国際英語検定、IELTS(アイエルツ)の上級コースを受講。高いレベルの語彙や文法を学んでいた。

クラス内で発言することには、全く抵抗がなくなり、誰かが話していても会話に割って入ることができるようになったという。「自分の考えを、理由やたとえも加えながら伝えられるようになった。海外でのよくない意味での日本人らしさから脱することができた」と振り返った。

朝のニュース番組を見る日課は続けている。「最近はおおむね内容を理解して、わからない単語や表現に気がついて、新しい知識につなげることになっています」
買い物のときにも店員と会話を楽しめるようになった。プールに泳ぎに行ったとき、お年寄りから、かなりくせの強いオージー英語で話しかけられたが、わからないときはわからないと伝えながらも、泳ぎ方の話や近くの海の話など会話を楽しめたという。

「この4カ月は、コミュニケーション力の伸びが大きかった。いかに自分の言いたいことを相手に伝えて、会話に入って行くか、楽しくとにかく話してみる。それでどんな場面での会話にも抵抗がなくなりました」

いろいろな家族行事に誘われて、月に1、2度は合っているというボーイフレンドの家族との交流も、いい経験になっている。彼の両親の英語はまだ、すべては聞き取れませんが、以前よりは慣れてきたという。

そこで会う小学生の彼の姪二人は、何げなく本多さんの日本人の英語のアクセントをまねして指摘したり、何度聞き返してもまったく気にせずに同じスピードで話しかけたりしてくる。「脳トレにもなり、とても癒やされます」
留学自体は、予定通り1年で区切りを付ける予定。その後は「外資系CAとして働くことは、英語学習の私の最大のモチベーション」で、転職の機会を探っていくつもりだという。

ボーイフレンドの実家で、彼のめい2人にお化粧をしてあげる本多ひとみさん。小さな2人とのやりとりも英語の上達に生かされ、癒やしにもなっているそうだ=2018年8月下旬、豪南東部ウーロンゴン、本人提供

40代で始めた英語留学

この連載で前回紹介したビジネス英語コースで積極的な発言が目立ったのが、イルカイ・シギルさん(44)だ。ドイツでは、企業の会計マネジャーなどとして働いてきた。でも、「とても忙しくて、疲れていた」。そんなとき、英語留学をしようと思いついた。トルコ移民の家庭に生まれ、ドイツ語とトルコ語ができるシギルさんだが、「英語をうまくなりたい、という以前からの夢だった」という。

最初は米国行きを考えた。でも、2017年にトランプ政権になってから、米国は中東からの人々を歓迎していないと感じた。ほかの英語圏の国々を見て、温暖な気候のシドニーを選び、17年9月にやってきた。

グリーンウィッチ校でまず取ったのは、一般英語のコースだ。「英語とドイツ語は似ているところがあるので、話すのは、そこそこできた。でも、ライティングと文法が全然だめだった。リスニングもテストになったら、わからなかった」

すでに40代。「若いクラスメートは単語がすーっと頭に入っていくように見える。でも、私は、何度も何度も見ないと覚えられない。なかなか大変です。18歳じゃないから。でも、よい挑戦です。脳みそにいいですよ」と笑う。

ドイツから留学したイルカイ・シギルさん。40代からの留学生だ=いずれもシドニーのグリーンウィッチ英語カレッジ、小暮哲夫撮影

必要なのは「大志と決意」

ビジネス英語のコースを取るだけでなく、さらに、週1日、グリーンウィッチ系列のビジネスカレッジでも、ビジネスの学位も取ろうと学び始めた。一方で、シドニーの宝飾品店でアルバイトもして、実社会で英語を使う経験も積んでいる。豪州では、学生ビザでも週20時間までなら働けるのだ。

ここまで熱心なのは、「英語が流暢になりたい」という思いが強いだけでなく、留学経験を生かして、また、ビジネスウーマンとして働きたい、という思いがあるからだという。すでに、英語の履歴書も作ってある。「留学に来るなら、大志と決意を持ってこないとだめだと思う」とシギルさん。そして、こうも付け加えた。「さらなる目標や夢は、スペイン語も勉強することです」

そんなシギルさんが、リスニングを鍛えるのに役に立っている、と話したのは、シェアハウスだ。最初は、アパートで一人暮らしをしていたが、家賃が高いので移った。インタビューしたときのシェアメートは、メルボルン出身の豪州人と、ブラジル人、ドイツ人。「いっしょに食事もできるし、話もできる。ひとりぼっちにならないので、おすすめです」

なるほど、中高生を中心に若い留学生たちにとって、現地の家庭にホームステイをして暮らして家でも英語漬けになる、という経験が英語上達のかぎにもなっている。でも、大人になってからは、シェアハウスという選択肢があるのではないか。

次回はシェアハウスの経験を紹介してみたい。