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アフリカで泳ぎを学び、解放の瞬間を知った

世界報道写真展から――その瞬間、私は 更新日: 公開日:
アンナ・ボイアジス(Anna Boyiazis)

生まれて初めて水中に顔を沈めた女子生徒たちは恐怖におびえ、表情は引きつっていた。水泳コーチ、チェマ(17)の指導を受けて、トマトソースの空の容器を胸に抱えて仰向けに。体が海面に浮かび上がると、表情は次第に穏やかに、そして自信と喜びに変わっていった。

アフリカ東海岸のインド洋上に浮かぶザンジバル諸島。周囲はターコイズブルーの海に囲まれているのに、女性たちは泳ぎ方を知らずに暮らしてきた。イスラム教の教えに従い、女性が肌を出して泳ぐことが禁じられていたためだ。日常の足に使っている船が転覆すれば溺れる危険もあるが、大人たちは昔から少女たちには泳ぎ方を習わせなかった。

米国人の女性写真家アンナ・ボイアジス(52)が初めてザンジバルに行ったのは2014年。水に慣れ親しんでいたボイアジスは、少女たちが泳がないことに驚いた。地元のNGOが数年前から、少女たちに全身を覆う水着を提供して、泳ぎ方を教え始めたことも耳にした。

2年後、撮影を申し込むために再びザンジバルに赴いた。撮影を嫌う地元の理解を得るため、4週間かけて信頼づくりから始めた。次の2週間を泳ぎの指導者に英語を教えることに費やし、さらに1週間はカメラを持たずに水に一緒に入った。「少女たちが解き放たれていく瞬間を目撃している実感がありました」

腰から胸まで水につかりながらの撮影だったが、「あまりの気持ち良さに、潜水しないよう気をつけた」と笑う。「泳ぎを学ぶ機会は、女性たちが解放されるための貴重な第一歩になります。彼女たちが目の前にある壁に挑戦し、自らの権利を手にするきっかけになるのです」

Anna Boyiazis©Jean Krikorian

水泳と教育

アフリカでは公教育で子どもたちに水泳を教えない国が多く、水泳はあまり普及していない。世界保健機関によると、2015年に世界で水死した約36万人の人口当たりの比率では、アフリカ地域が最も高かった。「パンジェ」(地元の言葉で「大きな魚」の意)と呼ばれるザンジバル諸島(タンザニア)のNGOの事業では、水泳を楽しんでもらうだけではなく、命を守るための水難救助訓練も実施している。

日本は今では水泳が広く普及しているが、50年前はプールがある学校は珍しかった。その後急速に設置が進んで、スポーツ庁の15年の統計では、プールのある小学校は8割近くに上っている。日本水泳連盟は水泳選手の育成に力を入れるとともに、命を守るスポーツとして「国民皆泳」を目指している。

■「世界報道写真展から」は月1回配信。次回は5月11日配信予定です