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シンガポール人もびっくり! 日本人が作る本場の味のミーポック(後編)

アジアで働く 更新日: 公開日:
ランチタイムには近くの会社で働くサラリーマンが多く訪れる。貴重な休憩時間を使って行列に並ぶのも「おいしいから仕方ない」=守真弓撮影

(前編はこちら

2014年9月。エリックさんがミーポックの作り方を習うことが決まってから6カ月間の間、直次さんは定食屋をみどりさんにまかせ、無給で隣にあるエリックさんの屋台での修行を始めた。当初は午前5時から12時間、ただエリックさんの作業を観察した。作業を理解すると豚のラードを揚げた「ポークオイル」作りや椎茸の煮付け、チリソースなど、少しずつ仕込み作業を手伝わせてもらえるようになった。シンガポール人同士でも明かさないレシピは「3度は言わないからな」と言いながら、口頭で伝えてくれた。

同僚同士でランチタイムを楽しむ人々=守真弓撮影

何より教えられたのは技の「魅せ方」。麺の湯切りをするときの動作を大きく、キレよくすることや、タレをすくったおたまをボールに置くときに派手に「カーン」と音をさせること。麺の量は「もうちょっと食べたい」と思ってもらえるよう満腹になる一歩手前の90グラム。「おいしく見せるため、おいしく感じてもらうためにはどうするか。小さいけど重要な知恵も一緒に教えられました」

3カ月ほどすると忙しい時間にも任されるようになった。エリックさんの店は夕方で閉店してしまう。そこで直次さんはエリックさんにかけあって夜間は自分一人で営業をさせてもらえるまでになった。

煮込んだしいたけが乗った「マッシュルーム・ミンスド・ミート・ヌードル」も人気商品だ=守真弓撮影

そんな頃、家族の事情でいったん日本に帰っていた直次さんにエリックさんから突然、電話がかかってきた。「直次が店を継いでみてくれないか」。屋台街の運営者と喧嘩をしてしまい、契約更新ができなくなってしまったのだという。すぐにシンガポールに戻り、2014年11月にアホーミーポックを引き継いだ。

最初の1カ月、エリックさんは毎日一緒に店頭に立ち、常連客に栗原さんを後継にすることを伝え、英語のまだ苦手だった栗原さんを紹介してくれた。「なぜ日本人に?」と問いかけた客には「こいつは日本人でも俺のブラザーなんだ」と一人ひとりに説明。そのおかげで7割ほどの常連客はとどまった。

引き継ぎから3カ月後のある日、突然、地元紙「ニューペーパー」にほぼ1面すべてを使って栗原さんのミーポックを紹介する記事が大きく掲載された。実はエリックさんから説明をうけた常連客の一人が偶然、地元の大手メディアグループの幹部だったのだ。記事で取り上げられたことで一躍、時の店となった。

みどりさんは中国語も堪能。次々と客の注文をさばいていく=守真弓撮影

シンガポールから世界へ

以来、次々に別の新聞やテレビも取材に訪れ、今では店は「日本人のミーポック屋」としてシンガポール中で知られる。平日も行列は途切れることがなく週末や休日には400食以上が売れる。2年ほど前から、独自の醤油と味噌という「日本風味」もメニューに導入。今では半分近くの客が醤油や味噌味を注文する。「自分たちで作っているとおいしいかわからなくなる」とみどりさんは笑うが、約9割がシンガポール人という客からは絶大な人気だ。

「最初に話題になったのはメディアの力かもしれないが人気が続くのは味の力だろう。正統なシンガポールの味に日本流のこまやかなサービスが素晴らしい」と初めて店を訪れたタクシー運転手のサム・イウさん(35)はいう。

ランチタイムを過ぎて周囲の店が閑散とする中、栗原ミーポックの前には行列が続く=守真弓撮影

朝は6時から仕込みを始め、7時前に開店。開店と同時に客が待っていることも多く、日中は行列が途切れない。夜9時に閉店するまでほぼ立ちっぱなしの作業が続く。「よく栗原さんがうらやましいって言われるけど、じゃあやってみる?って言いたいです」と直次さんは笑う。直次さんは野球、みどりさんはソフトボールと2人とも学生時代からスポーツで鍛えたからこそ重労働にも耐えられているという。屋台を始めたばかりの時には半分に落ち込んだ年収は今、ちょうどサラリーマン時代と同じくらいに戻った。「体は本当にきついけど、それでもお客さんから『おいしい』と言われるとやっぱり屋台をやってよかったと思います」。

2人は11月、東京・落合に新店舗「アリーミーポック」を出店した。いずれ豚骨味など新たな味を提供することも考えている。「シンガポールで学び、日本流にアレンジしてきた味が日本でどう評価されるのかが楽しみです」と直次さん。今後はカンボジアに進出することも計画している。

シンガポール人もびっくり! 日本人が作る本場の味のミーポック(前編)もどうぞ