道行く人がにこにこ、そわそわしている。中国の春節と同じく、ベトナムは今年、2月5日に旧正月「テト」を祝う。これを書いている2月初旬は、楽しいお正月へのカウントダウンのまっただなかだ。ハノイの通りでは、ピンク色の花をつけた桃の木が売られ、ミカンの木をバイクに乗せて持ち帰る人の姿をあちこちで見かける。かんきつ類は、ベトナム語の発音が「吉」という言葉と似ている縁起物という。ホテルや店の前に置かれた大きなミカンの木は、「Chúc mừng năm mới(新年おめでとう)」と書いた赤や金の紙で飾られ、ベトナムのクリスマスツリーみたいだ。日本のいのしし年は、ベトナムでは豚年。空港にも豚さんの飾りがあった。
ベトナムの人たちは、季節ごとの習慣や風習をとても大事にする。年の暮れにあたる1月末、ハノイ支局の同僚のビンさんは、いそいそとお世話になった方へのお礼の品を用意していた。日本でいう「お歳暮」だ。よくみると、贈り物の洋酒が、なぜか空港の免税店のビニールに入ったまま贈答用の紙袋にいれられている。「この免税の袋、とらないの?」と聞くと、わざと免税の袋に入れたまま渡すのだという。「外国で買った正真正銘の洋酒だとわかるでしょ」
というのも、ベトナムでは、にせものの洋酒の密売が問題になっているからだ。例えば2016年1月の現地紙トイチェによると、美しい箱入りの高級ウイスキー「ロイヤルサルート38」の偽物を5本運んでいた男が、南部ホーチミンで逮捕された。洗ったロイヤルサルートの空き瓶に、値段の安いウイスキーを入れ、約300ドル相当で売っていたという。男の自宅には様々なブランドの偽のラベルやボトルがみつかったそうだ。今年1月にも、「シーバスリーガル」などを600本以上トラックで運んでいた男のことが報じられた。
それでは、身元の確かな贈り物用の洋酒はどこで買うのかというと、航空会社で働く知り合いの客室乗務員に頼むのだ。毎日のように仕事でどこかの国に飛んでいる彼らなら、空港の免税店で一定量を手に入れられるだろう。「空港で見てみて、彼女たち、大量の荷物を持っているから」。なるほど、さぞかし良いサイドビジネスに違いない。
さて、我が家では、贈り物をたくさんいただくことはめったにない。日本からのお客さんにお土産をいただくことはあっても、ポコが大喜びしてすぐに「これ誰の?これなに?」とびりびり開けてしまう。仮に航空会社の人に洋酒を買ってもらうことがあっても、ポコの目の届かないところに置かないとすぐに袋から出されてしまうだろう。ベトナム風に、手さげカゴに輸入食品がいっぱい入ったギフトをいただいたときは、ポコはひととおり中身を開けたあと、かごを腕にかけ、おばあさんのところにお届けものをする「赤ずきんちゃんごっこ」をして遊んでいた。のんきなものである。
ベトナムの日本語情報誌「ベッター」には、最近ではオーガニック食品をお歳暮や自宅用に買う人が増えているという新聞記事が紹介されていた。これはまさにベトナムのトレンドで、最近は減農薬・有機野菜を売る店が急増している。というのも、路面で売られる果物には成長を促進したり甘みを出したりするための「薬品」が使われている、といった内容がテレビなどでよく報じられているからだ。新年の飾りに使うミカンの木も、「危険だから実は食べちゃだめよ」なんて、ベトナムの人に注意される。豊かな人が増え、食べるものにさらに気を遣うようになっているのだ。
ベトナムで「安全」を売りにした野菜づくりにとりくむ日本の人もいる。ありがたいことに、日本製品への信頼度が高いベトナムでは、食品を売る日本企業にとってもまだまだ商機があるのではないだろうか。