「飛行機より安いし、乗り心地も快適ですよ」。昨年末、ケニアにいる知人から、首都ナイロビと南東部のモンバサを結ぶ長距離鉄道の評判を聞いた。
鉄道が開通したのは2017年。近年、アフリカ各国への進出を図っている中国が融資・建設を担った一大プロジェクトだった。乗り心地はどんなものなのか? 自ら体験しようと、モンバサまで電車旅に出かけてみることにした。
長距離鉄道の発着点となるナイロビ駅は、中心部から車で30分ほどの場所にある。駅に着くと、まずは金属検知器による身体チェック。それが終わると、荷物を床に置いて、訓練された犬が不審物がないか嗅いでいった。
構内に入る際にもQRコード付きのチケットとパスポートを見せ、さらに空港と同じように荷物をX線に通す。なかなかの厳重さだ。ケニア人助手が「遅くても出発1時間前には駅に着く必要があるよ」と言っていた理由が分かった。
座席は1等と2等席に分かれており、私は出発前日に人生で初となる1等席を購入していた。値段は3千ケニアシリング(1シリング=約1円)。座席は二人掛けで、窓側の席の足元にはコンセントも備わっていた。現地用のプラグさえあれば携帯電話などの充電も可能だ。
2等席は3×3で向かい合う席と2×2で向かい合う席に分かれていて、値段は1千シリング。一人旅でも、話し好きの人なら地元の乗客と仲良くなれるチャンスかもしれない。
目的地のモンバサまでは5時間弱の道のり。私が乗った電車は、時間通りに出発した。平日の昼間の便だったが、1、2等席ともに7、8割方が埋まっていた。車両内にはケニアと中国の国旗も描かれていた。
肝心の乗り心地はと言うと、悪くない。むしろ、予想以上に快適だった。スピードはさほど出ていないが、日本の特急電車に乗っているような印象だ。持参したお菓子をつまみながら、パソコンを広げて仕事を片付けた。1等席では紅茶のサービスもあり、気分転換もできた。
出発からしばらくすると、「ゾウなどの動物が見られます」と車内アナウンスが流れた。電車は国立公園を横断しており、進行方向左側にゾウの群れが見えてきた。線路の脇に柵があるので、間近に見られる訳ではないが、30分あまりで見られたのは60頭以上。バファローやシマウマなども確認できた。
電車は予定時刻通りにモンバサ駅に到着。普段、何事も遅れがちの「アフリカ時間」に慣れている私には新鮮だった。
翌日、私は東アフリカ最大のモンバサ港を訪れた。日本の有償資金協力を活用し、東洋建設(本社・東京)がコンテナターミナルなどを建設している現場を見学するためだ。
同社は、バース20、21と呼ばれる新ターミナルを2016年に完成させた。現在はバース22の拡張作業に入っている。事務所で迎え入れてくれた同社の吉田治生・モンバサ作業所長は「新ターミナルの建設で大型船も入港できるようになり、貨物量も増えた」と胸を張った。
国際協力機構(JICA)は新たなターミナル建設のため、最大約320億円の円借款をケニア港湾公社に供与。港周辺の道路も日本による有償資金協力で整備が進んでいる。
私がモンバサで乗ったタクシーの運転手は「橋も道路も港も、日本が整備してくれている。本当に感謝しているよ」と語った。
近場のビーチも訪れてみた。ワイシャツに革靴姿だったが、ケニア随一のリゾート地であるモンバサのビーチを一目見ておきたかったのだ。公共の海水浴場に着くと、透き通った海の色以上に、いるはずのない動物に目を奪われた。ラクダだ。浜辺で欧米の観光客らを乗せていた。
めったにない機会なのでラクダの写真を撮ろうとしたが、「写真代をくれ」とせがまれた。仕方ないので、300シリングを渡す。実際に浜辺をラクダに乗って歩く場合は、1千シリングかかるらしい。
公共の海水浴場は、声かけが激しい。不釣り合いの格好をしている私にでさえ、「ボートに乗ろう」と誘ってくる。中には、怪しげな誘いもあった。
そんな誘いを一蹴し、私はナイロビに戻ることにした。復路は片道約1時間の飛行機を選択。長距離鉄道に比べて値段は倍以上したが、やはり移動時間で4時間も差があるのは大きい。次にモンバサに行くときも、飛行機を選んでしまいそうだ。