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ついに目を覚ますか? 眠れる漁業大国ロシア

迷宮ロシアをさまよう
ロシア極東ウラジオストクの市場の様子。港町だけあって、海産物が豊富(撮影:服部倫卓)
ロシア極東ウラジオストクの市場の様子。港町だけあって、海産物が豊富(撮影:服部倫卓)

ロシア漁業の復活

世界各国の水産物の水揚げ量を比較したウェブサイトによれば、2016年のロシアの水揚げ量は495万トンで、これは日本をわずかに上回り、世界第6位だったということです。しかし、現在のところロシアが漁業のポテンシャルをフルに発揮しているとは、まだ言えないでしょう。

というのも、ソ連末期の1980年代後半には、当時のロシア共和国の水揚げ量は800万トンを超えており、世界第3位の漁業大国だったからです。ところが、ソ連崩壊後にロシアの漁業は混乱状態に陥ります(むろん、混乱は漁業だけではありませんでしたが)。最悪期の2004年には水揚げ量が306万トンにまで落ち込み、世界順位も12位に落ちてしまいました。

それでも、この2004年を境に、ロシアの漁業は回復に転じました。ロシアの漁業部門においては、かつては漁獲割当の分配が場当たり的で、汚職もはびこっていました。それが、2004年に新たな漁業法が制定され、漁獲割当が事業者の実績を踏まえて長期ベースで分配されるようになり、それにより安定的な事業が可能になったと指摘されています。

過去10年間で見ると、ロシア水産業の水揚げ量は1.5倍に、売上高は5倍になったということです。なお、売上高の伸びが特に大きいのは、ロシアの水産業では輸出の比率が大きいので(生産の約半分が輸出されている)、この間の自国通貨安でルーブル換算の売上高が大きく膨らんだ結果でしょう。

ロシア統計局の発表値にもとづき、近年のロシアによる水産物の水揚げ量をまとめると、下図のようになります(なお、出所が異なるので、上掲のウェブサイトの数字とは微妙な齟齬があります)。ロシア経済全般は波が大きかったり停滞傾向が目立ったりするのですけど、漁業はほぼ順調に生産を伸ばしていることが見て取れます。

もう一つ重要なポイントは、図に示されているとおり、ロシアの水揚げ量の6~7割は太平洋におけるもので、つまりはロシア極東地域が漁業の中心になっているということです。ロシアは、これまでは人口や経済力が圧倒的に西部に偏重していたわけですが、今後は東部を開発して発展著しいアジア・太平洋諸国との関係を強化していきたいと、プーチン政権は考えています。ロシアがこの戦略を追求していく上で、水産業は有力な武器になるはずです。当然、日本とロシアの関係でも、水産業は柱の一つとなります。

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いまだに課題も多く

このように、水揚量という量的な指標ではだいぶ盛り返してきたロシア水産業ですが、課題も山積みです。ルーブル安もあり、漁業者が輸出で大きな収益を挙げているにもかかわらず、漁船の更新や加工業の発展が進んでいないという問題が指摘されています。

特に、上述のとおりロシアの水産業では輸出の比率が大きいのですけど、輸出の中身があまりにも単純であることが、問題視されています。水産物輸出の実に87.3%が、未加工の冷凍魚によって占められています(2017年、数量ベース)。「フィレ」と呼ばれる三枚の状態に処理された商品の比率は、5.1%にすぎません。ロシアから中国に未加工のスケトウダラ等が輸出され、それが中国の工場でフィレにされ、中国から欧州市場にフィレが輸出されるというパターンがあります。ロシアとしては、自国でフィレへの処理を行うことは最低限の課題ですし、理想を言えば、より高い加工度の完成製品に仕上げた上で輸出することが望まれます。

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ウラジオストクの市場に開設されていたドブロフロート社の直売所(撮影:服部倫卓)

ウラジオストクの市場で素敵な商品に出会う

ロシア極東の街ウラジオストクでは、海沿いの広場に、市場が開設されています。市場と言っても、卸売市場ではなく、市民が買い物をするマルシェのようなものです。さすがウラジオストクは港町だけあって、市場では海産物が豊富であり、この街ならではだなと感心させられます。

冒頭に掲げた写真は、今年5月に撮影したものです。写っているのはボタンエビで、ボタンエビがロシアでも「ボタン」という呼び名だということは、恥ずかしながら初めて知りました。1キロ600~750ルーブルとなっており、日本円に換算すると1,000円ちょっと。日本ならボタンエビはキロ数千円はすると思うので、非常にお手頃です。ただ、旅行者が市場で大量にボタンエビを買っても、その場で食べるわけにもいきませんし、日本に持って帰るのも困難です。

「せっかく目の前に魅力的な海産物が並んでいるのに、買えないのは残念だな」と思っていたところ、非常に良いものを見付けました。「ドブロフロート」という現地の缶詰会社が直売所を出店しており、自社製品を販売していたのです。しかも、なかなか洒落た商品であり、詰め合わせなどもありました。これは、現地の味覚をお土産として日本に持ち帰るのに最適だろうということで、缶詰の詰め合わせを1つ買うことにしました。値段は確か500ルーブルでしたので、日本円で800円程度になります。

詰め合わせの中身は、サンマ×2味、サバ、イワシ、海藻サラダの計5缶でした(缶詰のサイズは日本の一般的な魚缶詰の1.5倍くらいありそう)。これを、下の写真の右側に写っている筒のようなものに入れ、それをさらに左側のバッグにも入れてくれました。缶詰自体のデザインも洗練されており、日本でも立派な「贈答品」として成立しそうなレベルです。帰国後に実際に缶詰を食べてみたところ、臭みや味の癖などもなく、大変美味しくいただけました。

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ドブロフロートの魚缶詰の詰め合わせ(撮影:服部倫卓)

海に浮かぶ缶詰工場

ところで、くだんの缶詰を食べる前に、改めてパッケージをしげしげと眺めてみたところ、ラベルに「メイド・イン・ロシア」ならぬ「メイド・イン・シー」の旨が誇らしげに表記されているのに気付きました。え? 海で生産? ということは、蟹工船よろしく、海上の船で缶詰を生産しているのでしょうか? 気になったので、ドブロフロートのHPで確認してみると、実際にそうでした。フセボロド・シビルツェフ号という立派な船で、缶詰が洋上生産されているということです。

このフセボロド・シビルツェフ号自体は普段は港に寄港せず、運搬船で物資をこの船に運び込んだり、出来た缶詰を陸地に出荷しているということです。全長179.2メートル、総員600名、1日の生産量700トンを誇り、年間9ヵ月も洋上で生産に従事するとのこと。陸地ではなく洋上で生産するのは、おそらく、魚の鮮度を重視しているからでしょう。日本ならば冷凍の技術や設備が充実しているので、冷凍された魚を原料に缶詰を生産するパターンもあると思うのですが、もしかしたらロシアはそのあたりが弱く、洋上で缶詰を生産した方が品質を保てるのかもしれません。

いずれにせよ、ドブロフロート(ちなみに帝政ロシア時代の1911年創業だそうです)の商品は、日本でも充分に通用するレベルだと感じました。最近の日本ではサバ缶が人気で、高騰や品薄が続いていますので、もしかしたらドブロフロートの商品を日本に輸出する可能性もあるのではないかと期待したくなります。しかも、必ずしも安さだけに訴求する必要はなく、このパッケージの質感なら、意外と高級スーパーなどでも行けそうな気がします。