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ホワイトハウスが薄暗いのは、トランプ大統領のせい!?

ホワイトハウスへ猛ダッシュ
ギリシャ独立記念日を祝し行われた式典で演説するトランプ大統領。招待客の多くがトランプ大統領の写真やビデオを撮影しようと携帯をかざした。
ギリシャ独立記念日を祝し行われた式典で演説するトランプ大統領。招待客の多くがトランプ大統領の写真やビデオを撮影しようと携帯をかざした。

今日も私は走っている。猛ダッシュでゴールする先は、いつものホワイトハウス。

……のはずが、今日は違った。着いてみると、会見があるイーストルームは薄暗い。ついているのはシャンデリアだけ。金色の分厚いカーテンが強い日差しを遮断し、エアコンがきいた室内は肌寒く、不気味な雰囲気さえ感じられた。そこで目に入ったのは、なぜか電光部分が紙で覆われたいつもの照明器具2台。「今日は一体どうなってるんだ?」とあちこちで質問が飛び交う。そしてあの紙は一体……

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中間選挙の翌日(2018年11月7日)にホワイトハウスで行われたトランプ大統領の単独記者会見。後ろにはイーストルームに繋がる廊下のシャンデリアとピンクの照明が見える。

写真にとって照明はとても重要な要素だ。ホワイトハウスではほとんどの場合、ストロボをたいてはいけない暗黙のルールが存在する。撮られる方は眩しく気が散り、撮る側にとっても互いの露光量に影響が出てしまうためだ。シャンデリアのような間接照明は光量が足りず、ピンクや黄色が強調されてしまう。式典や会見はそもそも「見せる」ために行われるため、特に室内のイベントでは照明器具が準備されていて当然だった。

真相を探るべくホワイトハウスに長年勤めるテレビのカメラマンらに聞いたところ、謎が解けた。犯人はなんと!いや、やはり……トランプ大統領だった。

数ヶ月前のこと。ホワイトハウス内ではいつものように代表取材が行われていた。その時ホワイトハウスの照明係が間違って、強すぎる照明を大統領に当ててしまった。そこで大統領が、「眩しくて何も見えない!照明を消してくれ!」と言った。その時周囲にいたカメラマンたちは、「あんな光を当てられたら失明してしまうよ」と呆れ、大統領が消せというのも仕方がないほどの強い光だったと説明してくれた。だが、この小さなアクシデントをきっかけに、突如「照明なし」という新ルールが発足してしまったのだ。

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8月20日にホワイトハウスで行われた国境警備に関するイベントで、薄暗い中演説するトランプ大統領を携帯で撮影する招待客。携帯の画面だけが明るく光る。

そんな事情を知らずに、ある日突然、公式行事から照明が消えた時は戸惑ったが、まさかこれがずっと続くとは思いもよらなかった。謎の紙は「照明がまぶしい」と言ったボスのために、なんとか光を調節しようとする原始的な試みだったのだ。だが、紙で覆わずにスイッチで調整できないものか?という疑問がどうしても残った。

そもそもホワイトハウスの照明担当はプロではないのか?眩しい照明は消さずに調節すれば済むのでは?そして、テレビ局の照明担当(こちらは正真正銘のプロ)がなんとかできないのか?

―――まず、ホワイトハウスの照明係はプロではない。もともとは、大手テレビ局が交代で照明を担当していたが、経費の関係で、ホワイトハウスが自前でまかなった方が安上がりということになり、ブッシュ政権の時にホワイトハウスが照明を引き受けることとなった。確かに、オバマ前大統領も「こんなに照明眩しかったっけ?」と笑いながら言ったことがあった。大統領が演説するステージよりもなぜか客席の方が明るいこともあった。このような小さなハプニングが起こりながらも、今までは、照明のプロではない担当者たちがなんとかやってきたのだろう。

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2013年1月11日、ホワイトハウスで行われた、アフガニスタンのカーザイ大統領(当時)との共同記者会見で記者からの質問に答えるオバマ大統領。顔の左方向から照明が当てられているのがわかる。

では、今、何が違うか。トランプ大統領のマネージメントスタイルなのかもしれない、と多くのカメラマンは言う。軍隊形式のホワイトハウスは、大統領が照明を消せと言えば、「イエス、サーッ!」と言って即座に従う。ボスの一声で全てが変わるのだ。ちなみに、カメラマンらは、これまでに50回は、照明をなんとかしてくれとホワイトハウス側に頼んできたが、聞き入れてもらえなかったそうだ。

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中間選挙の翌日(2018年11月7日)にホワイトハウスで行われたトランプ大統領の単独記者会見。CNNのアコスタ記者と激しいやり取りをしたのがこの時。

7月、最高裁判事の指名発表がイーストルームで行われた。フォトグラファーの間では、ホワイトハウス側ができるだけ多くの観衆に見せたいイベント(ゴールデンタイムの中継)なのだから、さすがに今日はきちんとした照明に戻るはずだと囁かれていた。だが中に入ると、そこはまた薄暗闇だった。シャンデンリアが放つ黄色い光の中で、頬をピンクに染めたカバノー氏は最高裁判事の指名を受けた。

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大統領から最高裁判事に正式指名され演説するカバノー氏(右)。壇上ではトランプ大統領(写真中央)とカバノー氏の家族が見守った。

そして転機が訪れた……かのように見えたのが8月20日。米税関国境警備局の職員を招き開かれたイベント。最初の90分は討論会だった。なんと今日は覆う紙無しで、いつもの照明器具が、俺の出番だと言わんばかりに光を放っている!安堵の瞬間だった。

討論会が無事終了し、いよいよトランプ大統領登場5分前。2つあった照明の一つが、突然消えた。停電時のように会場がざわつく。すると、数分後、消えた照明が元に戻った。ホッとし、大統領登場に備えカメラを構えると、今度は2つとも一気にバチっと消えた。まじか……この時、照明は消えたのではなく、「消された」のだった。カメラマンやフォトグラファーが一斉にカメラの調整を始める。後ろのカメラマンからは、「我らの愛する大統領、やってくれるぜ」と、ため息交じりの皮肉が聞こえる。

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8月20日にホワイトハウスで行われた国境警備に関するイベントで、照明が落とされた直後に登場したトランプ大統領

照明も含め、全ての「演出」を決めるのはホワイトハウス側だが、見せ方にこだわる大統領本人の意向が毎回見え隠れしている。決断の経緯や理由が明かされることはない。明るくても暗くても、撮るしかない。前回、ホットドッグ(縦長の配置)やハンバーガー(横長の配置)について説明したが、ホットドッグだろうが、ハンバーガーだろうが、出されたものを文句なしで食べるしかない。しかも早食いしないと、全てがなくなってしまう。置かれた環境の中で、できる限りの工夫をして自分なりの写真を撮る。これがホワイトハウスで撮影するということでもある。

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中間選挙の翌日(2018年11月7日)にホワイトハウスで行われたトランプ大統領の単独記者会見。多くの記者が一斉に手を挙げ大統領に質問しようとし、会見は約90分にも及んだ。

大きな式典や記者会見は今もなお、豪華な、しかし薄暗いイーストルームの空間で、ひっそりと行われている。