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小学校で英語必修、その先は 韓国、指導する側の模索

グローバル教育考
「ソウル英語村スユキャンプ」は、木々の緑の中、建物が点在する=ソウル市郊外
「ソウル英語村スユキャンプ」は、木々の緑の中、建物が点在する=ソウル市郊外

前回は、韓国が先駆けとなって、日本でもブームを迎えつつある「英語村」とその役割について考えてみた。韓国では、小学校の英語について、1,2年の課外授業を廃止するなどの動きがある。その一方、話す力、書く力をつけるため、大学入試を変える必要も指摘されている。

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さて、ソウルの英語村に行った翌日、政府系の独立調査研究機関である韓国教育課程評価院(KICE)をたずねた。KICEは、教育課程の調査や評価、韓国の大学入試のための統一試験「大学修学能力試験」も運営・実施、教科書の認定なども行っている。元々は政府直轄の機関だったが、1998年に政府が出資する形でエージェンシー化されている。

ソウルから約120キロ、山林や農村しかみえない田舎道を車で走っていくと、突然、ビルやマンション群があらわれた。首都機能分散の中で、政府系機関の地方移転が進んでいるのだという。

真新しいKICEのビルで、英語教育のカリキュラム作りにかかわってきたチン・ギョンエ上級研究員に会った。米ピッツバーク大で英語教育学の博士を取得し、韓国外国語大学の教授を務めたこともある人物だ。

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韓国教育課程評価院のチン・ギョンエ上級研究員。「話す力と書く力が必要だと感じている」=山脇岳志撮影

まず聞いたのは、今年3月から、小学校1,2年の英語の課外授業が廃止になったという点だ。日本では2020年度に、小学校3年から英語が必修化され、5、6年生で正式の「教科」として成績がつく。韓国はすでに1997年度から小3以上で必修化されている。さらに、公立の幼稚園や小学校1、2年生に対しても、希望者には放課後、学校に講師を招く形で英語の課外授業が行われてきた。だが、英語の早期教育があまりに過熱し、幼児や児童の負担になっているなどの判断から、韓国の教育省は、英語の課外学習を廃止する方針を打ち出した。これに対して、英語教育に力を入れたい保護者の間からは反発も広がっている。

ギョンエさんは「小学校1、2年から英語を正式の教科にしようという議論は以前からあるが、母国語の習得に影響を与えるという憂慮があり、慎重に考えてきた。実験校での調査では、小学校1,2年から英語を学べば、英語力の向上という側面では効果があらわれた。しかし、母国語は、確信できるレベルではないが、影響がないとはいえないという結論だった」と話した。

母国語をしっかり固めるのと、英語の早期の習得、どちらを優先すべきなのか。両方をやることが可能なのか。限られた学校の学習時間の中での時間の配分を考えるとき、この問題に突き当たる。

韓国人の選択式でリーディングとリスニングの力をはかるTOEICの点数が大幅に伸びていることについては、「英語の能力とサラリーの高さには関係があるという研究結果があるので、成功をおさめている傾向にはあると思う。一部の英語が仕事で必要な人だけが勉強すればよいという考え方もあるが、みんなが英語を学ぶ機会を与えられるべきだというのが我々の立場だ」という。

一方で、TOEICの点数は伸びても、「英語を実際に使えない人が多い」という批判をぶつけてみた。
「企業が採用をする際に、その点数を目安として使っているが、副作用がある。スピーキングとライティングの実力を伸ばすのではなく、図書館にこもって筆記試験の勉強に明け暮れている。スピーキングやライティングの力を伸ばすため、大学入試を変えようとしたが、塾などの私教育がさらに過熱するという批判があって、中断している」と話した。

修学能力試験は約60万人が受ける大規模な試験のため、スピーキングやライティングを測る試験にするのが難しいという。そのため、学校の教師の内申評価の中で、話す力、書く力の比重を上げて対応しているのだという。だが、大学入試を変えないと、根本的な変化にはつながらないという考えを示した。

日本では2020年度の大学入試から、スピーキングやライティングの能力を測るために英語の民間試験を導入することが決まっている。この日本の新しい動きについて、韓国の大学入試にかかわってきたギョンエさんは関心があるようだった。

元教育相 教師の養成方法を見直すべき

前回のこのコラムで、カリスマ予備校講師から、教育評論家に転身したイ・ボムさんを取り上げた。イ・ボムさんは、現在の与党のシンクタンクの幹部を務め、ソウル市の教育行政にもアドバイスをするなど、「進歩系」の人物である。

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教育評論家のイ・ボムさん=ソウル市教育庁で

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保守系の教育関係者はどう考えているのかにも関心があった。ギョンエさんの取材のあとソウル市に戻って訪ねたのは、韓国政府の元教育相イ・ジュホさんだ。

英語が堪能で、教育の国際的な動向にも詳しい。米コーネル大で博士号(経済学)を取り、研究機関、国会議員などを経て、2010年から13年まで教育相を務めた。現在は、KDIスクール(大学院)の教授である。

イ・ジュホさんに、韓国人のTOEICの点数は伸びてきたが、必ずしも使える英語になっていないという見方についてたずねると、問題を認めつつ、「英語だけでなく、韓国の教育全体に問題がある」と話す。

「日本も含め、東アジア全体にいえることだが、試験、暗記、講義中心の教育になってしまっている。(生徒が能動的に学ぶ)プロジェクトベース(課題解決型)中心にすべきだ」という。

このあたりの認識は、党派を超え、イ・ボムさんと重なり合う。ただ、入試制度が障害になったり、教師が従来の授業のやり方を踏襲するために、プロジェクト型の授業は、なかなか実現しないという。

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元教育相のイ・ジュホさん。「英語だけでなく、韓国の教育全体に問題がある」=山脇岳志撮影

イ・ジュホさんは、教育相のときに、大学の入試制度の部分的な変革を行い、60ほどの大学が、それまでの成績だけの採用ではなく、学生のクラブ活動や推薦などで選抜できる仕組みを取り入れたという。だが、授業のやり方が変わらないので、全体的な変革に結びつかなかったという。

入試制度を変えるだけでなく、教師の育成方法から見直す必要があるとイ・ジュホさんは熱く語った。「OECDの報告書にも書かれているが、教師は学習環境のデザイナーであるべき。みんな違っている子供たちに同じ授業を与えるのではなく、それぞれの子供たちに合った最適な学習経験を与える必要がある。そのためには、教師にはカリキュラムを自由にデザインする力量が求められる」

AI(人工知能)が発達していく現代、知識を教えることに意味が乏しくなるため、教師によるカリキュラムや授業の「デザイン力」が大きく問われる時代になるとみる。

そのためには、米国のロースクールやメディカルスクールのように、学部卒業者を対象者とする専門職養成大学院を設立し、そこで3年間学んで修士課程を終えた人が教師になるような仕組みの段階的な導入を訴える。学部では理系も含めさまざまな分野で専門知識を学んだあと、プロジェクトベースで教えられる教師となるための専門的な教育訓練を受けた人が教師になるのが望ましいという。大学院でコースを取ったあと、1~2年の長期にわたり、「見習い教師」として現場に出るという構想だ。

韓国で公立の中学や高校の教師になるには、大学で教職課程などを履修したのち、全国で統一的な試験に合格しなければならない。その試験の合格には大量の暗記が必要だという。先生が生徒に教える授業を暗記型から脱皮させるには、まず教師が暗記型の試験を受けなくてもすむような仕組みにすべきだとの発想がある。

「この改革を、教育相のときにやっておけば良かった」といいつつ、イ・ジュホさんはこの構想を粘り強く訴えていきたいという。

プロジェクトベースで効果的に教えていくことは、口で言うほど簡単ではない。教科書に沿って一定の知識を与えていくより、むしろ難しい面がある。AI時代に、これからの教師はどういった力が求められ、教員養成はどうあるべきなのか。韓国に限らず、世界中が直面する大きな課題であり、この連載コラムの中でも考えていきたい。