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パレスチナ問題は忘れられたのか イラン対応で中東亀裂、かつての「連帯」どこへ

World Now
分離壁のそばを歩く母子=パレスチナ自治区ベツレヘム

大使館移転にもアラブ諸国「沈黙」

かつてパレスチナといえば、その解放がアラブ世界共通の大義で、アラブ連帯の象徴だった。しかし存在感を高めたイランをめぐって中東の亀裂が強まるなか、パレスチナ問題はかすんでいる。

それが白日の下にさらされたのが5月、米国がイスラエル大使館を、テルアビブからエルサレムに移転したときだった。パレスチナでは激しい抗議活動が起きたが、アラブ諸国は非難するだけで、目立った行動は起こさなかった。

「誰も助けてくれませんでした。私たちは取り残されたんです」。ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ラマラの繁華街で声をかけると、大学4年のアラア・アッシェイフ(22)はやるせない思いをはき出した。「パレスチナ問題は取るに足らない問題になってしまったんです」

パレスチナ問題は取るに足らない問題になってしまった=アラア・アッシェイフ(大学生)

日々の暮らしは高さ8メートルの分離壁に分断され、移動もままならない。「どんどん息苦しくなっています」と両手で首を絞めるしぐさを見せた。許可が得られず、わずか20キロ先のエルサレムに行ったことすらない。「エルサレムには本当に、本当に、本当に行ってみたいんです」と何度も首を振った。「でもダメです。夢なんですけれど」

分離壁の前でタクシーに乗る母子=パレスチナ自治区ベツレヘム

深まる分断、失われる理解の機会

イスラエル人も、パレスチナ側が警察権を持つラマラなどには許可なく行くことはできない。ラマラとエルサレムの間にあるカランディア検問所には、「イスラエル市民は立ち入り禁止。生命の危険があり、イスラエルの法律違反」と書かれた看板が立っていた。エルサレムに住む弁護士ガリ・ゼハビ(31)もラマラを訪ねたことがない。「話をしなければどんどん敵対的になっていくばかり。壁で分断がますます深まっています」。お互いを理解する機会を失ったまま、相互不信と経済格差が再生産されていく。

エルサレムからパレスチナ自治区ラマラ方面への検問所。「イスラエル市民は立ち入り禁止。生命の危険がある」との看板があった
パレスチナ自治区ラマラに行ったことがない弁護士ガリ・ゼハビ=エルサレム

パレスチナ政策調査センター所長のハリル・シカキ(65)は、「アラブ諸国はイラン問題が最優先で、もはや頼りにならないという考え方が増えている」と指摘する。パレスチナ問題を国際社会に訴えることへのあきらめが広がることで、「暴力が唯一の方法と信じる道に逆戻りし、将来に非常に深刻な結果をもたらしかねない」。周囲を封鎖されて「天井のない監獄」と呼ばれるガザ地区では3月末から、イスラエルや米国への抗議デモで170人以上が死亡した。

パレスチナ政策調査センター所長ハリル・シカキ