1. HOME
  2. LifeStyle
  3. グリッシーニ 移民スタッフが伸ばすイタリアの「伝統」

グリッシーニ 移民スタッフが伸ばすイタリアの「伝統」

イタリアでパンに恋して
細く切られた生地を指でつまんでのばす。トーゴ出身のイズマイルさん(左)が丁寧に等間隔に並べていた=河原田慎一撮影

グリッシーニ@トリノ

日本で最もおなじみのイタリアパン、といえば何だろう?そう考えたときに、私は真っ先にグリッシーニを思い出した。そう、イタリア料理店に行くと必ずと言っていいほど出てくる、袋入りの細長いプリッツのようなあれだ。パンのイメージとは離れているが、グリッシーニも立派なパンの一種。フランス国境に近い北部のトリノの名産だという。

日本でもあれだけ出回っているのだから、毎日何万本というグリッシーニが製造されているのだろう。今回は巨大なグリッシーニ工場に行こうかな、と思ったが、イタリア人に聞くと、「グリッシーニは工場でできた製品だけじゃない」と言う。トリノの街角にあるフォルナイオ(パン工房)では、手作りのグリッシーニを毎朝焼いているそうだ。

でも、あんなパキパキ割れやすいものを手作りするって大変なんじゃないだろうか?そもそもそんなに売れる物なのか?と、失礼なことを考えつつ、トリノに向かった。

トリノの中心街にあるパン店「ペリーノ・ヴェスコ」

訪れたパン屋「ペリーノ・ヴェスコ」の店舗に入ってすぐ、自分の不明を恥じた。グリッシーニが積み上げられているが、これは自分が今まで見てきたグリッシーニではない。あのストローのような細いものではなく、ドラムのスティック(ばち)ぐらいの太さがあり、長さも50㌢ぐらいで存在感がある。しかも店員に聞くと、グリッシーニと似た「ルバタ」という棒状のパンのほか、グリッシーニにもオリーブオイル入りとオイルなし、と細かく分かれているという。

棚に積み上げられたグリッシーニやルバタ

「手で延ばすグリッシーニは、トリノの伝統の技です。我々は、技術を磨くだけでなく、こうした歴史を持った労働をしているのです」。店主のアンドレア・ペリーノさん(42)が、そう胸を張った。ペリーノさんの工房では、「人間の体に悪い物を使わず、昔ながらの伝統の味」がモットーだ。店ではペリーノさんがアカデミー(教室)も開いていて、粉の種類からパン作りまでを教えている。グリッシーニに使うのは、「F2」と分類される小麦粉だ。イタリアでは、精白の度合いによって「F00」から「F2」まで分かれている。F2は精白の度合いが少ない分、「穀物の栄養分がより多く残っていて、昔の味に近い」のだそうだ。ペリーノさんは「F00の精白には化学的な工程が加わるので使わない」とも説明してくれた。

店舗の裏の工房に回ると、パン作りのスタッフが手際よく、小さくカットされたグリッシーニの生地を指でつまんでのばしていた。この店の特徴は、製造スタッフに移民が多いことだ。製菓部門も含め、23人の製造スタッフのうち、イタリアにやってきた移民は8人。出身国もトーゴ、アルバニア、アフガニスタンなど様々だ。

アジアやアフリカなど、様々な国出身の移民スタッフが、パン作りの技術を学んでいる=河原田慎一撮影

グリッシーニを焼いていたアチャ・アブドゥル・ラシッドさん(32)は、ガーナからリビアを経由し、地中海を渡って来た移民だ。たどり着いたスウェーデンではチラシ配りなどの仕事をしたが、生活は苦しかった。7年前に知人の紹介で、この店にやってきた。パン作りの仕事を覚えて、妻の待つガーナに帰るのが夢だ。「ガーナにもピーナツが入った、グリッシーニに近いパンがあるから、食べてくれると思う。この仕事のすべてが気に入っている」と話した。

パン屋の朝は早い。同店では午前3時から作業が始まる。「早起きがつらくてやりたくない、という人が多い中、彼らは勤勉で前向き」。イタリアでは移民排斥を訴える政党が政権を握り、移民に対する視線は厳しくなる一方だが、ペリーノさんは「正式な契約をした労働者であり、移民が仕事で成功するところを、トリノの人たちに見せたい」と言う。

ラシッドさんがオーブンから取り出した、焼きたてのグリッシーニを食べてみた。工場でできた袋入りのものとまず違うのは、食感だ。表面はややざらざらしており、パキッと折れるものの、内部の食感と小麦の風味がしっかりと残る。1本食べると、しっかりとした食べ応えがある。生ハムを巻いてオードブルにしたり、肉料理に添えたり。手で握りつぶすと簡単にパン粉になるため、揚げ物の衣に使うこともできる。

焼き上がったグリッシーニ

このような特殊な形のパンになったのはなぜだろう?一説には、かつてトリノを治めていたサヴォイア王国の皇子ヴィットリオ・アメデーオ2世が病弱で、宮廷の医者がパン職人のアントニオ・ブルネーロに「長くて軽く、細い」パンを作らせたのが始まり、とされる。ペリーノさんによると「皇子はパンの柔らかいところを食べなかったので、中身が一切ないパンを考えた。それが人気を呼び、みんなが作るようになった」のだそうだ。材料は粉と水、塩、酵母。生地にオリーブオイルを混ぜるものと混ぜない物があり、伝統的なのは油なし。よりパキッと折れて軽い食感で、今も油なしの方が人気だという。

ペリーノさんは、若者の食生活を心配する1人だ。「クラッカーやラスクがあふれ、ハンバーガーに親しむ世代に、体にいいものを取ることの大切さを伝えたい。『おいしくて健康になれる』ものを提供するためには、伝統的な技を守るだけでなく、新しいものもリサーチしていかないと」と話す。

グリッシーニの作り方

【材料】

小麦粉(F2と呼ばれる、精白度合いが少なめの粉を使う) 400グラム

水 150グラム

酵母 15グラム

塩 適量

モルト(麦芽糖) 適量

オリーブオイル(伝統的な製法では入れない。オイルなしのものはより軽い食感になる)適量

 【作り方】

材料を混ぜてまとめ、家庭ではぬれたふきんをかけて二倍ぐらいの大きさになるまで寝かせる。細く切った生地を両手の指でつまんで伸ばし、長さ50センチ、直径1センチほどの棒状にする。この時生地をつまんでのばさずに、板の上で転がしてのばすと食感が変わり、「ルバタ」と呼ばれる種類のパンになる。「ルバタ」とは、ピエモンテ方言で「丸める、転がす」という意味。のばした生地をオーブンで焼いてできあがり。生地にごまをまぜた種類もある。

トリノのパン店「ペリーノ・ヴェスコ」では1日に25キロのグリッシーニをつくる。取材に訪れた日は、本数にすると1248本だった。